3月3日は耳の日です。

連載ほっぽって何やってるかといえば、思いつきに暴走中です。
霧島日参サイト様で、「ひな祭りって801書きには縁無いよね」と仰ってました。
確かに霧島にも「ひな祭りでイチャラブ」は想像できません。
大体霧島、「ひな祭りはホラー」です。近年は人形ホラーの日となってます。
しかし思いつきました。3月3日は耳の日です。
そんなワケで起承転結のうやむやな耳の日のお話。

「速水、頭こっち」

愚痴外来のソファで、田口が珍しく速水の隣に座った。いつもは対面だ。
その田口が、更に自分の膝を叩いて言ったのだ。
つまりは膝枕のお誘い。これまた珍しい。

「どうした？　サービスいいじゃないか」
「ちょっとな。あっち向いて」

折角のお誘いを断るわけがない。
速水は田口の膝に頭を乗せて尋ねたが、田口は妙に上機嫌のまま曖昧な答えを返した。
下から見上げる速水の首を動かして、横向きにさせてしまう。
速水の視界には向かいのソファが映った。
耳に何か突っ込まれる。

「わぁっ！」
「動くなよ、危ないぞ」
「何だよ、突然…………？」

予告なしにそんなことされて驚かないワケがないのに、田口は速水の心情には頓着しなかった。
確かに耳は急所の一つだ。
速水が動くのを止めると、田口が何をやり出したのかすぐに解った。
耳掃除である。

「どうしたんだ、行灯？」
「今日って三月三日だろ？　耳の日なんだって」
「ああ、そういやそうだな。ひな祭りのせいで影薄いけど」
「綿棒と耳かきじゃ商売にならないからなぁ」
「で、耳かきのサービスか？」
「まあな。反対向き」
「ん」

田口に促されて、速水は身体の向きを変えた。
座ったままでは難しいので足をソファの肘掛に上げてしまう。
今度は視界に田口の白衣が入ってくる。
耳かきは、多少の痛みが心地いいという不思議なものだ。

「お前コレ、他の誰にもやってないよな？」
「やるワケないだろ。こんなのに付き合ってくれるのはお前ぐらいだ」
「ならいい。お前の膝は俺のモンだ」
「子供乗せたくらいで拗ねるからなあ、お前……」

現在の速水の体勢では田口の表情は見えない。
だが、少し呆れ気味で苦笑を浮かべているだろうことは想像がつく。
溜息混じりの声は柔らかかった。

「はい、終わり」
「ん」

田口の声に速水は身体を起こした。
肘掛に投げていた足を下ろして再び田口の隣に座り直す。
田口は竹の耳かきをティッシュで拭ってテーブルに置いた。

「楽しかったか？」

耳を提供した側としては是非聞いてみたいところだ。
速水の質問に、田口は悪戯っぽい笑顔を浮かべた。

「お母さんの気分だったな」
「そこはせめて奥さんにしてくれ」
「それって一昔前の夫婦像じゃないか？」

クスクス笑う田口の肩を速水は抱き寄せる。
その耳に甘く噛みついた。
凹凸を丁寧に舌でなぞり、音を立てて耳の穴を嬲る。

「うわ……っ、あ、ん…………はやっ……んんっ」

ぴちゃ、と立てる音が田口の脳を揺さぶる。
逃げたがる身体を速水は許さなかった。
夜の行為を存分に意識し、しつこいまでに責め立てる。
速水を押しのけようとしていた田口の手は、いつしか速水の白衣を強く握り込んでいた。
田口の耳をたっぷり濡らしてから速水は田口を解放した。
それでも肩を抱いた手は放さなかった。

「お前、耳まで真っ赤」
「…………誰のせいだよ」
「ん――――、俺かな」

速水がからかうように言うと、紅潮した顔で田口は速水を睨む。
その目線に含まれる甘えを見て取って、速水は満足の笑みを浮かべた。

「反対側はまた後で可愛がってやるよ。耳だけじゃないけど」

速水の言葉に田口は精一杯余所を向いた。
真っ赤になった田口の耳が丸見えで、速水は喉の奥で笑うのだった。