15000番をヒットしたなゆた様のリクエストです。
なゆた様、キリ番ヒットおめでとう御座います&リクエスト有難う御座います。
さてリク内容は「伝説の後、約束のディナー仕切り直し」ということなのですが。
…………アレ? ラブ甘デートにならないよ? どっちかっつーと青春系よ?
た、タイミングが悪いんだ、「伝説」の後設定だから。ただのディナーならラブ甘デートになるハズなんだっ!
……と、言い訳しつつもそのまま強行するところが、霧島の身勝手です。
ゴメンなさい、なゆた様。そんなワケですが読んでやって下さいませ。
なゆた様、キリ番ヒットおめでとう御座います&リクエスト有難う御座います。
さてリク内容は「伝説の後、約束のディナー仕切り直し」ということなのですが。
…………アレ? ラブ甘デートにならないよ? どっちかっつーと青春系よ?
た、タイミングが悪いんだ、「伝説」の後設定だから。ただのディナーならラブ甘デートになるハズなんだっ!
……と、言い訳しつつもそのまま強行するところが、霧島の身勝手です。
ゴメンなさい、なゆた様。そんなワケですが読んでやって下さいませ。
「お」
夜の地下食堂で見知った顔を見つけ、速水は声を上げた。
食堂は閑散としていて、何処に座っても構わなかったが、速水はトレーを手に椅子の間を擦り抜ける。
ちょうど箸を取り上げたところだった田口が、速水の気配に顔を上げる。
それから、田口はふわっと微笑んだ。
「よお」
「珍しいな、この時間に会うなんて」
速水の簡素な挨拶に田口は笑って返した。
全く速水も同感なので、田口の言葉には一つ頷いた。
「泊まり?」
「おう。お前もか? 連続当直記録は途切れたって聞いたけど」
「中二日置いただけだよ」
速水の言葉に田口は苦笑を浮かべる。
結局、田口の連続当直記録は一か月になったらしい。流石に偏り過ぎた勤務形態に何処からか指導が入った、というのが専らの噂だった。今後も田口の記録は更新されないだろう。
「一週間振りか?」
「そんなモンだな」
前回田口と顔を合わせたのは、当直記録更新中の頃だった。
一週間前……東城デパート火災の日の、朝だ。
田口がふと笑う。
「そう言えば、夕食を一緒に食べる話をしたな」
田口の言葉に速水も思い出した。思い出して、笑ってしまう。
「一週間遅れだが、まあいいか」
「そうだな」
そう言って、二人は黙々と食事を始めた。
メニューは所詮病院内の食堂のものだから定食だし、酒も無いから滑る口も無い。一緒に食べる、と言っても地味なものだった。
だが、田口との沈黙は苦にならない。
速水にしては珍しくゆっくり咀嚼していると、田口の方から話を振った。
「…………あの時は大変だったな」
「ん? ああ、アレか」
田口は具体的に言わなかったが、一週間前の東城デパート火災の日を指しているのはすぐに解った。速水は曖昧に頷くに留めた。
同期や部外者からは賞賛の言葉を貰った。外科の教授連やお偉方からは、お褒めの言葉と説教が半々ずつだ。
そのどれも、速水にとって大した意味はなかった。
あの日、速水は自分が飛べない鳥だと思い知っただけだった。
「最近は大人しくしてるそうじゃないか」
「思い知ったからな、俺はまだ何も解っちゃいなかったって」
修羅場の恐ろしさも、自分の弱さも、看護婦達の強さも。
先日ようやっと目の当たりにしただけだった。
勿論、何時までもそこで立ち竦んでいるつもりは無かったが。
田口が箸を止め、真っ直ぐに速水を見た。
田口が本気で話をしようとする時の目だった。
速水も思わず箸を止めてしまう。
「……あの日、お前の周りに風が吹いているのが見えた。お前はきっと……その風に乗って、何処までだって行けるよ」
「は?」
「…………何となく、そう思っただけだ」
突然の抽象論に速水は首を傾げたが、田口は曖昧な表情で受け流した。味噌汁を啜って、以後の台詞を断ち切ってしまった。
暫く田口の顔を凝視したが、田口はそれ以上何も言わなかった。
速水は一つ溜息を吐いた。
「お地蔵様の有難いお告げだと思っておくか」
「…………お地蔵様はお告げなんかしないと思うけど」
