将軍のお好みが水落冴子とバタフライ・シャドウなんだから、クラシックは縁遠いだろうなぁと思う。
88年頃の歌手で速水に似合いってゆーと、尾崎豊なんかどうだろ? 年齢的にかなり近いのですが。光GENJIの「パラダイス銀河」とかあったけど、ジャニさんは流石に違うだろうなぁ。
88年頃の歌手で速水に似合いってゆーと、尾崎豊なんかどうだろ? 年齢的にかなり近いのですが。光GENJIの「パラダイス銀河」とかあったけど、ジャニさんは流石に違うだろうなぁ。
案の定、速水は眠気に負けた。
バイオリンの弓が、一糸乱れずとまではいかないまでも、リズムを合わせて跳ね踊る。
遠目でその様子を見ながら、生きているようだと思った。
それが、速水が覚えている最後の景色だった。
「ん…………っ」
「実によく寝てたな」
周囲のざわめきに目が覚めると、田口が呆れ顔で速水を見下ろしていた。
卒業記念コンサートはすっかり終わったらしい。
舞台では、オーケストラ部員たちが友人や家族とはしゃぎ合っている。
バイオリンの一団の中に田口を誘った男を見つけた気がしたが、うろ覚えなので確信はなかった。
「帰るか」
「おう」
田口の言葉に、速水は立ち上がって一つ大きく伸びをした。
窮屈な椅子で寝ていたせいか、背中が強張っている。
「く~~~っ」
「まったく…………だから言ったんだ」
背中を押さえて呻く速水に、田口は呆れた顔を隠そうともしなかった。
こうまでクラシックと相性が合わないかと思うと、速水としても忸怩たるものがあるが。
だが、来る意味はあったのだ。
「わざわざ俺に付き合わなくてもよかったのに」
「バカ言えよ、そこが肝心なんじゃねえか」
「は?」
速水の言葉に田口は首を傾げた。
鈍感な相手にはもっと解り易い言葉を使うべきだ。
速水はにやりと笑ってみせた。
「お前はこーゆうのが好きで、来たかったんだろ。だったらどこだって付き合うさ。お前が楽しければ、それだけで俺も楽しいんだ」
「おま…………っ」
田口は絶句した。
速水の見ている前で、たちまち頬が紅潮していく。
それから顔を隠すように横を向いて腕を上げた。
耳を掻く仕草がわざとらしいと思う。
「…………お前、甘過ぎやしないか?」
「お前限定でな」
やっとのことで田口が呟いた言葉に、速水はさらりと返してやった。
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