ぽちぽちコメントに返信しています。
縞さま、NONAME様、有難う御座いました。
ネタ探し・兼・資料として図書館を活用します。
で、ネタ用に借りたCDの返却期限が迫っているので、ちょっと焦っております。
再び、行灯先生とクラシックです。
入学式、卒業式シーズンによく聴く、あの曲です。
縞さま、NONAME様、有難う御座いました。
ネタ探し・兼・資料として図書館を活用します。
で、ネタ用に借りたCDの返却期限が迫っているので、ちょっと焦っております。
再び、行灯先生とクラシックです。
入学式、卒業式シーズンによく聴く、あの曲です。
お気に入りの喫茶店ではゆったりとした時間が流れている。
客の入りはそこそこだが、誰もが声をひそめて会話をし、時々ソーサーの触れ合う音やウエイトレスの足音がするくらいだ。
遠慮がちなBGMが、空間の隙間を満たすように流れている。
ふと、速水が顔を上げた。
「お前の好きなヤツだな。何て曲だ?」
「《主よ、人の望みの喜びよ》だ」
速水の問いに答えながら、田口は内心不思議な気分になっていた。
速水とは長い付き合いだし、お互いの趣味嗜好もそれなりに把握している。
だが、クラシック音楽の話をしたことはなかった気がする。音楽の趣味はお互いにかけ離れていることを知っていたからだ。
田口が首を傾げている間にも、速水は話を振ってくる。
「主よ、ってことはキリスト関係の曲なのか?」
「ああ。本来はバッハの教会カンタータ『心と口と行いと生きざまもて』の一部なんだ。合唱部分を、ピアノ編曲してある」
「バッハねえ……名前しか知らねえな」
「そんなことないぞ、意外と聴いてたりするもんだ」
クラシック音楽をアレンジしてCMなどに使用するのはよくある話だ。タイトルは知らなくても、聴いたことのある旋律は結構多い。
生憎と、今の田口の脳内にはバッハを使ったCMが思い浮かばなかったが。
速水は更に続ける。
静かな喫茶店に、これほど相応しい話題は無い気がした。
「さっきの、心と口とかって何だ?」
「カンタータの題だよ。元々はタイトルないんで、歌の出だしをタイトルにしてるんだ。心と口と行いと生きざまで、神の正義を証明しよう、っていう出だしだったと思う」
「ふぅん」
速水が若干つまらなそうな顔になるのは、宗教というものがあまり好きではないからだろう。神様にだって救えない命があることを、医者はよく知っている。
「俺は、このタイトル割と好きなんだ」
「へえ。どんなとこが?」
クラシック話が意外に続くものだから、田口は更に個人的な話題に踏み込んだ。
速水がまた表情を変える。速水の顔に浮かぶのは好奇心だ。
退屈が見えない表情に安心して、田口は内心を語る。
「神様じゃなくて、信念とか理想とか……そういうものに置き換えると、なかなか深い意味があると思わないか? 心にある理想を、口で語り、行動し、その生きざまで証明しなさいって」
「ああ、それは…………」
速水が黙り込んだ。
きっと、彼の胸中の空をドクターヘリが飛んでいる。
田口の脳裏に不定愁訴外来のドン詰まりが思い浮かぶように。
いつの間にか、BGMは次の曲に変わっている。
今度の曲は田口もタイトルを知らない。
二人して暫く黙っていたが、
「時々、お前には感心するわ」
そう言って速水が笑ったので、田口は少しだけ眉を顰めたのだった。
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