片想い企画第3弾です。
何だかんだ言いつつ、三つも出せりゃ上出来じゃないかと思う。
今回はヴァイオレット→行灯先生です。
今まで何回かヴァイオレット絡みで書いて今更ですけど、霧島は「何も無かっただろうな、多分」派です。
螺鈿の22章、「寄ってくるのはろくでなし、追いかけると逃げる。あたしってば、男運が悪いの」の、行灯先生は逃げたクチじゃないかと。
でなけりゃ16章の火喰い鳥曰く「今日びの女子高生以下のサバけてない」恋愛模様。廊下でスレ違うだけでドキドキってレベル?
進展しないね、こりゃ。
も一つ、タイトルはJUDY/AND/MARYの「ジーザス! ジーザス!」のイメージです。
霧島の中では、「慟哭」と並ぶ男友達に片想いな歌。しかもどっちもカノジョありの男。
ラスト直前のコーラスの歌詞がね、いいのだよ。
これも古いけどな――。
ではではっ。お楽しみいただければ幸いです、
何だかんだ言いつつ、三つも出せりゃ上出来じゃないかと思う。
今回はヴァイオレット→行灯先生です。
今まで何回かヴァイオレット絡みで書いて今更ですけど、霧島は「何も無かっただろうな、多分」派です。
螺鈿の22章、「寄ってくるのはろくでなし、追いかけると逃げる。あたしってば、男運が悪いの」の、行灯先生は逃げたクチじゃないかと。
でなけりゃ16章の火喰い鳥曰く「今日びの女子高生以下のサバけてない」恋愛模様。廊下でスレ違うだけでドキドキってレベル?
進展しないね、こりゃ。
も一つ、タイトルはJUDY/AND/MARYの「ジーザス! ジーザス!」のイメージです。
霧島の中では、「慟哭」と並ぶ男友達に片想いな歌。しかもどっちもカノジョありの男。
ラスト直前のコーラスの歌詞がね、いいのだよ。
これも古いけどな――。
ではではっ。お楽しみいただければ幸いです、
「あれ、先輩がこっちに来るなんて珍しいですね」
「俺だって神経内科の一員なんだぞ」
兵藤の言葉に田口は眉を顰めた。
実際、田口の籍は神経内科病棟にあるのだ。不定愁訴外来室に籠っている方が圧倒的に多いのは事実だが。
「すみれ先生に用があったんだけど……いないみたいだね」
「え、すみれ先生ですかっ?!」
兵藤の声がわざとらしくも驚いた調子になった。
周囲の看護師の耳も、きっと大きくなったに違いない。
理由が薄々解っている田口は内心溜息を吐いた。
手にしていた大判の医学書を見せつけた。
「いい資料がないか相談されたから、届けに来ただけだ」
「なーんだ」
実に解り易く、兵藤は拍子抜けした顔をする。
周囲の看護師たちから漂っていた探るような気配も、なりを潜めた。
「まったく……」
田口が半眼で兵藤を見ると、決まり悪そうに兵藤は笑った。
正直、田口は怒る気にもならない。
神経内科の仙人に、緑の園のジャンヌダルクが熱を上げている。
今、病院内ではそういう噂が吹き荒れていた。
実害のないウワサなら気に留めないようにしている田口なので、この程度の噂など、大したことではないと思っている。
田口にこの噂を嬉々として披露した島津や速水ではないが、笑い話だとすら思っていた。
しかし、ありもしない噂に右往左往する外野は兎も角、ヒロイン役を宛がわれた彼女には堪ったものではないだろう。
「いつまでもおかしな噂を吹聴するんじゃないぞ、兵藤。すみれ先生だっていい迷惑だ」
溜息を一つ吐いて、田口はしたり顔で兵藤に訓を垂れた。
「…………ばあぁか」
神経内科医局入口の、すぐ横の外壁に背中を預けていたすみれは低く呟いた。
普段のすみれは、病院内では猫を被っている。
その化けの皮がすっかり欠落した、不穏な声音だった。
「何よ、大人ぶっちゃって」
幾ら悪態を吐いても、心の中は誤魔化しきれるものではなかった。
