赤本映画みましたぜ!
原作のセリフがそのまま出てくると、非っ常にトキメキました。
泥沼副委員長はあのまま立ち直れない気がする……そこが、救いのあった三船ちゃんとの違いかしら。
院長室の口頭審問シーンが変わっているという話だったので少々心配だったのですが、一番のキモは変わってなかったので安心しました。
さて、アレはアレ、コレはコレ。
「道化師の慟哭」の将軍サイド、「勝利者の~」の続きになります。説明がズルズル長くなってる……。
ちょうど今、「長いタイトル付けたい病」が襲来してるようです。前回の「傷ついて~」もそんなカンジ。
原作のセリフがそのまま出てくると、非っ常にトキメキました。
泥沼副委員長はあのまま立ち直れない気がする……そこが、救いのあった三船ちゃんとの違いかしら。
院長室の口頭審問シーンが変わっているという話だったので少々心配だったのですが、一番のキモは変わってなかったので安心しました。
さて、アレはアレ、コレはコレ。
「道化師の慟哭」の将軍サイド、「勝利者の~」の続きになります。説明がズルズル長くなってる……。
ちょうど今、「長いタイトル付けたい病」が襲来してるようです。前回の「傷ついて~」もそんなカンジ。
あんな顔は知らない。
柔らかな笑顔、緩く笑んだ瞳。
島津の耳元に翳された指が不思議と可愛くて、隠された口元を想像すると妙に色っぽい。
あんな田口は知らない。
「…………何だよ、それ」
その瞬間の感情を言うなら「悔しい」だろう。
何で島津ばかりがあんな田口を見て、どうして自分には見えないのだろう。
どうして自分には、あんな顔では笑わないのだろう。
それが酷く悔しいと速水は思った。
彦根が、レモン果汁をめいっぱい搾ったビールを飲み干して自慢げにジョッキを振り上げるのに、速水は「はいはい」といい加減な返事をした。
目はずっと田口を追っていた。
「よお」
田口のアパートの前に立っている速水を見つけ、田口は背中を強張らせた。
あからさまな緊張が伝わってくる。田口の目は、速水と下宿のドアの間で行ったり来たりを繰り返した。
速水は観察間違いを認めた。
全然、今まで通りじゃなかった。
田口は酷く、必要以上に緊張している。感情が顔から読めないのは、表情を繕っているからか。
ますます苛立たしくなってきた。
島津にはあんな顔で笑っていたのに。
あんな、恋する少女のような顔で笑っていたのに。
「…………何の用?」
田口はそっと速水に尋ねた。
その口の利き方まで、速水の気に入らなかった。
まるで、用だけさっさと済ませて帰れと言わんばかりだ。
「別に。用が無いと来ちゃいけないのか?」
「そういうワケじゃないけど…………」
けど、歓迎してないよな、と。
心の中で自分で補足しておいて、速水はますます不機嫌になった。
田口の言葉の裏を拾い、悪い解釈ばかりをする。
そうしてまた苛立つのだから、自家中毒のようだった。
「えっと、取り敢えず…………入るか?」
田口は速水の表情を窺いながら、恐る恐る口を開く。
速水も、立ち話で済むと思えなかったから、田口の言葉にドアの前を空けることで同意を示した。田口が鍵を探り出してドアを開けるのを、脇で待つ。
「…………どうぞ」
「ああ」
田口が開けたドアから室内に滑り込むと、部屋は田口の匂いがした。
具体的にどういう匂いというワケではない、食べ物と古い畳と古本と、そういった生活臭。
それが落ち着くと思うようになったのはいつからか、速水はよく覚えていなかった。ただ、田口の部屋は居心地がよい。
今はとても、そう寛いだ気分にはなれなかったが。
「それであの、速水…………?」
「お前どういうつもりだよ」
「は?」
そろそろと口を開いた田口に、切りつけるように速水は尋ねた。
唐突な切り口上に、田口は目を丸くする。
田口が理解するのを待たず、速水は一方的に捲し立てた。
「そんなんで誤魔化せると思ってんのか、バカ野郎。俺の何が気に食わねぇんだよ、ハッキリ言いやがれ。てめぇ、俺と島津じゃ態度全然違うじゃねえか。島津にはあんな、でれっとした顔しやがるくせに、何なんだ、一体。バカにしてんのか?」
「え、え、えぇ?」
速水の早さについていけない田口は目を白黒させている。
速水は田口を睨みつけた。
速水の視線に居心地悪そうに眼を逸らして、田口はボソボソと呟いた。
「お前が気に食わないとか、そういうんじゃない……態度が悪かったなら、謝る」
「謝って済む問題じゃねえよ」
「じゃあ何だよ」
反射的に言い返したら、田口も流石にむっとした口調で返してきた。子供の喧嘩のような遣り取りになる。
「理由が聞きたいっつってんだろ。何で、俺には固まってんだよ、お前」
「固まってなんか」
「嘘だ」
速水が一歩詰め寄ると、田口は息を呑んで身体を引いた。
沈黙が落ちる。緊張が狭い部屋に充満した。
「そんなに俺が嫌いかよっ!」
「ちがっ」
「違わないだろ、島津には笑う癖に!」
緊張は可燃性の気体のようだった。速水に引火して感情が暴発する。
最早、隣近所のことなど考えずに速水は声を荒げた。
田口の反論さえ遮ってしまう。
田口が怯えたように肩を竦めたのがまた癪で、速水は腕を伸ばして田口の肩を掴んだ。
「やっ」
「田口っ」
咄嗟に払われた手が痛い。だが、それ以上に腹が立つ。
速水が声を荒げると、田口の方がとうとう耐えきれなくなった。
ずるずると壁に凭れ、壁伝いに床へ座り込んだ。
前髪で隠れた表情の下から、田口は小さく呟いた。
「何で、こんなことになるんだよ…………っ」
「…………田口?」
「もぉどうしていいか解んない…………」
速水の方こそどうしていいのか解らない。
だから待った。
床に膝立ちになって座り、せめて前髪の隙間から田口の表情を窺いながら、田口が次に吐き出す言葉を待った。
「…………速水が好きなんだ」
ややあって、田口が聞こえるか聞こえないかの声量で呟いたのはそんな言葉だった。
その言葉は速水の胸にストンと落ちて、あっという間に上手く収まってしまった。
島津と何やら話していたらしい田口が速水の方へ駆けてくる。
てろてろ、という言葉がぴったりの田口の様を、速水は目を細めて見守っていた。
「何話してたんだ?」
「…………速水と上手くいったって、報告してた」
速水が尋ねると、田口ははにかんだ笑みを浮かべながら言った。
その笑顔が可愛いと躊躇いなく速水は思い、そして満足する。
島津に見せていた柔らかな笑顔に湧き上がった感情が嫉妬だったと、今なら速水は断言出来る。
猛烈な嫉妬と独占欲が先に来て、それから好きという形に気付いたのだ。田口に告白されるまで気付かなかったのだから、下手をすればそのままスレ違ってしまう可能性だってあった。二人が上手くいったのは奇跡的かもしれなかった。
あの柔らかな笑顔も恋するような表情も、全て速水の為だった。
その事実に歓喜する。
「田口」
「えっ、あっ!」
田口の肩を素早く抱き寄せ、人目に触れる前に額にキスを落とす。
頬を紅潮させて焦る田口が心底可愛くて、速水は喉の奥で笑ったのだった。
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