前言撤回、今回がラストです。5回目に広がりが見いだせなかったので……。
厚労省の局長逮捕のニュースに、火喰い鳥ならさぞ喜ぶんだろうなぁと思ってしまった。
イヤどっちかっていうと表立って喜ぶ泣き虫局長に「ダメですよ、そーゆうこと言っちゃ。国民の信頼を回復すべく職員一丸とならないと」とか偉そうに窘めておきながら、「でも敵の敵はやっぱり敵なんだよな」と内心ほくそ笑む方か?
愚痴外来創作に足突っ込んでから、お役所関係のニュースにちょっと敏感になった気がします。
厚労省の局長逮捕のニュースに、火喰い鳥ならさぞ喜ぶんだろうなぁと思ってしまった。
イヤどっちかっていうと表立って喜ぶ泣き虫局長に「ダメですよ、そーゆうこと言っちゃ。国民の信頼を回復すべく職員一丸とならないと」とか偉そうに窘めておきながら、「でも敵の敵はやっぱり敵なんだよな」と内心ほくそ笑む方か?
愚痴外来創作に足突っ込んでから、お役所関係のニュースにちょっと敏感になった気がします。
「救急? そんなキツイの、僕は御免だな」
「怠け者め。女ったらしのお前に、産婦人科はぴったりだよ」
田口がコーヒーを淹れている間、旧知の二人はそんな軽口を叩いていた。
速水の冗談口はよく知っているが、清川のどこか薄っぺらい口調は田口の周囲にはいないタイプだと思った。
「お待たせいたしました」
「おう」
田口が声を掛けると、押しかけ客人の速水が偉そうに頷いた。
三つのカップを順にテーブルに置く。清川の前にはソーサー付きの客用カップを、速水と田口自身には個人のマグカップを。
速水にちょっとずれてもらって、田口は速水の隣に座った。
「へえ…………」
清川はゆったりとコーヒーの香りを楽しんでから、ブラックのまま口を付けた。
田口は無言でその様子を見守る。
一口じっくり味わった清川は田口を見てにっこりと笑った。
「素晴らしいの一言に尽きますね。金が取れますよ」
「だろ」
「お前が自慢するなよ……」
清川の称賛に自慢げに頷いたのは速水の方で、田口はというと褒められたことを喜ぶよりも、速水の態度に呆れることになってしまった。
清川の方はそれを気にする様子もなく、コーヒーの味を満喫している。
ふと顔を上げて、田口に向けてにっこりと笑った。
魅力的と言っていい笑顔だ。
「田口先生、帝華大に来ませんか?」
「は?」
「是非ウチでコーヒー淹れて下さいよ。いい額出しますから。ついでにリスクマネジメント委員会もやって貰えると、僕は大助かりだなぁ」
一瞬、田口はそれもいいなぁと思った。
今より給料増えて、コーヒー淹れるだけの仕事。楽だ。
リスクマネジメント委員会云々は聞かなかったことにする。
速水はからりと笑って、田口の肩を抱いた。
「おいこら、ウチの貴重な人材を誘惑するんじゃねえよ。俺の休憩室が無くなっちまうだろ」
「ここは俺の仕事場で、お前の休憩室じゃないんだぞ」
「そういえば、田口先生のご専門は?」
速水の身勝手な主張に愚痴を零すと、清川はふと思い出したように田口に尋ねた。
「ああ、専門は神経内科です」
「血ィ見るのがイヤで、一番手術室から遠そうなトコを選んだんだよな」
「黙ってろよ、速水っ!」
茶々を入れる速水の足を田口は蹴飛ばした。しかしソファに隣り合って座っている状態では、大して力は入らない。速水はちょっと眉を顰めただけだった。
清川がクスっと笑う。
田口は速水を恨めしい気持ちで睨みつけた。
「お前、出てけよ。清川先生だって遊びに来たワケじゃなんだからな」
「まだ昼休みだろ。もちっといいじゃねえか」
「僕も構わないですよ、田口先生。こういう速水を見ているのも面白い」
清川に言われると、流石に速水も渋い表情になる。
それからふと、田口の方を向いた。
「そういやコイツに名前の由来訊いたか?」
「え? 訊いてないけど」
