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こちらは、愚痴外来シリーズの妄想文を展開するブログです。 行灯先生最愛、将軍独り勝ち傾向です。 どうぞお立ち寄り下さいませ。
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9回でも終わらない。そんでもって、9月中にも終わらない。決定。
前回、行灯とゲリラのトークが楽しすぎたのが悪い。
現在の暫定で12回です。最近「連載長引く病」にでもかかったのか?
いや、書いてる霧島は楽しかったんだけど……読んでいる皆様にも楽しんで貰えれば幸いです。


「運命の人」を連呼するこの話の将軍は、大概ロマンチックだと思う……ぅう?

翌日はいつもの通り留守番だった。
田口が出かける際に、一応暴れて意思表示してみたのだが、

「??? エサ足りなかったかな? ホラ、大人しくしてろよ」

といった具合で、てんで意志の疎通が適わなかったのだ。
ドアが閉まる音を恨めしい気分で速水は聞いた。
田口が寄越した魚肉ソーセージは、ちゃんと食ったし美味かったが。

(引き篭もりきりじゃ、どーにもならねえだろうよっ)

とにかく元に戻らなくてはならない。
昨日の彦根と田口の会話で、速水晃一行方不明説がボチボチ発生し始めているのが解った。
いい加減成人している男子学生のことだがら、早々に騒ぎになるとも思えないが、いつまでも田口に飼われているワケにもいかない。
そして元に戻るためには、運命の人と真実の愛のキスをしなければならないワケである。

(…………改めて考えると、小っ恥ずかしいお題だな)

だが、速水をカメにした魔女がそう言うのだから、それ以外の手段は無いのだろう。
「運命の人」をクリアしても、今度は「真実の愛」をクリアしなくてはならないのだが、その点については速水は楽観視していた。
運命の人に出会えれば恋に落ちるんだろうし、運命の人が相手ならそれが真実の愛なのだろう。
だからやっぱり、運命の人に出会うためには外へ出なければならないのだ。

(さぁて、どうするか…………)

バケツの底で、速水は首を捻った。
カメの首は人間の首よりよく動くものだった。




「うわぁっ!」

帰宅した田口が悲鳴を上げた。
その悲鳴を頭上で聞いて、速水は満足げに首を反らした。
本当は胸を反らしたいところだが、カメの胸は腹側の甲羅で覆われていて自由が利かない。

「何で脱走なんかするんだよぉ」

(ふんっ、実力行使だ)

田口が速水を持ち上げて、情けない声で言う。
速水は鼻を鳴らして訴えた。
やはり伝わりはしなかったが。
外に出たい、という意思を速水はバケツから脱走することで表示しようと試みたのである。
実に苦戦した。
甲羅干し用に入れてある石の上で後足で立ち、バケツの壁伝いに縁へ手を伸ばしたわけだが、届かないのだ。
何度石から転がり落ちて、その度に甲羅の中に手足と首を引っ込めたことか。
苦労の末にバケツの縁に手がかかると、バケツが傾いて一気に転がり、速水の脱走は成功したわけである。
当然ながら田口の部屋は水浸しになった。
田口が悲鳴を上げたのも無理は無い。

「ああ、もうっ」

玄関の三和土の前にいた速水を拾い上げると、田口は流しに速水を放り込んで上から洗い桶を被せた。
速水の世界はたちまちに暗くなる。
プラスチックの洗い桶の向こうから、田口がバタバタと掃除をする気配が窺えた。
多少、悪いことをした気がしないでもなかった。



田口が部屋の掃除を終えた後、速水は洗い桶の閉鎖ドームから解放された。
室内にそこはかとなく漂う生臭さは、カメが棲んでいた水を撒いたせいだろう。
速水を元のバケツに戻そうと田口は速水を持ち上げる。
速水は精一杯手足を暴れさせた。

「わっ。こら、大人しくしろって」

(戻されて堪るかっ!)

勢いよく暴れる速水に田口はたじろいだ様子で、速水を持ち上げていた手がぐらりと揺れた。
これには速水も怖くなり、ちょっとだけ暴れるのを抑える。
静かになった速水をじっと見て、田口は少し首を傾げた。

「……戻るのイヤなのか?」

(そう!)

速水は大きく首を縦に振る。田口がゼスチャーを読み取れるように。
速水の反応に驚いた顔をして、田口は速水を食い入るように見た。

「外に出たいの?」

(そうなんだよっ!)

ぶんぶんぶん、と。
音がしそうな勢いで速水は首を縦に振った。
田口の目が驚きで丸くなる。

「え、ホントに? 昨日ので味占めちゃったのかなぁ? カメって外に出たがるのか……?」

田口は速水を見ながら考え込んでいる。
速水も、カメが外に出たがる生き物だとは考えたことがない。想像したことすらなかった。
速水がじっと待っていると、田口はふと笑った。
柔らかい優しい笑顔を至近距離で見せられて、速水の心臓が音を立てる。

「じゃ、明日から一緒に学校行くか」

その瞬間、キューピッドの矢が速水の心臓を貫いた。
カメの甲羅も、愛の天使からは身を守れないらしかった。
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