思いついたら一発勝負です。報復第三弾。
ところでレジェンド・オブ・ジェネラルルージュ(←違う)、近隣の書店にありませんでした! くっそー、田舎か? 田舎だからか?
どうせ入荷はされてんでしょうから、一日二日早く陳列してくれたっていいのに……。
明日。本屋に再突撃です。
ところでレジェンド・オブ・ジェネラルルージュ(←違う)、近隣の書店にありませんでした! くっそー、田舎か? 田舎だからか?
どうせ入荷はされてんでしょうから、一日二日早く陳列してくれたっていいのに……。
明日。本屋に再突撃です。
少しの空き時間を狙って不定愁訴外来を訪れた速水だったが、責任者は不在だった。
専属看護師が湯呑茶碗を隣に、書類の整理などをしている。
速水の姿を見て、藤原看護師は優雅に微笑んだ。
「あら、速水先生。いらっしゃい」
「田口いないんですか?」
「ちょっと病院長にお呼ばれしてましてね。何だか難しい話らしくて……時間かかりそうですよ。お待ちになりますか?」
「はあ」
時間がかかると言われると、待とうという気が殺がれた。
藤原看護師と二人という状況も、よくよく考えると恐ろしいものがある。
速水と田口の間を引っ掻き回すのに一役買っていたこの看護師とにらめっこというのは遠慮したかった。
「出直しますよ」
それだけ言って、速水は非常階段を上がって行った。
二階からエレベーターで四階へ上がる。
ブラブラと四階あたりをうろつくのは、田口とどこかでスレ違わないかと期待した為だ。院長室に乗り込むのは流石にまずかろう。
ところが、病院長室の扉が開いて、高階病院長本人が姿を現した。
「おや、速水君」
「どうも。田口との話は終わったんですか?」
「あ、ええ。何とか、というところですけれどね」
「…………田口は?」
「田口先生をお探しですか。医局の方に寄るとか言ってましたよ」
「はあ。解りました」
速水の顔を見て、高階病院長は微妙な笑顔を浮かべた。
正に腹黒狸に相応しい笑みだ。
この人も、速水と田口の間を散々引っ掻き回してくれた。
居心地の悪い思いをしながら、速水は高階病院長に背中を向けた。
「よお。田口いるか?」
「いませんよっ」
神経内科医局は12階にある。
ひょいと顔を出して気軽に尋ねた速水は、途端に金切り声を返された。
速水に険しい視線を向けているのは兵藤神経内科医局長だ。
速水も思い切り睨み返した。
それだけで兵藤の腰が若干引けるのに、内心ほくそ笑む。
田口に懐いているというだけで、速水は兵藤医師が気に食わなかった。
ただ懐くだけならまだしも、どうやら恋情めいたものまで抱いているらしいとあっては、いくら警戒しても足りない相手である。たとえ田口が彼を歯牙にもかけていないと言ってもだ。
「本当にいないのか?」
「いませんって。お昼時だから満天じゃないですか?」
兵藤の目付きも声音も気に食わないが、ぐるっと医局内を見回した限り、田口の姿は見えなかった。病室の方にいる可能性はあるが、一般の患者の前で田口を引っ張り出すワケにはいかないだろう。
「ふん」
速水を睨みつける兵藤に、一つ鼻を鳴らして速水は神経内科医局を後にした。
確かに昼時だった。ついでに食ってくか、という気になる。
うどんの乗った盆を手に周囲を見回してみたが、田口の姿は見えなかった。
早飯が身上の救急救命医なので、10分もせずにうどんは空になる。
再度食堂内を見回してみたが、田口の姿はどこにも見当たらなかった。
戻りがてら、もう一度不定愁訴外来を覗く。
「田口先生なら一度戻ってらしたんですけどねえ。島津先生のところに用があるとか仰って」
「そうですか…………はあっ」
藤原看護師の完璧な笑顔の前に、今日はもう呪われていると速水は思った。
いや、人間、反対されればされるほど意固地になるものだ。
負けん気が強い速水は、今度は1階の本館入口から中へ戻った。
地下の検査室へ足を運ぶ。
「行灯いるかっ?!」
「いねえよ」
速水の怒号に、冷静な声を返したのはがんがんトンネル魔人こと島津だった。
島津はコンピューターを操作しながら、速水には背中で応対した。
「ついさっき出てったぞ。スレ違わなかったか?」
「ああ。畜生、今日はタイミング悪ぃ…………」