「訊いてやれよ」
改めてそう言われると、却って尋ね辛いのだが。
速水の視線に負けて、田口はいつもの通りにセリフを紡いだ。
「初めて会った方に必ずする質問があるんです。お名前の由来を尋ねていいですか? 答えたくなければ、結構ですけれど」
清川が速水に視線を流した。速水の方はニヤリと笑って返す。
唐突なネタ振りといいこの態度といい、速水は清川の名前の由来を知っているらしい。
田口が内心首を傾げていると、清川の方も疑問を口にした。
「どうしてお前が知ってるんだ?」
「志郎が酔っ払って喋った」
「ったく、アイツは……田口先生。父は男の子が五人欲しかったらしく、カウントダウンのつもりで長男の僕に吾郎、弟に志郎と付けたんですよ」
「で、そこで打ち止めになっちまったんだよな」
「そこは親父の根性の問題だ」
清川の答えに速水が笑いながら茶々を入れた。
田口の脳裏にふと疑問が浮かぶ。
「女の子だったらどうしたんだろ……?」
田口の独り言を聞いて、速水が清川に視線を投げた。清川はちょっと天井を仰いで考える素振りをした。
「親父のことだから、猪鹿蝶とかで揃えたんじゃないか?」
「……蝶子はともかく、猪子や鹿子は気の毒だな」
清川の見解は田口の予想を超えた。それは速水も同感のようで、半分呆れた顔をしている。せめて雪月花とかあるだろう、とは田口の心の中にしまっておいた。
何となく妙な沈黙が漂ったが、不意に速水がコーヒーを一息に飲み干して立ち上がった。
「戻るわ。そろそろ来るみたいだ」
「ん、頑張れよ」
「当たり前だろ」
田口の言葉にからりと笑い、田口の髪を軽く掻き回して速水は出ていった。不定愁訴外来の扉が閉まるか閉まらないかのうちに、院内内線のコールが始まる。
「…………ああ、救急車か」
「ええ」
速水の行動に面食らったらしい清川だったが、すぐに納得の表情になった。
田口は頷いて、速水が置いて行ったマグカップを流しに片付けた。
「さて。邪魔なのもいなくなったことですし、仕事の話に入りましょうか」
「邪魔なの、は速水に気の毒な気もしますが、頃合いですかね。ああでも、コーヒーを堪能してからでいいですか?」
「勿論です」
田口が言うと、清川は小さく苦笑を浮かべる。
清川の言葉に田口は頷いて、自分もコーヒーを堪能すべく、ゆっくりとマグカップに口を寄せたのだった。
「怠け者め。女ったらしのお前に、産婦人科はぴったりだよ」
田口がコーヒーを淹れている間、旧知の二人はそんな軽口を叩いていた。
速水の冗談口はよく知っているが、清川のどこか薄っぺらい口調は田口の周囲にはいないタイプだと思った。
「お待たせいたしました」
「おう」
田口が声を掛けると、押しかけ客人の速水が偉そうに頷いた。
三つのカップを順にテーブルに置く。清川の前にはソーサー付きの客用カップを、速水と田口自身には個人のマグカップを。
速水にちょっとずれてもらって、田口は速水の隣に座った。
「へえ…………」
清川はゆったりとコーヒーの香りを楽しんでから、ブラックのまま口を付けた。
田口は無言でその様子を見守る。
一口じっくり味わった清川は田口を見てにっこりと笑った。
「素晴らしいの一言に尽きますね。金が取れますよ」
「だろ」
「お前が自慢するなよ……」
清川の称賛に自慢げに頷いたのは速水の方で、田口はというと褒められたことを喜ぶよりも、速水の態度に呆れることになってしまった。
清川の方はそれを気にする様子もなく、コーヒーの味を満喫している。
ふと顔を上げて、田口に向けてにっこりと笑った。
魅力的と言っていい笑顔だ。
「田口先生、帝華大に来ませんか?」
「は?」
「是非ウチでコーヒー淹れて下さいよ。いい額出しますから。ついでにリスクマネジメント委員会もやって貰えると、僕は大助かりだなぁ」
