8000番を踏んだKai様のリクエストです。
ご報告&リクエスト有難う御座います。
リク内容は「医師の過労死が増えている、という情報を耳にして将軍のことが心配になる行灯先生」ってことで。
タイトル通り、甘い方面を目指したいと思っておるのですが、はてさてどうなることやら……。
コメント欄を利用して、父の日記念SSSを20行程度で載っけてます。
ぷち・ラヴィアンローズです。
よろしければそちらもお楽しみ下さい。
ご報告&リクエスト有難う御座います。
リク内容は「医師の過労死が増えている、という情報を耳にして将軍のことが心配になる行灯先生」ってことで。
タイトル通り、甘い方面を目指したいと思っておるのですが、はてさてどうなることやら……。
コメント欄を利用して、父の日記念SSSを20行程度で載っけてます。
ぷち・ラヴィアンローズです。
よろしければそちらもお楽しみ下さい。
「お先に失礼します」
「お疲れさまでした」
藤原看護師の挨拶に、田口はデスクからちょっと顔を上げて会釈を返した。田口の手はキーボードの上に浮いたままだ。
藤原看護師は定時で帰るようにしている。一方田口は、本日も残業決定だ。
今暫くは帰れそうにない田口の姿に、藤原看護師は溜息を一つ零した。
「田口先生も、ほどほどになさっておウチへ帰りましょうね? ここ数年、増えているそうですよ、医師の過労死」
「ご忠告、肝に銘じます」
藤原看護師の言葉に謝辞を述べながら、田口はつい笑いたくなった。
藤原看護師が意味ありげに眉を上げるが、敢えて何も言わずに退出した。
不定愁訴外来に一人残された田口は、小さく笑いだす。
「過労死するほど熱心に働いてないよなぁ、俺は」
基本、座って話を聞くのが仕事だ。残業と言っても書類仕事。
過労死というのは、仕事内容がハードな外科医や看護師のなるものだろう。
「…………って」
身近に、過労死しそうにハードワークな男がいることを田口は思い出した。
「おかえり」
退勤ちょっと前に電話を貰って、今日の勤務予定を訊かれていたから、薄々期待はしていた。
期待通りに田口は速水の家に来ていて、笑って出迎えてくれた。
「メシでも風呂でも、どっちでもすぐ出来るけど、どうする?」
「ん――、風呂かなぁ」
「そっか。じゃあどうぞ。風呂場に着替え出してあるから」
「おう、サンキュ」
という遣り取りを経て、気持ちよく風呂へ入り。
火照った体を缶ビールで冷ましているうちに、速水好みのメニューが食卓を飾った。
「お前、ずいぶん作ったな。今日皿数多くねえ?」
「食えないワケじゃないだろ?」
「そりゃあな。腹減ってるし」
「じゃあどうぞ」
「いただきます」
田口に勧められるまま、手を合わせて食事が始まる。
味はいつも通りにちょっと薄味の田口好みで、それが美味いと思うのだから既に速水にも慣れた味だった。
守秘義務に触れない程度に仕事の話をしたり、馴染みの顔の愚痴を言ったり、食事の時間はゆったりと慎ましく過ぎていく。
食後は速水がウィスキーをちびちびやるのを尻目に、田口は食後の片付けと洗濯を並行して行った。室内に洗濯物が干されるのは仕方ない。
「お前、シーツまで洗ったのか?」
「最近洗ってないだろ。ホントは晴れの日にやりたかったけどさぁ」
「この季節じゃ難しいな」
田口は不満顔だ。
しかし、シーツを洗濯したということは、今速水の寝具には綺麗なシーツが敷かれているということ。
ここまでの雰囲気は非常によい。
明日も仕事だが、一度や二度のセックスくらいなら……。
「じゃあ、俺帰るよ」
「へっ?!」
「疲れてるんだろ? 明日も仕事なんだし、たまにはゆっくり休めよ」
にこやかな笑顔と速水の頬にキスを一つ残して、田口は帰った。
速水は玄関のドアが閉まるのをただ呆然と見送ってしまった。
肩透かしもいいところである。
何だか釈然としないまま、寝床に入った速水は夢も見ずに熟睡してしまったのだった。
そんなことが数日続いた。
最初の日はしっかり寝てしまったので、まあ仕方無いと思った。実際、疲れていたということなのだろう。
二日目、少し仕事が長引いた。
帰宅の遅くなった速水を待ってくれていた田口だが、風呂と食事の用意をしてくれただけで、時間が遅いにも関わらずやっぱり帰ってしまった。
ちょっと物足りない気がして、速水の寝付きは悪かった。
次の日は昼過ぎの出勤で、そのまま当直だった。
当直が明けて戻ってみれば、タイマーで仕掛けられた風呂と簡単な食事の用意があった。伝言メモのようなものも。
田口の足跡を見せつけられると、触れ合っていないことを如実に思い出してしまい、速水は眉間に皺を寄せながら寝床に潜った。
その日の夕方にも田口は顔を出した。食材を片手に、にこやかに笑っている。
「お疲れさん。ゆっくり休めたか?」
「まあな」
「よかった。すぐメシ作るよ」
「ああ」
その日の夕食はちょっと豪華なステーキ定食だった。肉の焼き加減も、サイドメニューも完璧である。食後に開けたワインも、値段の割に美味かった。
速水は明日は休み。田口も休みらしい。
