お盆に間に合った! 8月の企画スタートです。
題して「盂蘭盆会便乗納涼企画・怪談に挑戦月間」で御座います。
本日その第一弾目。
まあねー、霧島の書くものだからせいぜい「ホラーファンタジー」くらいな気がします。あんまり涼しくはならないと思う……が、それなりに「怪談」要素を強めにしようかなぁという試みです。
今日の単発が一つ、三回くらいの続きものになりそうなのが一つあります。これで2週間稼げるな。
08年の「このミス」で、行灯先生の「怪談は嫌い」の一言に舞い上がった人は大勢いるかと思います。霧島もその一人です。
でまあ、病院の怪談をやろうと思った。
現代の怪談ってどんなかなーっと思ってそのテの本を読んでみたのですが、どうにも把握しにくくていっそ丸々創作することにしました。
そんなワケで、今回の怪談は霧島の捏造です。
題して「盂蘭盆会便乗納涼企画・怪談に挑戦月間」で御座います。
本日その第一弾目。
まあねー、霧島の書くものだからせいぜい「ホラーファンタジー」くらいな気がします。あんまり涼しくはならないと思う……が、それなりに「怪談」要素を強めにしようかなぁという試みです。
今日の単発が一つ、三回くらいの続きものになりそうなのが一つあります。これで2週間稼げるな。
08年の「このミス」で、行灯先生の「怪談は嫌い」の一言に舞い上がった人は大勢いるかと思います。霧島もその一人です。
でまあ、病院の怪談をやろうと思った。
現代の怪談ってどんなかなーっと思ってそのテの本を読んでみたのですが、どうにも把握しにくくていっそ丸々創作することにしました。
そんなワケで、今回の怪談は霧島の捏造です。
一人の看護師が夜の見回りをしている最中だった。
廊下の真ん中に白い入院着で佇んでいる年寄りを見つけた。
徘徊かと思って、看護師は声をかけた。
「おばあちゃん、どうしたんですか?」
本来なら"おばあちゃん"はNGだが、名前が解らないので仕方がない。
顔も見覚えがないので、ひょっとしたら病棟も違うのかと思われた。
これは面倒くさくなりそうだと思いながらも、看護師は笑顔を作って声をかけた。
「おばあちゃん、どうしたんですか? おトイレ?」
「いいえぇ」
老女はのんびりとした口調で言う。
こちらの問いかけに返事があるならまだ大丈夫かと、看護師は少し安心した。
「トイレじゃないの? お部屋は何処ですかぁ?」
「お部屋?」
「そう、お部屋。何処?」
「お部屋。私のお部屋はねぇ……」
そう言って老女はゆっくりと歩き出す。
見届ける義務がある看護師は、その後ろからついていった。
老女は廊下の突き当たりまでくると、階段を下り始める。
やっぱり違う病棟だったか、部屋を覚えていてくれて助かった、と看護師は密かに思った。
「こっちこっち」
まるで子供が遊びに誘うように、無邪気に老女は下りていく。
しかし、何度目かの踊り場を過ぎたところで、看護師は不審に思い始めた。
踊り場の非常灯で浮かんだ数字は、病院長室がある四階。この下に入院できる病室は確か……。
「こっちこっち」
ICU病棟へ続く二階も通り過ぎる。外来の入口のある一階。
更にその下へ。
「私のお部屋、ここですよ」
老女が指差したのは、地下にある遺体安置室の扉だった……。
「……お前、俺が今日宿直だって解っててそういう話してるだろ?」
明るい昼間の愚痴外来・奥の院で、田口は盛大に顔を顰めた。
速水はニヤリと笑ってコーヒーを啜る。
怪談嫌いの田口をからかうのは、昔から速水の楽しみの一つだった。
大体、人が死ぬところに幽霊は出るものなのだから、病院に幽霊の百や二百は当たり前である。
その病院に勤務して二十年近くになろうというのに、未だ他愛ない怪談でイヤな顔をする田口が楽しくて仕方がない。
「怖くなったのか? 何だったら添い寝してやるぞ」
速水は冗談口を叩いた。
女性看護師が聞いたら我先に手を上げるであろうセリフだ。
田口の返答はというと。
「速水クン、傍にいてくれる?」
「勿論さ。さあ、俺の胸に飛び込んでおいで、ハニー」
「「……………………」」
ご丁寧に両手を組んで、お願いのポーズを付けて言った田口に対し、速水はわざとらしく気取った仕草で腕を広げてみせた。
そのまま二人、黙り込んでしまう。
「…………寒っ」
「…………気色悪ぃ」
沈黙の末に、それぞれ思い切り嫌そうな表情を浮かべて吐き捨てるように呟いた。
「今どき『ハニー』って、何処の誰が言うんだよ」
「そういうお前こそ、なぁにが『速水クン』だぁ? お前がぶりっ子したって可愛くねーっての」
「当たり前だろ。大体お前がおかしな話をするから悪い」
「いーじゃねえか。やっぱり怪談は夏だよな」
「そんな風物詩要らない」
実にまあ、いい年して立派な職業に就いている大人がする会話とも思えない会話が展開されたのである。
「田口先生、宿直の日に夜が怖くて速水先生に添い寝して貰ったんですって?」