一瞬、田口はそれもいいなぁと思った。
今より給料増えて、コーヒー淹れるだけの仕事。楽だ。
リスクマネジメント委員会云々は聞かなかったことにする。
速水はからりと笑って、田口の肩を抱いた。
「おいこら、ウチの貴重な人材を誘惑するんじゃねえよ。俺の休憩室が無くなっちまうだろ」
「ここは俺の仕事場で、お前の休憩室じゃないんだぞ」
「そういえば、田口先生のご専門は?」
速水の身勝手な主張に愚痴を零すと、清川はふと思い出したように田口に尋ねた。
「ああ、専門は神経内科です」
「血ィ見るのがイヤで、一番手術室から遠そうなトコを選んだんだよな」
「黙ってろよ、速水っ!」
茶々を入れる速水の足を田口は蹴飛ばした。しかしソファに隣り合って座っている状態では、大して力は入らない。速水はちょっと眉を顰めただけだった。
清川がクスっと笑う。
田口は速水を恨めしい気持ちで睨みつけた。
「お前、出てけよ。清川先生だって遊びに来たワケじゃなんだからな」
「まだ昼休みだろ。もちっといいじゃねえか」
「僕も構わないですよ、田口先生。こういう速水を見ているのも面白い」
清川に言われると、流石に速水も渋い表情になる。
それからふと、田口の方を向いた。
「そういやコイツに名前の由来訊いたか?」
「え? 訊いてないけど」
「訊いてやれよ」
改めてそう言われると、却って尋ね辛いのだが。
速水の視線に負けて、田口はいつもの通りにセリフを紡いだ。
「初めて会った方に必ずする質問があるんです。お名前の由来を尋ねていいですか? 答えたくなければ、結構ですけれど」
清川が速水に視線を流した。速水の方はニヤリと笑って返す。
唐突なネタ振りといいこの態度といい、速水は清川の名前の由来を知っているらしい。
田口が内心首を傾げていると、清川の方も疑問を口にした。
「どうしてお前が知ってるんだ?」
「志郎が酔っ払って喋った」
「ったく、アイツは……田口先生。父は男の子が五人欲しかったらしく、カウントダウンのつもりで長男の僕に吾郎、弟に志郎と付けたんですよ」
「で、そこで打ち止めになっちまったんだよな」
「そこは親父の根性の問題だ」
清川の答えに速水が笑いながら茶々を入れた。
田口の脳裏にふと疑問が浮かぶ。
「女の子だったらどうしたんだろ……?」
田口の独り言を聞いて、速水が清川に視線を投げた。清川はちょっと天井を仰いで考える素振りをした。
「親父のことだから、猪鹿蝶とかで揃えたんじゃないか?」
「……蝶子はともかく、猪子や鹿子は気の毒だな」
清川の見解は田口の予想を超えた。それは速水も同感のようで、半分呆れた顔をしている。せめて雪月花とかあるだろう、とは田口の心の中にしまっておいた。
何となく妙な沈黙が漂ったが、不意に速水がコーヒーを一息に飲み干して立ち上がった。
「戻るわ。そろそろ来るみたいだ」
「ん、頑張れよ」
「当たり前だろ」
田口の言葉にからりと笑い、田口の髪を軽く掻き回して速水は出ていった。不定愁訴外来の扉が閉まるか閉まらないかのうちに、院内内線のコールが始まる。
「…………ああ、救急車か」
「ええ」
速水の行動に面食らったらしい清川だったが、すぐに納得の表情になった。
田口は頷いて、速水が置いて行ったマグカップを流しに片付けた。
「さて。邪魔なのもいなくなったことですし、仕事の話に入りましょうか」
「邪魔なの、は速水に気の毒な気もしますが、頃合いですかね。ああでも、コーヒーを堪能してからでいいですか?」
「勿論です」
田口が言うと、清川は小さく苦笑を浮かべる。
清川の言葉に田口は頷いて、自分もコーヒーを堪能すべく、ゆっくりとマグカップに口を寄せたのだった。
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