世界が無音になった。速水と魔女がいるだけになる。
田口も、グレーに霞んだ背景の一部になった。
「時間を止めてあるの、これで少し話が出来るわ」
魔女はゆったりと空中に座って足を組んだ。
空気椅子の要領だが、魔女は本当にリラックスしているように見える。
速水の目には見えない椅子があるのかもしれない。
だが、そんなことは今はどうでもよかった。
(話なんかしてる場合じゃないだろ! 俺を元に戻せよっ!)
「無理だ、と何度言ったら解るのかしら? あの魔法を解くのは、あれ以外の方法は無いの」
(だったらお前が助けろよっ!)
魔女は呆れた顔で言う。
速水は更に噛みついた。
「助かるわよ、彼」
(えっ!)
魔女はあっさりと口にした。
速水は首を伸ばして魔女を見上げた。
少しだけ、ほんの一瞬安心して、だが。
「7分後、あなたの後輩が見つけて、それから病院へ運ばれるわ。一命は取り留めるけど、右半身に障害が残る……留年は仕方ないわね。それでも卒業はするわ」
(何だよ、それっ!)
「助かることは間違いないでしょう?」
それを助かったと言うのか。断じて言わない。
命が助かったのだからそれでいい、とは思わない。
田口の何一つ、失くしたくないのだ。
まして速水は何も出来ないままなんて!
(どうすりゃいいんだよっ?!)
「そこよ。どうして彼にキスしないの? 好きなんでしょう? 戻れるかもしれないじゃない」
魔女はぴっと指を立てた。
魔女の言葉に速水は目を見開いた。
しかし、すぐに首を横に振る。
(戻れるワケねえじゃねえか。田口は運命の人じゃねえだろ?)
言い出したのは魔女の方だ。運命の人との真実の愛のキス。
確かに田口を好きだけど、田口は運命の人ではない。
魔女は笑った。
「あら、出逢った時点でそれは運命よ」
不思議と優しい笑顔だった。
声まで優しく聞こえた。
「あなたが100年生きたとして、その間に地上の全ての人に出逢うことが出来ると思う? 出来ないでしょう? 出逢って知り合えた時点でそれは運命。友達になれたのなら、更に奇跡ね」
(じゃあ…………)
「ついでに、私は女性と言った覚えもないわ」
呆然とした速水に、魔女は笑った。
確かに魔女は、結ばれる運命とは言わなかった。女性とも言わなかった。
それを女性だと判断したのは速水の方だ。
速水に理解が広がるのを察して、魔女は更に言葉を紡いだ。
今はもう、魔女の声も優しい歌のようだった。
「あとは真実の愛だけ。想いに嘘はある?」
(ねえよ)
田口を失くしたくない。
田口の傍にいたい。笑っていて欲しい。
隣りを歩く存在でありたい。
心底、願う。
「それならいいわ」
魔女が指を鳴らすと、世界に色と音が戻る。
ただの背景になっていた田口は、現実として速水の前にいる。
薄く開いたままの唇に、速水はそっと口を寄せた。
カメの口と田口の唇が微かに触れ合った。
田口も、グレーに霞んだ背景の一部になった。
「時間を止めてあるの、これで少し話が出来るわ」
魔女はゆったりと空中に座って足を組んだ。
空気椅子の要領だが、魔女は本当にリラックスしているように見える。
速水の目には見えない椅子があるのかもしれない。
だが、そんなことは今はどうでもよかった。
(話なんかしてる場合じゃないだろ! 俺を元に戻せよっ!)
「無理だ、と何度言ったら解るのかしら? あの魔法を解くのは、あれ以外の方法は無いの」
(だったらお前が助けろよっ!)
魔女は呆れた顔で言う。
速水は更に噛みついた。
「助かるわよ、彼」
(えっ!)
魔女はあっさりと口にした。
速水は首を伸ばして魔女を見上げた。
少しだけ、ほんの一瞬安心して、だが。
「7分後、あなたの後輩が見つけて、それから病院へ運ばれるわ。一命は取り留めるけど、右半身に障害が残る……留年は仕方ないわね。それでも卒業はするわ」
(何だよ、それっ!)
「助かることは間違いないでしょう?」
それを助かったと言うのか。断じて言わない。
命が助かったのだからそれでいい、とは思わない。
田口の何一つ、失くしたくないのだ。
まして速水は何も出来ないままなんて!
(どうすりゃいいんだよっ?!)
「そこよ。どうして彼にキスしないの? 好きなんでしょう? 戻れるかもしれないじゃない」
魔女はぴっと指を立てた。
魔女の言葉に速水は目を見開いた。
しかし、すぐに首を横に振る。
(戻れるワケねえじゃねえか。田口は運命の人じゃねえだろ?)
言い出したのは魔女の方だ。運命の人との真実の愛のキス。
確かに田口を好きだけど、田口は運命の人ではない。
魔女は笑った。
「あら、出逢った時点でそれは運命よ」
不思議と優しい笑顔だった。
声まで優しく聞こえた。
「あなたが100年生きたとして、その間に地上の全ての人に出逢うことが出来ると思う? 出来ないでしょう? 出逢って知り合えた時点でそれは運命。友達になれたのなら、更に奇跡ね」
(じゃあ…………)
「ついでに、私は女性と言った覚えもないわ」
呆然とした速水に、魔女は笑った。
確かに魔女は、結ばれる運命とは言わなかった。女性とも言わなかった。
それを女性だと判断したのは速水の方だ。
速水に理解が広がるのを察して、魔女は更に言葉を紡いだ。
今はもう、魔女の声も優しい歌のようだった。
「あとは真実の愛だけ。想いに嘘はある?」
(ねえよ)
田口を失くしたくない。
田口の傍にいたい。笑っていて欲しい。
隣りを歩く存在でありたい。
心底、願う。
「それならいいわ」
魔女が指を鳴らすと、世界に色と音が戻る。
ただの背景になっていた田口は、現実として速水の前にいる。
薄く開いたままの唇に、速水はそっと口を寄せた。
カメの口と田口の唇が微かに触れ合った。
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