『カメを預かっています。お心当たりの方は医学部田口まで。』
走り書きに近いビラを、速水を拾った日の晩、田口は自宅で作成した。
洗面器から身を乗り出して田口を見ていた速水に、田口は優しく笑って言う。
「飼い主が来るといいな」
(来ないんだけどなぁ)
速水に飼い主がいるわけもなく、従って飼い主が現れる筈もない。
しかしそれは速水にだけ解っていることだ。
心の中で思っても、当たり前だが田口には伝わらなかった。
田口に拾われて、当然ながら速水は田口の生活を垣間見ることになった。
田口の日常はカメ並みにスロウだ。
とにかく慌てない。焦らない。
朝起きてぼーっとして、億劫そうに食事をしてぼーっとして、時計は見るけど針の前後は気にせずに出かけていく。
「あ、こんな時間か」とか言いながら、一向に慌てないのだ。
道理でコイツはサボリがちになるワケだよ、と速水は至極納得した。
ただ、速水がいることを気にしているのか、いつもなら雀荘でダベっている時間にも家にいた。
流しっぱなしのテレビをBGMに、ゆっくりと本を読んでいる。
時々速水の様子を窺うように田口は視線を上げ、田口を「観察」していた速水と眼が合うと、田口はふわっと笑った。
子供を相手にした時の田口の笑顔がそれだと速水は気付く。
子供と同じ対応かと思うと釈然としないが、今まで速水が見たことのない笑顔に、どぎまぎするのも事実だった。
一方速水はというと、これがもう退屈な生活だった。
田口が出かけてしまうとすることがない。
バケツの水の中で浮かんでいるか、石の上で甲羅干しをするか、二択しかないのだ。食事は朝の一回で事足りてしまっている。
やることがないから、寝るか、考え込むばかり。
(運命の人かぁ……)
そして考える事といったら、どうやったら元に戻れるか、なのである。
田口に保護されたことで身の危険は減ったが、今度は出会いが無くなってしまった。
「運命の人」を探す為には、外へ出なくてはならない。
田口が、昼間自分を一緒に連れて行ってくれればいいのだが、カメではそうも簡単にはいかないだろう。
(犬とか猫だったら、簡単だったんだろうけどよ)
結局よい知恵は浮かばず、速水は溜息を吐いた。
カメが溜息を吐く様は、ある意味哲学的だっただろう。
ある日、田口が珍しく時間に几帳面に動いた。
起床後のぼんやりタイムを削って身支度をし、時計を見ながら出かける用意をしている。
約束でもあるのかと思って速水が眺めていると、田口は外出寸前に速水が入ったバケツを持ち上げた。
「お前の飼い主に会えるかもしれないぞ」
(え、マジっ?!)
田口の言葉に速水は目を見開いた。田口からは解らないだろうが。
速水に飼い主はいない。強いて言うなら、今の田口が飼い主だ。
余所へやられるのは都合が悪い。
一方で、その飼い主候補が「運命の人」かもしれないと思って、ちょっと期待が膨らんだ。
田口が提げたバケツの中でぷかぷか漂いながら、速水は飼い主候補について思いを巡らせた。
走り書きに近いビラを、速水を拾った日の晩、田口は自宅で作成した。
洗面器から身を乗り出して田口を見ていた速水に、田口は優しく笑って言う。
「飼い主が来るといいな」
(来ないんだけどなぁ)
速水に飼い主がいるわけもなく、従って飼い主が現れる筈もない。
しかしそれは速水にだけ解っていることだ。
心の中で思っても、当たり前だが田口には伝わらなかった。
田口に拾われて、当然ながら速水は田口の生活を垣間見ることになった。
田口の日常はカメ並みにスロウだ。
とにかく慌てない。焦らない。
朝起きてぼーっとして、億劫そうに食事をしてぼーっとして、時計は見るけど針の前後は気にせずに出かけていく。
「あ、こんな時間か」とか言いながら、一向に慌てないのだ。
道理でコイツはサボリがちになるワケだよ、と速水は至極納得した。
ただ、速水がいることを気にしているのか、いつもなら雀荘でダベっている時間にも家にいた。
流しっぱなしのテレビをBGMに、ゆっくりと本を読んでいる。
時々速水の様子を窺うように田口は視線を上げ、田口を「観察」していた速水と眼が合うと、田口はふわっと笑った。
子供を相手にした時の田口の笑顔がそれだと速水は気付く。
子供と同じ対応かと思うと釈然としないが、今まで速水が見たことのない笑顔に、どぎまぎするのも事実だった。
一方速水はというと、これがもう退屈な生活だった。
田口が出かけてしまうとすることがない。
バケツの水の中で浮かんでいるか、石の上で甲羅干しをするか、二択しかないのだ。食事は朝の一回で事足りてしまっている。
やることがないから、寝るか、考え込むばかり。
(運命の人かぁ……)
そして考える事といったら、どうやったら元に戻れるか、なのである。
田口に保護されたことで身の危険は減ったが、今度は出会いが無くなってしまった。
「運命の人」を探す為には、外へ出なくてはならない。
田口が、昼間自分を一緒に連れて行ってくれればいいのだが、カメではそうも簡単にはいかないだろう。
(犬とか猫だったら、簡単だったんだろうけどよ)
結局よい知恵は浮かばず、速水は溜息を吐いた。
カメが溜息を吐く様は、ある意味哲学的だっただろう。
ある日、田口が珍しく時間に几帳面に動いた。
起床後のぼんやりタイムを削って身支度をし、時計を見ながら出かける用意をしている。
約束でもあるのかと思って速水が眺めていると、田口は外出寸前に速水が入ったバケツを持ち上げた。
「お前の飼い主に会えるかもしれないぞ」
(え、マジっ?!)
