~ 速水 ~
「何考えて付き合ってんだ?」
島津の言葉に笑いが零れた。
考えなんかあるモンか。
女と付き合っていながら、考えることはアイツのことばっかりだ。
下宿への道を辿りながら、俺は二か月前のことを考えた。
付き合っている女がいたが、剣道やら何やらで会うことも少なかった。学食で一人だったら一緒にメシを食う、授業で一人だったら隣に座る、そのくらいの間柄だ。もちろん、ヤることはヤったけど。
そんなことをしているうちに、とうとう相手の方がキレた。
「剣道のことばっかり。でなきゃ、麻雀? あたしと会ってる時間より、麻雀してる時間の方が多いじゃない。あたしとどっちが大事なの?」
比べるものじゃないと思った。
そりゃそうだろ、彼女と麻雀って比較対象になるか?
だからそう言ったら、今度は比べろと来た。
公衆の面前で怒鳴り合うのも如何なものかと思い、手近な空き教室に踏み込んだら、そこにアイツがいた。
「くぅ~~~~っ」
起き上った拍子に膝か脛かをぶつけたらしい。
足を抱えて呻いていた田口は、だが、俺たちに気付いて表情を凍らせた。
このシチュエーションでの遭遇は確かに双方気まずい。
「悪い、すぐ出るから」
田口はそれだけ言うと、そそくさと教室を出て行った。
田口に逃げられて、俺が感じたのは憎悪だった。
隣にいる女への怒りだ。
お前がいなければ、田口は出ていかなかった。
俺は田口のドジをからかっただろう。田口はそんな俺に不貞腐れた顔を見せ、一言二言は反論しただろう。それから二人で、雑談をするかしただろう。
それを全て台無しにされた、と思ったのだ。
怒っていながらも奇妙な冷静さで、女を最大限傷つける言葉を探した。
「選んだぜ。お前といるより、打ってる方がいいわ」
彼女より麻雀を選んだ。
一緒に打つ相手である田口を、俺はその瞬間に選んだのだ。
以来、付き合っては別れるを繰り返している。
田口に逃げられたのは強烈で、カノジョと並んで歩くのが心底嫌になった。
顔見知りがいないなら、まだいい。大学構内で島津や彦根に会うと、田口も傍にいるものかと思って、カノジョの手を振り払ってしまう。
そんな癖がついた。
それで傷つくカノジョの気持ちについては、まったく頓着しなかった。自分の方が大事だからだ。
田口に笑って「邪魔しないから」とか「仲良くな」なんて言われて、立ち去られたら?
想像しただけで、歯軋りしてしまう。
彦根に酷いヤツだと言われるのも当然だろう。
「…………彦根の野郎」
彦根を思い出したことで、ヤツの振る舞いに再度腹を立てることになった。
アイツ、俺のカノジョの話題を出したのは絶対わざとだ。
田口に聞かせるために……聞かせて、どうするつもりだったのか。
彦根のヤツが田口に懐いているのは知っていたが、よもやの想像にますます腹が立ってきた。
アレは俺のだ。
俺の中にはそんな気持ちが居座っている。
友情というには過剰過ぎると思うが、俺はその感覚を否定も排除も出来ないでいる。
それなら、肯定して許容するしかないではないか。
見上げれば、全天で最も明るい星が寒空を照らしている。
子供じみているとは思うが、俺は手を伸ばしてみた。
あの星が手に入ればいい。
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COMMENT
はじめまして
連載楽しかったです。
完結編!是非読みたいです。
でも、折角だから両想いにならなくてもいいなぁ・・・
gdgd大好きなんで(笑)
完結編!是非読みたいです。
でも、折角だから両想いにならなくてもいいなぁ・・・
gdgd大好きなんで(笑)
Re:はじめまして
初めまして! コメント有難う御座います。
書いてる本人も方向性が掴めなかった連載ですが、お楽しみ頂けて一安心です。やっぱり歌聴いた勢いだけじゃ無理があったらしい(苦笑)。
完結編で両想いにしないの……って難しくないですか、ソレ? 完結編ってくっつくか別れるか、どっちかだと思ってました。
現時点では温度差のある状態なので、そこを擦り合わせるカンジの続編なら書けるかもしれないな。想像の段階だけど。
……物事はそう都合よくは運ばないんだぞーっと。
書いてる本人も方向性が掴めなかった連載ですが、お楽しみ頂けて一安心です。やっぱり歌聴いた勢いだけじゃ無理があったらしい(苦笑)。
完結編で両想いにしないの……って難しくないですか、ソレ? 完結編ってくっつくか別れるか、どっちかだと思ってました。
現時点では温度差のある状態なので、そこを擦り合わせるカンジの続編なら書けるかもしれないな。想像の段階だけど。
……物事はそう都合よくは運ばないんだぞーっと。
はじめまして
原作、白鳥&田口シリーズファンでネットをうろうろしていてこちらのサイト様に辿り着きました。どの文も素敵ですが『インビジブル彼女』連載はワクワクでした。更新が待ち遠しかったです。すずめ四天王4人視点が新鮮で、読み終わるのがもったいなくてわざとゆっくり読みました。最後の星座のあたりはもう胸キュンです。学生時代のすずめ四天王のお話、また書いてくださいませ。(あつかましいお願いですが、特に彦根視点。)楽しみにしています。
Re:はじめまして
こちらこそ、初めましてデス。コメント有難う御座います!
「インビジブル彼女」への一票、有難う御座いました。あんな半端な状態で終わったので、ちょっと心配だったのですが……あれはあれで、趣があるということにしておこう、うん。
ヒネクレ彦根くんですか。ウチでは彼は、行灯先生ととっても仲良しさんです。
「あ、カレー。先輩一口」
「ほれ」
「肉くれないんですか?」
「バカ野郎、学食のカレーの具は貴重なんだぞ」
ってなやり取りをナチュラルにする。んでもって
「あーん、って! 俺だってやってもらったことねーっての!」
「暴れんな、メシに埃が入る」
将軍が荒れ、魔人が止めに入る。
……こんなすずめ四天王なんですが。アレ? 何か違う?
彦根くんは霧島もお気にキャラなので、今後もちょくちょく登場すると思います。またお立ち寄り下さいませ。
「インビジブル彼女」への一票、有難う御座いました。あんな半端な状態で終わったので、ちょっと心配だったのですが……あれはあれで、趣があるということにしておこう、うん。
ヒネクレ彦根くんですか。ウチでは彼は、行灯先生ととっても仲良しさんです。
「あ、カレー。先輩一口」
「ほれ」
「肉くれないんですか?」
「バカ野郎、学食のカレーの具は貴重なんだぞ」
ってなやり取りをナチュラルにする。んでもって
「あーん、って! 俺だってやってもらったことねーっての!」
「暴れんな、メシに埃が入る」
将軍が荒れ、魔人が止めに入る。
……こんなすずめ四天王なんですが。アレ? 何か違う?
彦根くんは霧島もお気にキャラなので、今後もちょくちょく登場すると思います。またお立ち寄り下さいませ。