パラレル警報発令中
説明くさい場面が続いているので、読むのが鬱陶しくなってませんでしょうか? 今回も説明くさいです。
さて今日の大ウソ。
⑫専売の藍の出荷方法は想像です。
藩の一級品であることを証明する木札を付けて売ったとか、嘘です。
俵で出荷していたのは間違いないんだけどなぁ。
大体、同じ藩内で流通させていたのか怪しいと思うんだ。領外へ向けて出荷するのがフツーだと思うんだけど……だって自分の領内で売ったって儲けたことにならない気がするし。
まあそこらへんは華麗にスルーして下さい。
説明くさい場面が続いているので、読むのが鬱陶しくなってませんでしょうか? 今回も説明くさいです。
さて今日の大ウソ。
⑫専売の藍の出荷方法は想像です。
藩の一級品であることを証明する木札を付けて売ったとか、嘘です。
俵で出荷していたのは間違いないんだけどなぁ。
大体、同じ藩内で流通させていたのか怪しいと思うんだ。領外へ向けて出荷するのがフツーだと思うんだけど……だって自分の領内で売ったって儲けたことにならない気がするし。
まあそこらへんは華麗にスルーして下さい。
一方、速水様のお屋敷を抜け出したきみ様は、勘定奉行・曳地が持つ妾宅の一つへと連れていかれました。
そう、きみ様が東城下へ戻られた際、駕籠かきに渡した書状は全てこの為のもの、曳地宛だったので御座います。
墨染の尼僧姿のきみ様は、流石に緊張の面持ちで御座いましたが、毅然と頭を上げておられました。
「さて、女。お前が江志久村で手に入れた物を返して貰おう」
曳地の言葉に、きみは懐からほんの少しだけ紫色の袱紗を覗かせた。
曳地の目が底光りを放つ。
きみは素早く袱紗を懐に隠した。
「そちらが先で御座います。書状の品、ご用意頂けましたでしょうな?」
「ふん」
曳地が鼻を鳴らして顎をしゃくると、背後から進み出た侍が三方に赤い袱紗で包まれたものを載せて持ってきた。きみの前に無言で三方を置いて、やはり何も言わずに侍はまた後ろへ下がった。
きみはそっと袱紗を開いた。
中から出てきたのは印籠だった。
上質の黒漆の地に、桜宮藩主高階家の家紋である八重山桜が螺鈿で施されている。紋の一つ一つが小さいので、花の散る様を描いているようだ。
特筆すべきは根付と緒締めの部分だった。大小揃いの緑色の石を使っている。翡翠なのだ。
外で持っていれば、たちまち奢侈禁令に問われる品である。
「あ、にうえ…………」
曳地に聞こえないように、きみは小さな声で呟いた。
この印籠は、田口公平が藩主・高階上総介から拝領した品だった。
とても大切にし、公の場へ出る時は必ず持っていたものだった。
その印籠がどうして曳地の手にあるのか。
薄々予感はしていたが、これできみは確信した。
「やはり、田口を殺めたのは曳地様でしたか」
「…………何を言い出すのやら」
曳地の口元が一瞬引き攣ったが、曳地は静かな口調で切り返した。
きみは印籠を胸に抱き締めて、曳地を見据えた。
「田口は切腹の作法などというものを、心底嫌っておりました。死に様に作法などあるものか、と武家としてはあるまじきことですが、覚えるつもりすらなかった……その田口が、どうしてああも見事に切腹など出来たのか」
五年前、田口公平の葬儀はひっそりと行われた。
悔みの言葉に「ご立派に腹を召された」などと言われ、そこできみは兄の死を疑問に思った。
そもそも兄は武芸全般が大の苦手で、刃物はせいぜいが爪切りと剃刀ぐらいしか使えない人なのだ。
「嘗て碧翠館で教えておられた巌雄先生が仰っておりましたよ。横に入る筈の刃が縦に入っている、最初に突かれたのではないか……と」
「女……田口の縁者か…………?」
「ええ」
きみは笑ってやった。
藩の官札を偽造して私腹を肥やし、それが暴かれそうになると謀反の疑いをかけて獄中で密かに殺める。挙句、欲に目が眩んで故人の遺品を我が物とする。
そこまでしておきながら、恨まれない筈が無かろうに。
「はっ、仇討の為に女だてらに乗り込んできた訳か。度胸だけは大したものだが……所詮、女子の浅知恵。考えが甘いのう」