田口の言葉に速水は目を見開いた。田口からは解らないだろうが。
速水に飼い主はいない。強いて言うなら、今の田口が飼い主だ。
余所へやられるのは都合が悪い。
一方で、その飼い主候補が「運命の人」かもしれないと思って、ちょっと期待が膨らんだ。
田口が提げたバケツの中でぷかぷか漂いながら、速水は飼い主候補について思いを巡らせた。
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COMMENT
無題
こんばんは~お邪魔しますm(_ _)m
いつも余裕な将軍が必至になってるとこに萌えです!ギャップ萌えですかね(笑)田口先生は優しいですね…亀将軍のためにすたこら支度ですか!続きがとても楽しみです☆
突然ですが、霧島さんに参考に、という嬉しい返事をいただいたので、うちの亀くんを紹介します。参考になるかわかりませんが(^_^;)うちの亀くんはスローに暴れます(笑)陸亀くんなので、水中生活はしないのですが、やっぱり水は必要なので、小さな陶器に水をいれてあげています。陶器なので重たいんですが、たまにそれをひっくり返してくれますね。水槽びちゃびちゃ(笑)しかも人が見てない時にやってくれるので、いったいどうやってひっくり返してるのやら…
あとはお散歩中に床に落ちてる物を足で転がしてますね。
そして、うちの亀くんだけかもしれないですが、割れ目をなぞると固まってのびりモードに…もしかして気持ちいいのかなぁと…人間の方はあみだくじ気分で楽しんでいます(笑)
こんな感じです。長い文章で失礼しました(^_^;)
いつも余裕な将軍が必至になってるとこに萌えです!ギャップ萌えですかね(笑)田口先生は優しいですね…亀将軍のためにすたこら支度ですか!続きがとても楽しみです☆
突然ですが、霧島さんに参考に、という嬉しい返事をいただいたので、うちの亀くんを紹介します。参考になるかわかりませんが(^_^;)うちの亀くんはスローに暴れます(笑)陸亀くんなので、水中生活はしないのですが、やっぱり水は必要なので、小さな陶器に水をいれてあげています。陶器なので重たいんですが、たまにそれをひっくり返してくれますね。水槽びちゃびちゃ(笑)しかも人が見てない時にやってくれるので、いったいどうやってひっくり返してるのやら…
あとはお散歩中に床に落ちてる物を足で転がしてますね。
そして、うちの亀くんだけかもしれないですが、割れ目をなぞると固まってのびりモードに…もしかして気持ちいいのかなぁと…人間の方はあみだくじ気分で楽しんでいます(笑)
こんな感じです。長い文章で失礼しました(^_^;)
Re:無題
いらっしゃいませ。
何だかこの話、ダラダラ長くなってますよ? 気を引き締めねば。
>トワ様のとこの亀
リクガメですか。じゃあ外来種? カメ将軍はゼニガメ設定ですので、割と水棲。
そっか、割かしガッツあるのね、カメって。いいこと聞いた。リクガメと水棲のカメは足の形違うから、物転がすのは出来ないだろうなぁ。
参考にします、有難う御座いました!
何だかこの話、ダラダラ長くなってますよ? 気を引き締めねば。
>トワ様のとこの亀
リクガメですか。じゃあ外来種? カメ将軍はゼニガメ設定ですので、割と水棲。
そっか、割かしガッツあるのね、カメって。いいこと聞いた。リクガメと水棲のカメは足の形違うから、物転がすのは出来ないだろうなぁ。
参考にします、有難う御座いました!