ヘンなコメディばっかり増えてるので、ここらでどシリアスを。
発想の元は中島/みゆ/き作詞作曲「カム・フラージュ」です。
霧島が聴いたのは、工/藤静/香バージョンですけど。
4回の予定です。2回目3回目苦戦しそうですけど、取り敢えず。
発想の元は中島/みゆ/き作詞作曲「カム・フラージュ」です。
霧島が聴いたのは、工/藤静/香バージョンですけど。
4回の予定です。2回目3回目苦戦しそうですけど、取り敢えず。
~ 田口 ~
雀荘「すずめ」には洗牌の音が響いていた。
自動卓などという贅沢なものはなく、幾人もの学生たちの手を経た麻雀牌は俺の手にもしっくり馴染む。
話のついでという気軽さで、彦根が口を開いた。
「そういや速水先輩、またカノジョ変えたんですって?」
「え?」
とても意外な話、を聞いた気がした。
話を振られた速水よりも、俺の方が反応してしまった。
速水とはこうしてほぼ毎日会っているが、速水の隣に女の子がいた記憶がない。
いや……一度だけ、あった。
「また? あれ? 看護課の……髪の長い子は?」
「先輩それ二か月前の話でしょ。あれから3人目でしたっけ?」
俺がおぼろげな記憶を引っ張り出して言うと、彦根はからからと笑った。
そうか、あれは二か月前の話なのか。
「覚えてねえよ」
速水はむっすりした顔で呟いた。
どうしてそんなに不機嫌なんだか、俺にはさっぱり解らない。
前の局でバカ勝ちして島津から大量に点棒を巻き上げ、つい先ほどまではかなりの上機嫌だったのに。
「…………別れたのか」
二か月前の光景を思い出す。
俺が空き教室で昼寝をしていた時、声を荒げて入ってきたのが速水と看護課の髪の長い彼女だった。
「あたしと! どっちが大事なのよっ?!」
「比べるもんじゃねえだろっ」
「比べてよっ! あたしを見てっ!!」
喉も裂けそうな声に驚いて飛び起きて、ついでに盛大に膝を机にぶつけて呻く羽目になった。
そこを二人に見られ、居た堪れない思いで逃げ出した記憶がある。
速水ともしっかり目が合った。
そう言えば、その顛末を聞いたことがなかった。
「あの、速水?」
「何だよ?」
速水は不機嫌な顔のままだ。
これほど険悪な顔の速水は見たことがない。
俺の気力はすっかり萎えてしまった。
「いや…………いい」
二か月前に俺が居合わせたのは全くの偶然だ。別れた原因とは直接関係がないから話さなかったのかもしれない。
蒸し返したくもないほど嫌な話だから話さなかったのかもしれない。
それから三人変わったという彼女も、モテる速水には大した問題じゃないから話さないのかもしれない。
それとも……ただのポン友だから話さないのかもしれない。
積もうとした麻雀牌が、手の中から音を立てて崩れた。
折角裏返しに揃えた牌の幾つかが表向きに晒される。
もう一度牌を積もうという気はすっかり失せてしまった。
「悪い、帰る」
「先輩?」
俺は立ち上がって、隣の彦根に小さな声で告げた。
怪訝そうに首を傾げる彦根に少しだけ笑う。
彦根を見るのが精一杯で、島津や、まして速水の顔は見られなかった。
顔を伏せて「すずめ」の外へ出れば、冷たい風に髪をかきまわされる。
「…………友達、でもないのかな」
ただ雀卓を囲むだけの、知り合い。
友達だと思っていたのは俺の方だけだったのかもしれない。
その結論はとても苦しくて、諦めの早い俺はそれ以上のことを考えるのはさっさと放棄した。
冬の空で知っている星座はオリオンぐらいだ。
三つ並んだ星を見て、俺は溜息を吐いた。
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