本気のバレンタインネタです。
一昨日の不憫な将軍に、ちゃんと愛の手を差し伸べております。
他サイト様とかぶってるかもしれない……ならフライングしちまえ! という傍迷惑な決意の下、本日のアップとなりました。いい言葉だな、先手必勝。
現時点では霧島日参サイト様に同ネタは見られないのですが……どうだろ。いろんな方面に謝りたい気分です。
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現時点では霧島日参サイト様に同ネタは見られないのですが……どうだろ。いろんな方面に謝りたい気分です。
「よぉ、コーヒーくれ」
不定愁訴外来の奥の院で、速水はどっかりソファに腰を下ろした。
土曜日、ということで不定愁訴外来もなく、田口の城は静まり返っている。
大分前から速水はこの部屋を休憩室代わりに使ってきた。何せ、オレンジ新棟の休憩室よりよほど居心地がいい。上等のコーヒーサービスと程よく草臥れたソファがある。
不定愁訴外来の主に会うという目的を隠さなくていいようになったのは、割と最近のことだ。
ただの同期、同僚から、恋人同士へと関係を変えての最初の2月14日。
何も期待していないと言ったら、それは嘘に決まっていた。
「まったく……ここは喫茶室じゃないぞ」
田口はブツブツ言いながらも、サイフォンの火を点け、コーヒー豆の袋を開けた。ちょうど新しいものらしい。今日は豆を挽くところからやってくれるようだ。
「開けたて、挽きたて、淹れたてが一番の贅沢」と笑っていた田口を思い出す。
それはそれで有難い。
だが。
「なあ、チョコねえの? バレンタインだろ?」
「机の上に、貰った義理チョコがある。食いたきゃ食え」
回りくどいことが苦手な速水は、それはもう直接的に尋ねた。
田口はサイフォンから目を外さずに答える。それも的外れな答えだ。
確かに、デスクの上にはキレイに包装された小箱が乗っている。それも結構な数だった。引き籠り気味のくせに、どこにそんな義理があるのか、不思議なものである。
しかし、問題はそこではない。
速水は聞えよがしの溜息を吐いた。
「お前ね、解ってて言ってんだろ? 俺が欲しいのは、お前からのヤツなんだけど」
「……………………」
田口は答えなかった。
黙ったままコーヒーを二つカップに注ぎ、速水の前に戻ってくる。
その表情がどことなく険悪だった。変に強張っている。
「…………田口?」
「飲め」
低い声で田口はカップを速水に寄越した。
滅多にないことに、速水は戸惑いながらとりあえずカップを受け取る。
普段の田口なら、こうして強引にせっつくような真似はしないのだ。まずはデスクにカップを置き、ゆったりと勧めるのに。
田口の顔を伺う速水に対し、田口はますます仏頂面になった。
「飲めって」
「???」
再度勧められて、速水はカップに口をつける。
やはり開封したては香りがいい。新しいブレンドなのか、今までと少し違う香りが混ざっている気がした。それが何なのか、速水には明言できなかったが、美味いのは間違いない。
「うん、美味い」
「…………おう」
チョコレートのことも忘れて速水は呟いた。
田口は速水から顔を逸らせて、ぼそぼそと頷いた。
その横顔がほんのり赤らんでいることに速水は気付く。仏頂面には変わりないのだが。
コーヒーを褒めたくらいで、こんなに田口が照れたことはない。
「田口?」
「…………そのコーヒーな、ヴェローナって言って」
「うん」
「限定ブレンドなんだ、その…………バレンタインの」
そっぽ向いたままの田口がぼそぼそと言う。
言葉の意味を繋げ、速水は目を見開いた。
手の中のコーヒーを見て、それから田口の顔をまじまじと見る。
視線を感じているのだろう、田口の頬がますます赤くなった。
「ちなみに今日、お前にしか淹れてない」
とどめの一言が放たれた。
バレンタイン用のチョコレートギフトは、やはり買うのに抵抗があったのだろう。田口に出来る精一杯の選択が期間限定のコーヒーだったのだ。
ちゃんと、速水にだけ。
確かに開封している場面から速水は見ている。
予想外で、予想以上だった。
「田口」
「ま、待て! 零れるっ!」
感激の余り田口を抱き寄せようとしたら、田口が慌てて声を上げた。田口の手の中にもコーヒーの入ったマグカップがある。中身は速水が飲んでいるのと同じ、バレンタイン限定ものだ。
「おっと」
田口の手からマグカップを取り上げると、速水はさっさとデスクの上に置いて、それから存分に田口を抱き締めた。
頬を重ね、瞼から額から、次々に唇を落とす。
唇が離れた隙間で、田口が囁いた。
「折角淹れたのに、冷めちまう」
「そしたら、また淹れてくれ。俺限定で」
「うん…………」
ニヤリと笑って言ったら、田口は速水の肩に顔を埋めながら小さな声で呟いたのだった。
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