開き直ったのか、曳地は滑らかに喋り出す。
曳地が扇子を鳴らせば、隣の部屋の襖を蹴倒して侍たちが現れた。誰もが手に抜き身の刀を下げている。
「江志久村で偽の官札を手に入れたということは、儂のしていることも知っているのであろう?」
「そうですね」
「なれば、生かしておく道理もないな。焼き鏝も、死体から取り戻せばいいだけの話だ。おい、顔を見てやれ」
曳地の指示に、最も曳地に近い位置にいた侍が刀の切っ先を上げた。頬をかすめて頭巾を引っ掛ける。きみの頬が浅く切れた。
頭巾が奪われ、髪を解いて肩口で纏めていた姿が露わになる。
それでもきみは微動だにせず、曳地を睨みつけていた。
「ふん」
つまらなそうに言って、曳地は後ろへ下がった。
たちまちに幾人もの侍がきみを取り囲む。
刀を向けられながら、きみはまた笑った。
「曳地様こそ考えが甘くていらっしゃる。私が誰にも、何も言っていないと、本気で思っていらっしゃるのか? こうなることを考えていなかったとでも?」
懐に隠していた袱紗を乱暴に畳に投げ出した。
軽い音を立てて着地する。焼き鏝が入っているならもっと重い筈だ。
近くの侍が慌てて袱紗を開き、中に入っているのが、ただ紙を丸めたものだと知って愕然とする。
曳地も歯軋りをした。
「女…………っ」
「ええ、私はここで死ぬでしょう。ですが、貴方も道連れです。貴方は私を殺めることで、全ての罪と、兄への謀を認めることになる……」
薄く笑いながら、きみは最後に残した文のことを思った。
兄の死に関しては、疑惑のみで証拠が無かった。きみにとっては兄の汚名を雪ぐことが第一で、官札の偽造で曳地を裁くだけでは足りなかった。
だから文の中で、兄の形見の印籠を取り戻すために曳地の元へ乗り込むこと、そこで己が死ぬだろうこと、己の死を兄に対する謀の証左とし、兄にかけられた謀反の疑いを払いたいこと……そこまで書き残した。
速水なら、兄の汚名を雪ぎ、曳地に引導渡してくれると信じている。
速水に語らなかったことがたくさんある。
一太郎にも、嘘を吐いたままだ。
おそらくいつかは解ってしまう……一太郎はあんなに速水に似ている。
初めて会った時、きみも速水も七つの子供だった。一太郎はあの時の速水にどんどん似てくる。それが嬉しくて、切なかった。
だが、親の贔屓目かもしれないが、一太郎なら己の生きる道を己の手で開いていける。
そう信じている。
「さあ、お覚悟召されませ」
無数の刀を突き付けられているのはきみの方だ。
だが、勝ち誇るような笑顔と共に、きみは宣告した。
そう、きみ様が東城下へ戻られた際、駕籠かきに渡した書状は全てこの為のもの、曳地宛だったので御座います。
墨染の尼僧姿のきみ様は、流石に緊張の面持ちで御座いましたが、毅然と頭を上げておられました。
「さて、女。お前が江志久村で手に入れた物を返して貰おう」
曳地の言葉に、きみは懐からほんの少しだけ紫色の袱紗を覗かせた。
曳地の目が底光りを放つ。
きみは素早く袱紗を懐に隠した。
「そちらが先で御座います。書状の品、ご用意頂けましたでしょうな?」
「ふん」
曳地が鼻を鳴らして顎をしゃくると、背後から進み出た侍が三方に赤い袱紗で包まれたものを載せて持ってきた。きみの前に無言で三方を置いて、やはり何も言わずに侍はまた後ろへ下がった。
きみはそっと袱紗を開いた。
中から出てきたのは印籠だった。
上質の黒漆の地に、桜宮藩主高階家の家紋である八重山桜が螺鈿で施されている。紋の一つ一つが小さいので、花の散る様を描いているようだ。
特筆すべきは根付と緒締めの部分だった。大小揃いの緑色の石を使っている。翡翠なのだ。
外で持っていれば、たちまち奢侈禁令に問われる品である。
「あ、にうえ…………」
曳地に聞こえないように、きみは小さな声で呟いた。
この印籠は、田口公平が藩主・高階上総介から拝領した品だった。
とても大切にし、公の場へ出る時は必ず持っていたものだった。
その印籠がどうして曳地の手にあるのか。