「笠を貸したらお返ししてくれんのか?」
昔話で茶化したら、田口は憮然とした顔になった。
そんな田口に笑いながら、一週間前の光景を思い出す。
田口が速水の周りに風を見たと言うなら、速水は田口の後ろに光を見た気がした。
重傷者は無駄な口を利く余力は無い。問題は軽傷者の方で、動転の余りに手当たり次第に自分の不安や恐怖を訴えるものだった。
忙しさで目の回っている看護婦や医師たちに代わり、彼らの全てに対応してくれたのは田口だった。田口がいたからこそ、治療行為に専念出来たのだ。
その行為の真価を知る者は多分少ない。現場にいた医師や看護婦の中でも極一部だろうし、いなかった医師たちは田口を評価すらしないだろう。上長の高階が田口のことを聞いて目を細めたのが、寧ろ速水には意外だった。
恐らく田口は、速水が全く知らないタイプの医師になるだろう。
技術を競うでもなく、論文の数を争うでもなく。
病室でただ話をしながら、誰よりも信頼を得る医師になるだろう。
「…………俺はお前の背中に後光が差して見えたよ」
「は?」
「何でもない、こっちの話」
意趣返しに呟いたら、今度は田口の方が首を傾げた。
先だっての田口と同じように曖昧な返事をして、速水は田口の視線を飯を掻き込むことで遮ったのだった。
夜の地下食堂で見知った顔を見つけ、速水は声を上げた。
食堂は閑散としていて、何処に座っても構わなかったが、速水はトレーを手に椅子の間を擦り抜ける。
ちょうど箸を取り上げたところだった田口が、速水の気配に顔を上げる。
それから、田口はふわっと微笑んだ。
「よお」
「珍しいな、この時間に会うなんて」
速水の簡素な挨拶に田口は笑って返した。
全く速水も同感なので、田口の言葉には一つ頷いた。
「泊まり?」
「おう。お前もか? 連続当直記録は途切れたって聞いたけど」
「中二日置いただけだよ」
速水の言葉に田口は苦笑を浮かべる。
結局、田口の連続当直記録は一か月になったらしい。流石に偏り過ぎた勤務形態に何処からか指導が入った、というのが専らの噂だった。今後も田口の記録は更新されないだろう。
「一週間振りか?」
「そんなモンだな」
前回田口と顔を合わせたのは、当直記録更新中の頃だった。
一週間前……東城デパート火災の日の、朝だ。
田口がふと笑う。
「そう言えば、夕食を一緒に食べる話をしたな」
田口の言葉に速水も思い出した。思い出して、笑ってしまう。
「一週間遅れだが、まあいいか」
「そうだな」
そう言って、二人は黙々と食事を始めた。
メニューは所詮病院内の食堂のものだから定食だし、酒も無いから滑る口も無い。一緒に食べる、と言っても地味なものだった。
だが、田口との沈黙は苦にならない。
速水にしては珍しくゆっくり咀嚼していると、田口の方から話を振った。
「…………あの時は大変だったな」
「ん? ああ、アレか」
田口は具体的に言わなかったが、一週間前の東城デパート火災の日を指しているのはすぐに解った。速水は曖昧に頷くに留めた。
同期や部外者からは賞賛の言葉を貰った。外科の教授連やお偉方からは、お褒めの言葉と説教が半々ずつだ。
そのどれも、速水にとって大した意味はなかった。
あの日、速水は自分が飛べない鳥だと思い知っただけだった。
「最近は大人しくしてるそうじゃないか」
「思い知ったからな、俺はまだ何も解っちゃいなかったって」
修羅場の恐ろしさも、自分の弱さも、看護婦達の強さも。
先日ようやっと目の当たりにしただけだった。
勿論、何時までもそこで立ち竦んでいるつもりは無かったが。
田口が箸を止め、真っ直ぐに速水を見た。
田口が本気で話をしようとする時の目だった。
速水も思わず箸を止めてしまう。
「……あの日、お前の周りに風が吹いているのが見えた。お前はきっと……その風に乗って、何処までだって行けるよ」
「は?」
「…………何となく、そう思っただけだ」
突然の抽象論に速水は首を傾げたが、田口は曖昧な表情で受け流した。味噌汁を啜って、以後の台詞を断ち切ってしまった。
暫く田口の顔を凝視したが、田口はそれ以上何も言わなかった。
速水は一つ溜息を吐いた。
「お地蔵様の有難いお告げだと思っておくか」
