淋しさの隣に・２

オリキャラ登場注意報発令中

カテゴリが将軍と行灯にも関わらず、1回目はすっかり脇役だった二人ですが、今回はもうちょっと出てきます。うん。
……前言撤回。行灯先生と魔人だけでした。これで連載一回増えたよ。

皆様、オリキャラって許容範囲なんでしょうか？
今回の彼女は横恋慕役ではないから、許して頂けるとは思いますが、あんまり嫌わないでやって頂けると有難いです。
ではでは、続きをどうぞ。

「おい行灯！　お前、若い実習生に告られて、公衆の面前でキスまでしたって本当か？！」

飛び込んできた島津は、挨拶を一切無視して一息に言った。
田口は唖然として瞬きをし、それから寧ろ感心した口調で呟いた。

「噂って、地下まで行くとそーゆう風に変わるんだな……」

「満天」は病棟の最上階だし、島津のいるMRI検査室は地下だ。
建物を上から下まで辿る間の変容を目の当たりにし、田口はヘンに納得した気分になった。

「で？　実際のところどうなんだよ」
「実際も何も、今度小児科に来た実習の学生が、昔俺に懐いていた患者だったってだけだよ。十二、三年ぐらい前の話だ」
「十年前って……じゃあ、相手の方はその頃、子供じゃないか」
「だから、俺に懐いていた子供だったんだよ」
「なあんだ」

島津は納得の面持で深く何度も頷いた。
そういう風に納得されて、いいのやら悪いのやら。
つまり島津には、田口は若い女性には全くモテないと認識されているも同然である。

「噂の彼女はどんな子だ？」

最初の衝撃が過ぎ去った島津は、不定愁訴外来のソファにどすんと腰を下ろした。小太りの島津が座るとソファの凹みが他よりも少し大きく見える。
完全に面白がっている口調で尋ねる島津に、田口は長い溜息を吐いた。

「お前も知ってる筈だぞ」
「へ？」
「人のことを散々、童女趣味だの変態だの、からかっただろうが」
「ん？　…………記憶にねえぞ？」

田口の言に島津は記憶を探ったが、真面目な表情で否定した。
田口は再度溜息を吐く。
そして、当時十歳だった愛実が退院する日のことを思い出した。



折角退院するというのに、愛実は泣いていた。
田口の白衣の裾をぎっちり掴んでいて、苦笑を浮かべた母親に促されてようやっと手を離した。子供の握力にもかかわらず、田口の白衣にはしっかり皺が残った。

「ぜったい、ぜったい忘れないからね」

そう言って、愛実は屈んだ田口の頬に可愛らしいキスを残したのだ。
ここまでは美しい思い出だ。
だが、それを遠目で見ていた速水と島津は、愛実の姿が見えなくなった後で、散々田口をからかったのである。



「つくづく、イジメた方は忘れるものなんだな。速水もちっとも覚えてなかった」
「いやぁ、悪い悪い」

田口の恨み節に、島津は全く悪びれていない口調で返した。
こういうところが、田口の悪友どもは揃って調子がいい。
話が一段落した間隙に、藤原看護師からコーヒーが差し出される。
豊かなコーヒーの香りに田口は目を細めた。島津の表情も緩んでいる。

「そういや、速水のヤツ今日はどうした？」
「ん――……昨日当直って言ってたから、今頃家で寝てるんじゃないか？」

田口がのんびり答えると、島津は苦虫を噛み潰したような顔になった。
それからボソリと呟く。

「寝られてねえかもなぁ……」
「え？」

島津の呟きの意味が解らなくて、田口は首を傾げるのだった。