過保護な男と協力者

唐突ですが、一本コメディ入ります。
詳しくは、「淋しさの隣に・４」のコメントを読んで下さい。
つまり地雷原はどうして行灯先生に近付く虫を追っ払うのかという話ですが……相変わらず将軍イジメです。
ウチぐらいだろうなぁ……モットーの一つに「明るく楽しい将軍イジメ」が入ってる愚痴外来サイトって。
将軍は常にカッコよくなきゃ！って方は見ないことにした方が賢明です。ヘタレでも愛してるぅ！って方は続きをどうぞ。
……石投げないで下さい。真剣にお願いします。

「ご上納下さい」
「まあ有難う」

速水は恭しく菓子折りを差し出した。
藤原看護師は優雅に微笑んで箱を手元に引き寄せた。
場所は不定愁訴外来の奥の院だ。ちなみに現在、責任者である田口は外出中である。
田口がいない不定愁訴外来に速水が顔を見せることは滅多になかったが、それでも月に一度、速水は田口の留守を狙って不定愁訴外来を訪れた。
藤原看護師とサシで話をする為だ。

「あら、『月世界』。コレ好きよ」
「それはよかった」

箱を検分した藤原看護師は嬉しそうに笑った。
それを見て、速水は密かに胸を撫で下ろしていた。
何しろこの人の機嫌を損ねては、全てが台無しなのだ。
田口がいない時も客人にはコーヒーが供されるが、今藤原看護師が出してくれたのは日本茶だった。これは、藤原看護師の客であるという意思表示だ。
自分で淹れたお茶にご満悦の表情を浮かべながら、藤原看護師は感慨深げに呟いた。

「速水先生も、毎月毎月お取り寄せを欠かさないわねえ」
「すっかり銘菓に詳しくなりましたよ」
「そこまで田口先生がご心配？」
「当然です」

速水が毎月毎月、お取り寄せをしてまで銘菓を藤原看護師に献上する理由。
それは偏に、不定愁訴外来の責任者・田口公平医師を不逞の輩から守るためなのだ。

「藤原さんには田口の傍についててもらわないと。一階のドン詰まりなんて、悲鳴上げたって聞こえない場所じゃないですか。そこで田口が誰かと二人っきりになるなんて、想像しただけでぞっとしますね」
「…………どんな想像をするんですか」

速水の力説に藤原看護師はぼそっと突っ込んだが、想像に夢中になっている速水の耳には届かなかった。
ちなみに速水の想像の景色はこんなカンジ。



ソファに突き飛ばされる田口。
そこへ圧し掛かる男。
男の身体で押さえ込まれた田口の手足。
白衣の下に潜り込んだ男の手。
床に飛び散ったシャツのボタン。
涙の滲み始めた瞳で、田口の唇が震える。

「ヤだ……っ、助けて、速水…………っ」



「だああっ！」
「うわおっ」

速水が唐突に叫んだので、藤原看護師はらしくもない野太い悲鳴を上げて身体を震わせた。その拍子にお茶が少しだけ零れた。
藤原看護師がうんざりした顔で見守る先で、速水はきりきりと歯軋りをしている。

「野郎っ…………ブチ殺す」
「誰をですか、誰を」
「おおっと」

空想の相手に殺意を抱いた速水だったが、藤原看護師の声にようやっと正気を取り戻した。
徐に膝に手を揃え、藤原看護師に深々と頭を下げる。

「それでは藤原さん、今月もよろしくお願いします」
「はい、承りました」

藤原看護師が頷いたので、取り敢えずは一安心する速水である。
もう一度挨拶を述べて、速水は不定愁訴外来を後にした。
残された藤原看護師は深い深いタメ息を吐くしかなかった。

「本当にやりそうだから困るわね、将軍は……病院で殺人沙汰なんて洒落にもならないわ」

速水ファンの女性看護師たちは絶対知らない速水の素顔だろうが、知っていてもちっとも嬉しくもない藤原看護師だった。