「…………お地蔵様はお告げなんかしないと思うけど」
「笠を貸したらお返ししてくれんのか?」
昔話で茶化したら、田口は憮然とした顔になった。
そんな田口に笑いながら、一週間前の光景を思い出す。
田口が速水の周りに風を見たと言うなら、速水は田口の後ろに光を見た気がした。
重傷者は無駄な口を利く余力は無い。問題は軽傷者の方で、動転の余りに手当たり次第に自分の不安や恐怖を訴えるものだった。
忙しさで目の回っている看護婦や医師たちに代わり、彼らの全てに対応してくれたのは田口だった。田口がいたからこそ、治療行為に専念出来たのだ。
その行為の真価を知る者は多分少ない。現場にいた医師や看護婦の中でも極一部だろうし、いなかった医師たちは田口を評価すらしないだろう。上長の高階が田口のことを聞いて目を細めたのが、寧ろ速水には意外だった。
恐らく田口は、速水が全く知らないタイプの医師になるだろう。
技術を競うでもなく、論文の数を争うでもなく。
病室でただ話をしながら、誰よりも信頼を得る医師になるだろう。
「…………俺はお前の背中に後光が差して見えたよ」
「は?」
「何でもない、こっちの話」
意趣返しに呟いたら、今度は田口の方が首を傾げた。
先だっての田口と同じように曖昧な返事をして、速水は田口の視線を飯を掻き込むことで遮ったのだった。
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COMMENT
深かったです
こんにちは。
若将軍とお地蔵様のディナータイムとても楽しく読ませていただきました。
ジェネラルの翼はあの時折られてしまったのかもしれませんが、きっと彼はまた風に乗って飛び立つ、お地蔵さまはそれをこの頃すでに予言していたんですね!
そして田口先生へのジェネラルや高階先生からの評価が嬉しかったです。
話を聞いて人の苦しみや痛みを癒し人を救う、メスを握らずとも田口先生は立派な医者だなとあらためて思いました。
研修医時代から自分でも自覚しえていないお互いを理解している二人のきずなを感じました。
若将軍とお地蔵様のディナータイムとても楽しく読ませていただきました。
ジェネラルの翼はあの時折られてしまったのかもしれませんが、きっと彼はまた風に乗って飛び立つ、お地蔵さまはそれをこの頃すでに予言していたんですね!
そして田口先生へのジェネラルや高階先生からの評価が嬉しかったです。
話を聞いて人の苦しみや痛みを癒し人を救う、メスを握らずとも田口先生は立派な医者だなとあらためて思いました。
研修医時代から自分でも自覚しえていないお互いを理解している二人のきずなを感じました。
Re:深かったです
いらっしゃいませ。素晴らしいコメントを有難う御座います。
……ほっとんど脊髄反射だけで書いたような代物に、そんな勿体ないお言葉……霧島、拝み伏してしまうわ。
まあね、最初は「愚痴り合おうぜ」と言ってた若将軍も、あの後ならそんなに愚痴も出なかったんじゃないかなぁ……というところからスタートした話なのですが。
狸は完全に霧島の願望デス。密かに佐伯前病院長にも評価して欲しかったけど、そこまで大物は……と遠慮しました。91年入局組は大器揃いですよ、多分。
ではでは、またの御来訪をお待ちしておりまーっす。
……ほっとんど脊髄反射だけで書いたような代物に、そんな勿体ないお言葉……霧島、拝み伏してしまうわ。
まあね、最初は「愚痴り合おうぜ」と言ってた若将軍も、あの後ならそんなに愚痴も出なかったんじゃないかなぁ……というところからスタートした話なのですが。
狸は完全に霧島の願望デス。密かに佐伯前病院長にも評価して欲しかったけど、そこまで大物は……と遠慮しました。91年入局組は大器揃いですよ、多分。
ではでは、またの御来訪をお待ちしておりまーっす。
ありがとうございます。
霧島さま、リクエストにお応えいただきありがとうございます。
あのね、わたし『ラブ甘デート』はリクエストしてないっすよ。
うふふ。こういうの読みたかったんだもん。わーいわーい♪
いやいや、ディナーをチョイスした自分を褒めたい!(笑)