薄々予感はしていたが、これできみは確信した。
「やはり、田口を殺めたのは曳地様でしたか」
「…………何を言い出すのやら」
曳地の口元が一瞬引き攣ったが、曳地は静かな口調で切り返した。
きみは印籠を胸に抱き締めて、曳地を見据えた。
「田口は切腹の作法などというものを、心底嫌っておりました。死に様に作法などあるものか、と武家としてはあるまじきことですが、覚えるつもりすらなかった……その田口が、どうしてああも見事に切腹など出来たのか」
五年前、田口公平の葬儀はひっそりと行われた。
悔みの言葉に「ご立派に腹を召された」などと言われ、そこできみは兄の死を疑問に思った。
そもそも兄は武芸全般が大の苦手で、刃物はせいぜいが爪切りと剃刀ぐらいしか使えない人なのだ。
「嘗て碧翠館で教えておられた巌雄先生が仰っておりましたよ。横に入る筈の刃が縦に入っている、最初に突かれたのではないか……と」
「女……田口の縁者か…………?」
「ええ」
きみは笑ってやった。
藩の官札を偽造して私腹を肥やし、それが暴かれそうになると謀反の疑いをかけて獄中で密かに殺める。挙句、欲に目が眩んで故人の遺品を我が物とする。
そこまでしておきながら、恨まれない筈が無かろうに。
「はっ、仇討の為に女だてらに乗り込んできた訳か。度胸だけは大したものだが……所詮、女子の浅知恵。考えが甘いのう」
開き直ったのか、曳地は滑らかに喋り出す。
曳地が扇子を鳴らせば、隣の部屋の襖を蹴倒して侍たちが現れた。誰もが手に抜き身の刀を下げている。
「江志久村で偽の官札を手に入れたということは、儂のしていることも知っているのであろう?」
「そうですね」
「なれば、生かしておく道理もないな。焼き鏝も、死体から取り戻せばいいだけの話だ。おい、顔を見てやれ」
曳地の指示に、最も曳地に近い位置にいた侍が刀の切っ先を上げた。頬をかすめて頭巾を引っ掛ける。きみの頬が浅く切れた。
頭巾が奪われ、髪を解いて肩口で纏めていた姿が露わになる。
それでもきみは微動だにせず、曳地を睨みつけていた。
「ふん」
つまらなそうに言って、曳地は後ろへ下がった。
たちまちに幾人もの侍がきみを取り囲む。
刀を向けられながら、きみはまた笑った。
「曳地様こそ考えが甘くていらっしゃる。私が誰にも、何も言っていないと、本気で思っていらっしゃるのか? こうなることを考えていなかったとでも?」
懐に隠していた袱紗を乱暴に畳に投げ出した。
軽い音を立てて着地する。焼き鏝が入っているならもっと重い筈だ。
近くの侍が慌てて袱紗を開き、中に入っているのが、ただ紙を丸めたものだと知って愕然とする。
曳地も歯軋りをした。
「女…………っ」
「ええ、私はここで死ぬでしょう。ですが、貴方も道連れです。貴方は私を殺めることで、全ての罪と、兄への謀を認めることになる……」
薄く笑いながら、きみは最後に残した文のことを思った。
兄の死に関しては、疑惑のみで証拠が無かった。きみにとっては兄の汚名を雪ぐことが第一で、官札の偽造で曳地を裁くだけでは足りなかった。
だから文の中で、兄の形見の印籠を取り戻すために曳地の元へ乗り込むこと、そこで己が死ぬだろうこと、己の死を兄に対する謀の証左とし、兄にかけられた謀反の疑いを払いたいこと……そこまで書き残した。
速水なら、兄の汚名を雪ぎ、曳地に引導渡してくれると信じている。
速水に語らなかったことがたくさんある。
一太郎にも、嘘を吐いたままだ。
おそらくいつかは解ってしまう……一太郎はあんなに速水に似ている。
初めて会った時、きみも速水も七つの子供だった。一太郎はあの時の速水にどんどん似てくる。それが嬉しくて、切なかった。
だが、親の贔屓目かもしれないが、一太郎なら己の生きる道を己の手で開いていける。
そう信じている。
「さあ、お覚悟召されませ」
無数の刀を突き付けられているのはきみの方だ。
だが、勝ち誇るような笑顔と共に、きみは宣告した。
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