(田口っ!!)
叫んでも声にはならない。
速水は懸命に二人の傍へ近寄っていった。
甲羅が重かった。
爪が地面を浅く引っ掻くが、遅々として進まない。
村上の手が田口の喉を絞めている。
田口は村上の手首に爪を立てていたが、ふ、と力が抜けた。
ずるり、と田口の手が落ちていく。
落下に任せたままの手が、自然な角度で指を曲げて横たわった。
「あ…………っ」
村上は、自分がしでかした事の重大さに呆然となった。
田口の首から手を離してよろよろと立ち上がると、ふらつく足取りでその場から逃げていく。
その際に田口を蹴飛ばした。
田口の手がまた動いた。
それは自発ではなく、ただ蹴られた衝撃で動いただけだ。
(田口っ! おい、しっかりしろよっ!)
幾ら叫んでも声にはならない。
どんなに足を動かしても、距離はなかなか縮まらない。
状況はとても危険だと解っている、解っているのに!
(魔女っ! どっかで見てるんだろっ!)
犬なら、吠えて人を呼ぶことが出来た。
猫なら、村上を引っ掻いて撃退することが出来た。
こんな水棲小動物では、何も出来ないではないか。
田口が目の前で倒れているのに!
(俺を元に戻せよっ!)
「無理よ」
声が聞こえた。
気付けば、速水のすぐ傍にいつかの魔女が立っている。
魔女は速水を掬い上げると、田口の傍へ近寄って田口の顔の近くに速水を下ろした。
魔女の足ではたった三歩だ。
(田口、おいっ)
唾液の零れている口元から呼気が聞こえない。瞼は閉じたままだった。
首を伸ばして田口の頬を突いても、反応しない。
(戻せっ! 俺を戻せよっ!)
「無理だと言ったでしょう」
人であれば、心肺蘇生が出来る。助けを呼ぶことができる。
振り返って速水は怒鳴った。
声にはならないが、魔女には解っている。
ただ一言、魔女は冷静に告げて指を鳴らした。
周囲から音が消えて、一切が灰色に変わった。
叫んでも声にはならない。
速水は懸命に二人の傍へ近寄っていった。
甲羅が重かった。
爪が地面を浅く引っ掻くが、遅々として進まない。
村上の手が田口の喉を絞めている。
田口は村上の手首に爪を立てていたが、ふ、と力が抜けた。
ずるり、と田口の手が落ちていく。
落下に任せたままの手が、自然な角度で指を曲げて横たわった。
「あ…………っ」
村上は、自分がしでかした事の重大さに呆然となった。
田口の首から手を離してよろよろと立ち上がると、ふらつく足取りでその場から逃げていく。
その際に田口を蹴飛ばした。
田口の手がまた動いた。
それは自発ではなく、ただ蹴られた衝撃で動いただけだ。
(田口っ! おい、しっかりしろよっ!)
幾ら叫んでも声にはならない。
どんなに足を動かしても、距離はなかなか縮まらない。
状況はとても危険だと解っている、解っているのに!
(魔女っ! どっかで見てるんだろっ!)
犬なら、吠えて人を呼ぶことが出来た。
猫なら、村上を引っ掻いて撃退することが出来た。
こんな水棲小動物では、何も出来ないではないか。
田口が目の前で倒れているのに!
(俺を元に戻せよっ!)
「無理よ」
声が聞こえた。
気付けば、速水のすぐ傍にいつかの魔女が立っている。
魔女は速水を掬い上げると、田口の傍へ近寄って田口の顔の近くに速水を下ろした。
魔女の足ではたった三歩だ。
(田口、おいっ)
唾液の零れている口元から呼気が聞こえない。瞼は閉じたままだった。
首を伸ばして田口の頬を突いても、反応しない。
(戻せっ! 俺を戻せよっ!)
「無理だと言ったでしょう」
人であれば、心肺蘇生が出来る。助けを呼ぶことができる。
振り返って速水は怒鳴った。
声にはならないが、魔女には解っている。
ただ一言、魔女は冷静に告げて指を鳴らした。
周囲から音が消えて、一切が灰色に変わった。
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