妙な成り行きになったものだ、と田口は思う。
結局、桐生と一緒にコンサートに行くことになってしまった。
「お忙しいんじゃないんですか?」
「チーム解散以来、残業してまでする仕事はありません」
「鳴海先生は?」
「リョウには、クラシックは子守唄らしいですよ」
「何で私なんですか?」
「面白い機会ですから」
とまあ、そんなやり取りがあったわけだ。
確かに自分と桐生は異色の取り合わせだろう。面白いといえば面白い……あくまで、傍から見れば、だ。
当事者になっている田口はひたすら戸惑うばかりである。
が、仕事の早いデキル男・桐生は、さっさとチケットを手に入れて、さっさと待ち合わせ時間を決めてしまった。
そういうワケで、市民ホールの前で田口は桐生を待っているわけである。
「お待たせしました」
コートの裾を翻して登場した桐生は、周囲の目を残らず集めるほどの存在感を放っていた。市民ホールというチープな場所には勿体ない存在だ。
周囲の注目も気に止めず、桐生は田口に笑いかける。
そういえば、桐生の表情が緩んだのを見たのはいつだったか。
ここ暫くの騒動で、桐生にも張り詰めた日々が続いていたのだ。
不思議な偶然でコンサートに足を運ぶことになったが、桐生の気分転換にでもなれば、それはそれでいいことだ。
田口はそう思うことにした。
「それじゃ行きましょうか」
田口はゆるりと笑って、ホール内へと歩き出した。
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