このお話、わたしがもらっていいなんて。
あー、しあわせ~(〃▽〃)
16,000hitまであっという間でしょうね。
更なるご発展、お祈りしています。
桜宮藩も楽しみにしてます☆
あのね、わたし『ラブ甘デート』はリクエストしてないっすよ。
うふふ。こういうの読みたかったんだもん。わーいわーい♪
いやいや、ディナーをチョイスした自分を褒めたい!(笑)
このお話、わたしがもらっていいなんて。
あー、しあわせ~(〃▽〃)
16,000hitまであっという間でしょうね。
更なるご発展、お祈りしています。
桜宮藩も楽しみにしてます☆
Re:ありがとうございます。
いらっしゃいませ、コメント有難う御座います。
……そういえば、なゆた様ってシリアス好みでいらっしゃいましたっけね。
時々思いっきり傾向と対策を間違うので、「ラブ甘期待してたのに何さ」っていうのは避けたかったのですが、御満足頂ければ霧島はそれで十分です。
あ、日記の「私信」受信しました。江戸時代の食材に人参ってありましたよ。もちろん、今の人参と違ってもっと細くて長いカンジらしい。食事ネタ、やってやれないことはないなぁ……連載終わってないのに番外編やりたくなるのは霧島も同様です。
……そういえば、なゆた様ってシリアス好みでいらっしゃいましたっけね。
時々思いっきり傾向と対策を間違うので、「ラブ甘期待してたのに何さ」っていうのは避けたかったのですが、御満足頂ければ霧島はそれで十分です。
あ、日記の「私信」受信しました。江戸時代の食材に人参ってありましたよ。もちろん、今の人参と違ってもっと細くて長いカンジらしい。食事ネタ、やってやれないことはないなぁ……連載終わってないのに番外編やりたくなるのは霧島も同様です。
(^^)
こんばんわ。
わたくしも霧島さんちネット復活にヨロコンダひとりでございます。(先週末は、霧島さんの過去の作品を読み直していました。)
で、仏像ファンの私はひとこと書き込みたくて書き込みたくてウズウズしておりました。
『お地蔵さん』こと地蔵菩薩は、他の如来をめざしている菩薩とは違って『地獄』までもめぐり歩いて人々の変わりに苦しみを受けてくれる菩薩。(皆の人気者です。)将軍が行灯先生の背中に後光が差して見えたのも道理かも。フフフ。『阿修羅』も『将軍』も『魔人』も『お地蔵さん』には敵わないのですよん。
ネット復活後も新作アップでうきうきです。これからも楽しみにしています。
わたくしも霧島さんちネット復活にヨロコンダひとりでございます。(先週末は、霧島さんの過去の作品を読み直していました。)
で、仏像ファンの私はひとこと書き込みたくて書き込みたくてウズウズしておりました。
『お地蔵さん』こと地蔵菩薩は、他の如来をめざしている菩薩とは違って『地獄』までもめぐり歩いて人々の変わりに苦しみを受けてくれる菩薩。(皆の人気者です。)将軍が行灯先生の背中に後光が差して見えたのも道理かも。フフフ。『阿修羅』も『将軍』も『魔人』も『お地蔵さん』には敵わないのですよん。
ネット復活後も新作アップでうきうきです。これからも楽しみにしています。
Re:(^^)
いらっしゃいませ。コメント有難う御座いました。
ご来場の皆様からの有難いお言葉に感激しているところです。
そうかー、お地蔵さまって地獄まで助けに来てくれるんですね。霧島の貧困なイメージでは、お地蔵様=水子供養=風車と賽ノ河原、ぐらいですが。ちょっと調べてみようかな……水子ネタでホラーが書けないか?
いいこと教えてもらったぞ。どうも有難う御座います。
また遊びにいらして下さいませ。ウッカリ何か吹き込むと、調子に乗るかもしれません。
ご来場の皆様からの有難いお言葉に感激しているところです。
そうかー、お地蔵さまって地獄まで助けに来てくれるんですね。霧島の貧困なイメージでは、お地蔵様=水子供養=風車と賽ノ河原、ぐらいですが。ちょっと調べてみようかな……水子ネタでホラーが書けないか?
いいこと教えてもらったぞ。どうも有難う御座います。
また遊びにいらして下さいませ。ウッカリ何か吹き込むと、調子に乗るかもしれません。