呼び出された病院長室で、ひねこびた笑いと共に高階病院長に言われて田口は麦茶を吹き出した。
先日の冗談口は、「冗談だ」という事実をスッパリ切り落として噂に化けたらしかった。
速水が広げた腕に田口が飛び込み、云々……というところまで成長したらしく、藤原から聞いた時にも田口は目を剥いた。
「解ってて仰ってるでしょう? 私と速水の、いつもの冗談だってこと」
「勿論ですよ。でも田口先生、冗談もほどほどにしておいた方がよさそうですね」
「ええ、思い知りましたよ…………」
高々噂の一つ二つで、病院長にまでからかわれては堪らない。
今度はもう少し穏当な冗談口を叩こうと田口は密かに思ったのだった。
しかし、速水の方に際どい冗談を慎むつもりがなければ意味が無い、ということにこの時の田口は気付かないのである。
廊下の真ん中に白い入院着で佇んでいる年寄りを見つけた。
徘徊かと思って、看護師は声をかけた。
「おばあちゃん、どうしたんですか?」
本来なら"おばあちゃん"はNGだが、名前が解らないので仕方がない。
顔も見覚えがないので、ひょっとしたら病棟も違うのかと思われた。
これは面倒くさくなりそうだと思いながらも、看護師は笑顔を作って声をかけた。
「おばあちゃん、どうしたんですか? おトイレ?」
「いいえぇ」
老女はのんびりとした口調で言う。
こちらの問いかけに返事があるならまだ大丈夫かと、看護師は少し安心した。
「トイレじゃないの? お部屋は何処ですかぁ?」
「お部屋?」
「そう、お部屋。何処?」
「お部屋。私のお部屋はねぇ……」
そう言って老女はゆっくりと歩き出す。
見届ける義務がある看護師は、その後ろからついていった。
老女は廊下の突き当たりまでくると、階段を下り始める。
やっぱり違う病棟だったか、部屋を覚えていてくれて助かった、と看護師は密かに思った。
「こっちこっち」
まるで子供が遊びに誘うように、無邪気に老女は下りていく。
しかし、何度目かの踊り場を過ぎたところで、看護師は不審に思い始めた。
踊り場の非常灯で浮かんだ数字は、病院長室がある四階。この下に入院できる病室は確か……。
「こっちこっち」
ICU病棟へ続く二階も通り過ぎる。外来の入口のある一階。
更にその下へ。
「私のお部屋、ここですよ」
老女が指差したのは、地下にある遺体安置室の扉だった……。
「……お前、俺が今日宿直だって解っててそういう話してるだろ?」
明るい昼間の愚痴外来・奥の院で、田口は盛大に顔を顰めた。
速水はニヤリと笑ってコーヒーを啜る。
怪談嫌いの田口をからかうのは、昔から速水の楽しみの一つだった。
大体、人が死ぬところに幽霊は出るものなのだから、病院に幽霊の百や二百は当たり前である。
その病院に勤務して二十年近くになろうというのに、未だ他愛ない怪談でイヤな顔をする田口が楽しくて仕方がない。
「怖くなったのか? 何だったら添い寝してやるぞ」
速水は冗談口を叩いた。
女性看護師が聞いたら我先に手を上げるであろうセリフだ。
田口の返答はというと。
「速水クン、傍にいてくれる?」
「勿論さ。さあ、俺の胸に飛び込んでおいで、ハニー」
「「……………………」」
ご丁寧に両手を組んで、お願いのポーズを付けて言った田口に対し、速水はわざとらしく気取った仕草で腕を広げてみせた。
そのまま二人、黙り込んでしまう。
「…………寒っ」
「…………気色悪ぃ」
沈黙の末に、それぞれ思い切り嫌そうな表情を浮かべて吐き捨てるように呟いた。
「今どき『ハニー』って、何処の誰が言うんだよ」
「そういうお前こそ、なぁにが『速水クン』だぁ? お前がぶりっ子したって可愛くねーっての」
「当たり前だろ。大体お前がおかしな話をするから悪い」
「いーじゃねえか。やっぱり怪談は夏だよな」
「そんな風物詩要らない」
実にまあ、いい年して立派な職業に就いている大人がする会話とも思えない会話が展開されたのである。
「田口先生、宿直の日に夜が怖くて速水先生に添い寝して貰ったんですって?」
呼び出された病院長室で、ひねこびた笑いと共に高階病院長に言われて田口は麦茶を吹き出した。
先日の冗談口は、「冗談だ」という事実をスッパリ切り落として噂に化けたらしかった。
速水が広げた腕に田口が飛び込み、云々……というところまで成長したらしく、藤原から聞いた時にも田口は目を剥いた。
「解ってて仰ってるでしょう? 私と速水の、いつもの冗談だってこと」
「勿論ですよ。でも田口先生、冗談もほどほどにしておいた方がよさそうですね」
「ええ、思い知りましたよ…………」
高々噂の一つ二つで、病院長にまでからかわれては堪らない。
今度はもう少し穏当な冗談口を叩こうと田口は密かに思ったのだった。
しかし、速水の方に際どい冗談を慎むつもりがなければ意味が無い、ということにこの時の田口は気付かないのである。
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