単行本版赤本と「ひかり」を購入しました。
本屋で「ひかり」を立ち読みしてて、東城大学シーンにのたうち回るかと思ったね、マジで。その勢いで買ったようなものです。
というワケで、「ひかり」購入記念、学生時代時代考証付きのシリーズ。
第一弾(といいつつ、第二弾までしか考えてないけど)は将軍と行灯とトトロで。
本屋で「ひかり」を立ち読みしてて、東城大学シーンにのたうち回るかと思ったね、マジで。その勢いで買ったようなものです。
というワケで、「ひかり」購入記念、学生時代時代考証付きのシリーズ。
第一弾(といいつつ、第二弾までしか考えてないけど)は将軍と行灯とトトロで。
「どこ行ったんだ、アイツ?」
「行灯が食いっぱぐれるのは構わんが、その後ぶっ倒れるからなぁ」
速水と島津はぼやきながら病棟内を徘徊していた。
実習中は僅かな時間も貴重だ。
昼飯に当てる時間は、ついでにレポートの前準備にも費やされる。
ところが、三人の中で一番鈍くさい田口の姿が見当たらない。
後の面倒を思うと、田口にはしっかり食事をしてほしいところである。
俺達って面倒見がいいなぁ、などと内心自画自賛していると、賑やかな歌声が聞こえてきた。
とっとろ、とっと~~ろ♪ とっとろ、とっと~~ろ♪
声の調子ですぐ解ったが、子供たちが幾人も集まって大合唱中だった。
病院は静かに、なんて小言は子供には通用しない。
しかし、その子供達の真ん中に田口の姿を発見して速水も島津も呆気にとられた。
「…………何やってんだ、行灯?」
「…………見ての通りだ」
見ての通り、というと。
「子供たちに捕まって、歌を歌っている?」
「そんなとこ」
島津の冷静な分析に、田口は草臥れた表情で頷いた。
その田口のよれよれ具合に、速水は盛大に噴き出した。
「いやあ御苦労だな、行灯くん」
「黙れ」
「こーへー先生、続きは?」
田口の一番近くにいた女の子が、田口の白衣を引っ張ってせがんだ。
田口はすぐに表情を和らげる。
「あーはいはい。もーりーのなーかに、だっけ?」
「違うよ、二番だもん」
「えっと」
「月夜」
「あ、そうだったね。つーきーよのばんに、おかりなふーいてる」
田口が教わったフレーズを、女の子の顔を見ながら歌う。
女の子は、よくできました、とばかりに笑って、田口と一緒に続きを歌い出した。他の子供たちも一緒になって、たちまち大合唱になる。
となりのとっとろ、とっと~~ろ♪ とっとろ、とっと~~ろ♪
盛り上がる一方の子供たちから置いてけぼりにされた速水と島津は、部屋の隅で壁にもたれかかった。
こうやって見ていると、田口は幼稚園の先生のようだった。医者の象徴であり子供たちには恐怖の対象になりかねない白衣も、汚れよけ程度にしか見られていないようだ。
「さすが、東城大のワイドスペクトルコンビだな」
「ワイドなのは行灯だろ」
島津のからかいに、速水は苦笑交じりに答えた。
速水に寄ってくるのはミーハーな女性陣ばかりで、本当に人に好かれるのは田口のような人間だと速水は思う。年寄りと子供に優しく出来る人間がたぶん一番優しい。
二人がぼーっと待っていると、ようやっと解放された田口が子供達の輪から抜け出してきた。
「こーへー先生、行っちゃうの?」
「ゴメンね、俺、ご飯食べてこなきゃ。またね」
「うん、またねー」
子供たちに手を振って、田口は速水と島津の傍へ寄る。
賑やかな病室から離れた途端、肩を落として長い息を吐いた。
「参った…………っ」
「好かれるのはいいことだぞ、うん」
「他人事だと思ってるだろ、島津」
「他人事だからな。な、速水」
「おう。とにかく飯だ、飯。今度ぶっ倒れても担がないぞ、俺は」
「倒れないって」
冗談口を叩きながら、三人は病棟の廊下を進んでいく。
言葉が途切れ、ふと、田口が小さく歌を口ずさんでいるのに速水と島津は気付いた。
「とっとろ、とっと~~ろっ」
二人は揃って噴き出した。
怪訝な顔をする田口に、ニヤニヤ笑いながら速水は言う。
「お前、伝染ったな」
「え、あっ!」
速水に指摘されて田口は焦って頬を赤らめたのだった。
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