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こちらは、愚痴外来シリーズの妄想文を展開するブログです。 行灯先生最愛、将軍独り勝ち傾向です。 どうぞお立ち寄り下さいませ。
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20000ヒットの水瀬さまからのリクエストです。
水瀬さま、20000ヒットおめでとう&リクエスト有難う御座います!


さてリクエストは「『牡丹灯籠は怪談です。』の続き」ということでした。当然キャストは行灯先生とMr.完璧で。
行灯先生にこの話を説明させるためには、霧島が読まなきゃ!
……ということで調べてみたのですが、これが長いの長くないのって。
そもそもは中国の話で、浅井了意が紹介し、山東京伝が読本にし、狂言にアレンジされ、円朝が落語にした、というのが凡その流れ。
皆さんがご存じの"からぁん、ころぉん"は、円朝「怪談牡丹燈籠」のごく一部です。しかしそのごく一部が一番有名でしょう。
さて霧島の場合、波津彬子の漫画バージョンで知りました。流石に少女マンガ! ロマンス要素120%増しですよ。白泉社漫画文庫「燕雀庵夜咄」収録のが入手しやすいでしょう。


そんなこんなで苦戦の跡が見えるかもしれませんが、そこは上手くスルーして頂けると助かります。それではどうぞです。

小料理屋「牡丹灯籠」はそこそこの人の入りだった。
カウンターではなく奥のスペースを頼むと、空きがあったのか直ぐに案内される。
足を下ろす場所はなかったが、当然正坐に耐えられもしない田口は、最初から胡坐で座った。
向かいに座った桐生が同じく胡坐なのが、何処となく不思議に思えた。膝を崩すという印象が無いのだ。寧ろ、座敷に座るという点が桐生には似つかわしくないのかもしれない。
そう思っていたら、桐生が周囲を見回して小さく笑った。

「そういえば、こういうところは初めてですね」
「そうなんですか?」
「アメリカが長かったですから。こっちにいた頃は若造で、こういう店には近寄らなかったし」
「へえ…………」

言われてみれば、田口も小料理屋は三十路を過ぎてから足を踏み入れるようになった場所だった。学生時代は安くて何ぼの雑多な居酒屋、二十代はもう少しスタイリッシュを求めたバー、和食をしっとりと落ち着いた場所で、というのはその後だ。
桐生の言葉に半ば頷いて、田口は最初に頼んだ冷酒を桐生の杯に注いだ。桐生は目礼で謝意を示し、くっと一息に杯を干した。
その間に田口は手酌で自分の分を注ぐ。そっと舐めると、きりっと冷えた辛口が喉を通り、胃に落ちる頃にはアルコールの熱さに変わった。

「それで、『牡丹灯籠』はどんなお話なんです?」
「怪談ですよ。食事に相応しくないかもしれません」
「構いませんよ。田口先生の声なら、どんな話でも聞きたい」

桐生は目を細めて言った。
何か凄いことを言われた気がしたが、田口は敢えてそこには触れなかった。
フラグを一本へし折って、田口は語り始めた。



牡丹灯籠の話はこうだ。
土地持ちで悠々と暮らす浪人者・新三郎の元に、死んだと聞いていたお露が現れる。お露の方も、新三郎が死んだと聞いていたらしい。
恋の炎は簡単に燃え上がる。
こま下駄の音、牡丹灯籠の灯りとともに夜な夜な訪れるお露と逢瀬を重ねる新三郎。
ある日、新三郎が雇っている下男が二人の逢瀬を盗み見る。
新三郎の傍にいたのは腰から下の見えない幽霊だ。
仰天たまげた下男は易者に相談し、易者は新三郎に忠告を入れる。
信じきれない新三郎だが、ある寺の墓で、新しい卒塔婆と見覚えのある牡丹灯籠を見つける。寺の小坊主に尋ねれば、墓はお露とお付きの老女のものという。
高名な僧侶の助言で、家の戸に札を貼り、経を唱えてお露を断とうとした新三郎。
お札の為に中へ入れないお露は、家の外で嘆きの声を上げる。
女は恋しいが、死ぬのは恐ろしい。新三郎は観音像に縋って経を唱える。
ところがある夜、金に目が眩んだ下男が戸口の札を剥がしてしまう。
新三郎はとり殺され、後には白骨に添い寝された亡骸が残る。