「行灯に急ぎの用件でもあるのか? ははっ」
自分で言っておきながら、島津は自分で笑っている。
確かに、田口相手に急ぎの用事、というのはどうも似合わない。
そういえば何故こんな必死に田口を探しているのか、速水は思い出した。
「用ってワケじゃないけどな。ツラ見てないから、見たくなっただけだ」
「惚気かよ、砂吐かせんな」
「吐いたら自分で掃除しろよな」
田口がいないならここに用はない。
砂掃除を命じられる前に、速水は検査室を退散することにした。
地上へ出ると、院内連絡用のPHSが鳴り出す。かすかなサイレンが、その日のまったりタイムの終了を告げた。
救急車が来てバタバタしているうちに、速水の本日の勤務は終了した。
終了直後、まず携帯電話を開く。
アドレス帳を確認する間でもなく、何度も繰り返した操作で番号を呼び出した。すぐに発信する。
『ただ今電源が切られているか、電波の届かない……』
「くそっ」
当たりの柔らかい筈のアナウンスまで癪に触った。
乱暴にボタンを押して、通話を終了する。
結局今日一日、見事に田口と会わなかった。
昼の怒涛のタライ回しはまさに呪われているとしか思えない。
挙句、電話も捕まらないとは……。
「もう一度外来行って、」
唐突に速水の携帯が震え出した。マナーモードのままだったのだ。
発信者の欄に待ち望んだ名前を見つけ、速水は勢い込んだ。
『速水?』
「おっ前、今何処だよっ?!」
突然の大声に、電話の向こうで田口が息を飲んだ気配がした。
だが、穏やかに話す余裕はなかった。
『何処って、新幹線の中だけど……』
「はあっ?! 何で?!」
『何でって、日帰り出張だったんだ』
「出張?! 聞いてねえよっ」
『言わなかったっけ? 島津に伝言頼んだ気もするけど……決まったの4日前だったからな。しかも病院長命令じゃすっぽかせもしないし、大変だったんだぞ』
いろいろと意外な言葉が飛び出してきて、速水は混乱しかけた。
どうやら本当に田口は新幹線のデッキで通話をしているらしい。背後から聞こえる物音や音の反響の仕方が何となく違う。
状況を理解すると同時に、速水は低い声で唸った。
「騙された…………っ」
田口の出張を、藤原看護師が知らなかった筈はない。同じく、命令した張本人である病院長も。
四日前ということは、神経内科病棟のシフト変更が必要だった筈だ。医局長の兵藤が田口の出張を知っていたと考えても無理がない。
そして島津。田口はちゃんと伝言を頼んだのだろう、それをわざとこっちに伝えなかったワケだ。
どいつもこいつも、腹が立つほど立派な上司と友人と同僚である。
『速水? 落ち込んでるのか………?』
速水のぐったりした気配を感じたのだろう。
電話の向こうで、戸惑いがちな声がする。
耳に優しいその声が、散々周囲に振り回されて草臥れた心に沁みた。
その気持ちを速水はそのまま言葉にする。
「なあ、すっげー会いたい」
『え?』
「俺今日日勤で、今上がりだ。お前直帰だろ? いつこっち着く?」
『えっと……あと30分ぐらいかな』
「解った。迎えに行くから駅で待ってろ」
『ああ…………あ、速水っ』
田口の声が速水を呼び止める。
速水は耳を澄ませて続きを待った。
空かさず聞こえたのは、ちゅっ、という唇の音。
耳元にキスされたようだった。
『…………それじゃ、後でな』
照れ臭さを押し隠しきれない声が小さく囁いて、向こうから通話が切られた。
速水の方は電話を切ることも忘れて呆然と液晶画面を見つめる。
田口の顔なんか浮かんでいないのに、携帯電話から目が離せなかった。
それからゆるゆると、停止していた脳ミソが動き出す。
頬に血が昇るのが自分でも解った。
ズルズルとロッカーに背中を預けて床に座り込む。
「畜生、何でアイツ…………っ」
時々こう、可愛いことをやらかすんだ、田口は。
今、目の前に田口がいないのが非常に残念だった。
会いたい気持ちはますます募る。抱き締めたくて仕方がない。
かくなる上は一刻も早く田口に会うべく、速水は急いで身支度を整えると、オレンジ新棟を飛び出した。
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