微糖な恋愛模様

カテゴリはその他ですが、将軍と魔人で行灯語りというジャンルです。

バレンタインです。コメディです。
本気のバレンタインものは誰かとかぶるんじゃないかなぁとハラハラしてるのですが、こっちは絶対かぶらない！　自信があるねっ！
将軍がかなりイタいことになってます。それでもいいわってお方はどうぞ続きにお進み下さい。
……同情票が入るかもな。

「面白いモンを見つけたんでな。やるよ」

速水の"潜水艦司令室"に乗り込んだ島津は、手にしていた「面白いモン」を速水のデスクに置いた。
デスクに長い足を乗せていた速水は、足を下ろしてそれを手に取った。
認識したと同時に速水は眉間に皺を寄せた。

「お前、これ厭味か？　嫌がらせか？」
「おおよ」

バレンタインシーズンに多く出回る、パロディな義理チョコ。薬瓶や醤油瓶、寿司や弁当、カレールーのパロディなどがある。
島津が見つけたのは、缶コーヒーのパロディものだった。
「挽きたて微糖」をパロって、「恋愛発展微妙」。

「お前にピッタリじゃないか、一方通行歴二十年の速水くん」
「五月蠅ぇよっ！」

速水は苛立たしげにチョコレート菓子をデスクの上に転がした。筒状の菓子が転がるのを、島津が手を伸ばして押える。
それに一切構わず、速水は天井を仰いだ。

「あー、チョコ欲しー」
「当てなら山ほどあるだろうが。片っ端から断らないで、受け取ればいいだけの話だ」
「行灯のじゃなきゃ意味ねー」
「お前にやるなんて考えもしてないけどな、行灯」

速水の二十年来の片思いの相手が、同期の男田口というのは、島津には予想外のセンだった。
が、二十年間まっっったく！　進展がない。
偏に田口という男が鈍いせいだ。

「アイツ、貰ったって嫉妬もしてくんねーし。断ってれば『速水は誠実なんだな』っつーし。どうしろってんだよ？」
「まったくな。ホントは、行灯以外どーでもいいっていう、ロクでもない男なのに」

バレンタインとて、速水には苦い思い出ばかりである。
最初の数年は、少しは妬いてくれないかと見せびらかした。が、反応は「凄いなー、美味そうだなー」という程度。食いたきゃ食えとくれてやって、嬉しそうな田口の笑顔にクラクラきたのが唯一の収穫だ。
医局に入ってからは、バレンタインの贈り物は一切断っている。それを田口は速水の誠実さの表れと解釈したらしい。尊敬の目で見られて、カッコつけたのが運の尽きだった。田口の脳に、「速水はバレンタインは受け取らない」とインプットされてしまった。

「田口から貰えないからって、田口宛の義理チョコを巻き上げに行くのはどうかと思うがな……」

そうして、ここ数年バレンタインの速水は、田口が貰った義理チョコを横から食うことに終始している。

「アイツにチョコやる奴がいるだけでも許し難いのに、そんなのをアイツに食わせられるか」
「行灯宛に、義理以外ないだろうに……」

義理チョコにも嫉妬し、田口に食わせたくないから自分が食ってやるという理屈なのだ。
例によって田口は、「一回受け取ると断り切れなくなるから受け取らないけど、一個か二個ぐらいは速水も食いたいんだろうな」と極めて好意的な解釈をしている。
こんな解釈をする当たり、田口は善良だが、速水の気持ちにはまーったく気付いていない。

「前から思ってたが…………お前ホント、イタいよなあ」
「五月蠅ぇ、とっとと出てけっ！」

速水の怒鳴り声に島津は笑って、熊のような身体をのっそりと揺らして出ていった。



バレンタインも過ぎた、ある日のこと。
島津と速水は二人揃って不定愁訴外来に呼び出された。
奥の院のソファに腰を下ろすと、向かいに座った田口が神妙な顔をしている。

「あの、な…………その…………」

言葉を選び選びしていたが、一つ心を決めると、田口は言った。

「お前たちが、特別な、その……恋愛関係だと耳にしたんだが」
「「…………は？」」
「お前たちがどんな関係だろうと、俺はお前達の友人だと思ってるから。何かあったら相談してくれよ！」

速水と島津が真っ白になったのは言う間でもなかった。
島津が嫌がらせで贈ったお遊び義理チョコが、速水が唯一受け取ったチョコ⇒速水と島津は特別な関係っ？！　という方程式で発展し、田口の元へ噂が届いたのである。
真っ白になってフリーズした島津の隣で、速水は腕を振り回して必死に弁解することになるのだった。