「detailがいいですね」

当然ではあるが、講談師や噺家のようにおどろおどろしくは語れない。
田口の「牡丹灯籠」はあまりに説明的で、我ながらあまり面白くないと田口は思ったものだった。
そして、桐生の感想はまずそこだった。
予想外で、田口は驚きの声を上げる代わりに瞬きを繰り返した。
田口が喋っている間、酒を入れていた桐生は、少し浮ついた様子で口にした。

「夜の闇、淡く浮かぶ花の灯り、静かに繰り返す下駄の音……imaginationを刺激する要素が多い。日本のホラーが海外で持て囃されるのは、恐ろしさの中にある美しさ、或いは美しさに潜む恐ろしさの為だと私は思いますが、まさにそれを地でいっている」
「はあ」

そういう解釈もあるか、と田口はちょっとびっくりした。
そしてまた、そういう考え方をするんだなぁと、桐生に対する見方に新たな要素が加わることになった。
多分、医学の話だけしていたら気付かなかったことだ。
どんなジャンルの話も、してみるものである。

「田口先生はこのお話、どうなんですか?」
「どうって?」
「お好きなようですので……どんなところが気に入ってらっしゃる?」

不思議としみじみした気分でいたら、桐生は田口に話を振ってきた。
桐生の言葉に田口は苦笑を浮かべて返した。

「怪談は苦手ですよ」
「そうは見えませんでしたよ。思い入れたっぷりに語っていらっしゃるように見受けられましたが」
「そうですか?」

田口は酒を舐めながら首を傾げた。
怪談は嫌いだ。「牡丹灯籠」も、講談か落語かで聞いて鳥肌立った覚えがある。
それでも、言われてみればそんなに嫌いではなかった。田口が嫌いな怪談は、やたら人が死ぬ病室や重傷の姿そのままでうろつく幽霊など、もっと現代的で血みどろな話だ。
アルコールを注がれた思考回路で考えてみる。

「ああ、そうか……お露さんが可哀想だなぁと思ったんですよ」
「可哀想、ですか?」
「落語の中ではね、お坊さんがこう言うんです。『それは悔しくて祟る幽霊ではない、ただ恋しい恋しいと思う幽霊だ』……そう言われたら無碍には出来ないなぁと思って。いや、新三郎の死に様は結構派手なんで、やっぱり怖いは怖いんですけど」

恋しい想いで現れる幽霊は恐ろしさとは遠く、タイトルの牡丹と相まって儚げな印象が強くなる。
田口の中で、お露は悲しい美人だ。

「ま、幽霊になってまで愛されるのは、ある意味幸せでしょうかね」
「とり殺されるのは御免ですがね」

何だかしんみりしてしまった思考を自分で振り払うべく、田口は軽い口調を作って言った。
桐生も、田口が話を終えたがっているのが解ったのか、小さく笑って言ったのだった。
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無題
霧島さま、こんばんは。水瀬です。
早速リクエストにお応えいただきありがとうございました!
行灯先生と桐生先生、それぞれの感想がとても個性的で、本当にそう言ってくれそうです。
「ほのぼの」だけどちょっぴり「しんみり」した風味が素晴らしいお話だと思います。
本当にありがとうございました。
水瀬 2009/09/13(Sun)21:59:16 編集
Re:無題
こちらこそ、こんばんはです。
いや、苦戦しました。少しでも「それらしい」と仰って下さると報われた気がします。
しかしビックリ、さっきアップしたばっかりですよ?
お待たせしちゃったんですね……。申し訳ありませんでした!
また遊びにいらして下さいませね。
S.Kirishima 2009/09/13 22:15
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