あの一言で解ってしまったことがある。
田口にとっては、自分との恋の噂なんて何でもないのだ。
動揺もしない。うろたえも困りもしない。
まして、喜んだりソワソワしたりなんて、まったくない。
いつも通りに、指導者の顔をして資料なんか用意して、優しい大人の顔をしてしまえる……それぐらいに、何でもないのだ。
すみれの存在は、あの男の心を揺らさない。
「ああ、癪に障る」
すみれは一つ呟いて、壁から背中を離した。
いっそこのまま医局に乗り込むのもアリかと思ったけれど、田口の反応が想像できてしまった。
狼狽する周囲を余所に、当たり前のように笑って「ちょうどよかった、はいコレ、参考になりますよ」なんて医学書を差し出すに決まっているのだ。
ああ、ホント癪に障る。
気持ちを落ち着け表情を作る場所を探して、従業員用のトイレへと向かう。
傷ぐらいつけてやりたいと思った。
「俺だって神経内科の一員なんだぞ」
兵藤の言葉に田口は眉を顰めた。
実際、田口の籍は神経内科病棟にあるのだ。不定愁訴外来室に籠っている方が圧倒的に多いのは事実だが。
「すみれ先生に用があったんだけど……いないみたいだね」
「え、すみれ先生ですかっ?!」
兵藤の声がわざとらしくも驚いた調子になった。
周囲の看護師の耳も、きっと大きくなったに違いない。
理由が薄々解っている田口は内心溜息を吐いた。
手にしていた大判の医学書を見せつけた。
「いい資料がないか相談されたから、届けに来ただけだ」
「なーんだ」
実に解り易く、兵藤は拍子抜けした顔をする。
周囲の看護師たちから漂っていた探るような気配も、なりを潜めた。
「まったく……」
田口が半眼で兵藤を見ると、決まり悪そうに兵藤は笑った。
正直、田口は怒る気にもならない。
神経内科の仙人に、緑の園のジャンヌダルクが熱を上げている。
今、病院内ではそういう噂が吹き荒れていた。
実害のないウワサなら気に留めないようにしている田口なので、この程度の噂など、大したことではないと思っている。
田口にこの噂を嬉々として披露した島津や速水ではないが、笑い話だとすら思っていた。
しかし、ありもしない噂に右往左往する外野は兎も角、ヒロイン役を宛がわれた彼女には堪ったものではないだろう。
「いつまでもおかしな噂を吹聴するんじゃないぞ、兵藤。すみれ先生だっていい迷惑だ」
溜息を一つ吐いて、田口はしたり顔で兵藤に訓を垂れた。
「…………ばあぁか」
神経内科医局入口の、すぐ横の外壁に背中を預けていたすみれは低く呟いた。
普段のすみれは、病院内では猫を被っている。
その化けの皮がすっかり欠落した、不穏な声音だった。
「何よ、大人ぶっちゃって」
幾ら悪態を吐いても、心の中は誤魔化しきれるものではなかった。
あの一言で解ってしまったことがある。
田口にとっては、自分との恋の噂なんて何でもないのだ。
動揺もしない。うろたえも困りもしない。
まして、喜んだりソワソワしたりなんて、まったくない。
いつも通りに、指導者の顔をして資料なんか用意して、優しい大人の顔をしてしまえる……それぐらいに、何でもないのだ。
すみれの存在は、あの男の心を揺らさない。
「ああ、癪に障る」
すみれは一つ呟いて、壁から背中を離した。
いっそこのまま医局に乗り込むのもアリかと思ったけれど、田口の反応が想像できてしまった。
狼狽する周囲を余所に、当たり前のように笑って「ちょうどよかった、はいコレ、参考になりますよ」なんて医学書を差し出すに決まっているのだ。
ああ、ホント癪に障る。
気持ちを落ち着け表情を作る場所を探して、従業員用のトイレへと向かう。
傷ぐらいつけてやりたいと思った。
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