ここはもう、甘い夜を期待するのが当然だった。
…………なのに。
「じゃあ、俺帰るから。おやすみ」
「って、ちょっと待てっ!」
薄手のコートを手に立ち上がった田口を、速水は慌てて捕まえた。
田口が驚いた顔をして速水を見下ろしている。
その田口の手を引っ張って隣に座らせると、速水は田口の両肩を押さえて顔を寄せた。視線を逸らすことを許さない距離だ。
「お前、こないだから何なんだ?」
「何って…………俺、何かやったか?」
「何で泊まっていかない?」
食事を作りに来てくれるのは大歓迎だ。風呂の用意も洗濯も、して貰って助かっている。
だが、どうして泊まっていかないのか、そこが解らない。
田口の目は逃げ場を探してウロウロと彷徨ったが、速水は頑として逃がす気はなかった。田口が観念するのをじっと待つ。
「だって…………泊まっていくと、ヤることになるから……」
「それってヤりたくないって意味か?」
暫しの逡巡の後、田口はぼそぼそと答えた。
田口の答えに速水の声が低くなる。田口の肩を押さえる手に、勝手に力が入った。
速水の怒りを感じ取った田口が顔を上げる。
「違っ、お前が疲れてるんじゃないかと思って……っ」
「…………そういやお前、ここんとこ休め休めって言ってるな。俺、そんなに疲れて見えたのか?」
「そういうワケじゃ、ないんだけど、その、医者の過労死が増えてるって藤原さんに聞いて、それで…………」
「俺のことが心配になった?」
「…………うん」
田口の返答に、速水は目を瞬いた。
思い返してみると、ゆっくり休めと言われることがこの数日は何となく多かった気がする。
そこを疑問に思ってみれば、田口は小さな声で全てを白状した。
速水の口元に、今度は勝手に笑みが浮かぶ。
肩を押さえていた手を緩めて、田口の頭を抱え込んだ。田口の額を自分の肩に押し付けるようにしながら髪を掻き混ぜる。
「折角だが余計な心配だよ、行灯」
「でも、お前の仕事がキツイのは事実だろ?」
「まあな。でも、お前いない方が苛ついて眠れない」
「そうなのか?」
田口は速水の表情を確かめる為に顔を上げようとしたが、速水は田口の後頭部を撫でる手をどかさなかった。田口はごそごそと額を速水の肩にすりつけるだけになる。
「大体、メシと風呂は用意してくれるけど泊まりはナシって、生殺しもいいところだぞ。勃たないほど疲れてるワケじゃないし、ヤったからって次の日使いモノにならないほどヤワでもない」
「あああ…………っ」
ちょっとだけいい雰囲気だったが、速水の軽口でムードはたちまちに消え失せた。だが、事態の深刻さも霧散する。
田口が聞きたくないものを聞いたというように、しかめっ面になった。
「泊まってけよ、田口」
「…………うん」
軽くなった空気の中で、速水は田口を誘う。
小さく頷く田口が可愛いと、速水は心の底から思った。
「お疲れですね、田口先生」
一日空けて、不定愁訴外来での話。
朝から大あくびの田口に対し、藤原看護師は呆れ顔で言った。
睡眠時間が足りなかった理由に心当たりのある田口は、藤原看護師から視線を逸らすしかない。
頬が熱くなっているのがバレなければいいのだが、藤原看護師にはお見通しなのだろう。
「そのうち田口先生の方が過労死しますよ。気をつけましょうね」
「はあ…………」
田口には曖昧に頷く以外に返事のしようがなかったのだった。
「お疲れさまでした」
藤原看護師の挨拶に、田口はデスクからちょっと顔を上げて会釈を返した。田口の手はキーボードの上に浮いたままだ。
藤原看護師は定時で帰るようにしている。一方田口は、本日も残業決定だ。
今暫くは帰れそうにない田口の姿に、藤原看護師は溜息を一つ零した。
「田口先生も、ほどほどになさっておウチへ帰りましょうね? ここ数年、増えているそうですよ、医師の過労死」
「ご忠告、肝に銘じます」
藤原看護師の言葉に謝辞を述べながら、田口はつい笑いたくなった。
藤原看護師が意味ありげに眉を上げるが、敢えて何も言わずに退出した。
不定愁訴外来に一人残された田口は、小さく笑いだす。
「過労死するほど熱心に働いてないよなぁ、俺は」
基本、座って話を聞くのが仕事だ。残業と言っても書類仕事。
過労死というのは、仕事内容がハードな外科医や看護師のなるものだろう。
「…………って」
身近に、過労死しそうにハードワークな男がいることを田口は思い出した。
「おかえり」
退勤ちょっと前に電話を貰って、今日の勤務予定を訊かれていたから、薄々期待はしていた。
期待通りに田口は速水の家に来ていて、笑って出迎えてくれた。
「メシでも風呂でも、どっちでもすぐ出来るけど、どうする?」
「ん――、風呂かなぁ」
「そっか。じゃあどうぞ。風呂場に着替え出してあるから」
「おう、サンキュ」
という遣り取りを経て、気持ちよく風呂へ入り。
火照った体を缶ビールで冷ましているうちに、速水好みのメニューが食卓を飾った。
「お前、ずいぶん作ったな。今日皿数多くねえ?」
「食えないワケじゃないだろ?」
「そりゃあな。腹減ってるし」
「じゃあどうぞ」
「いただきます」
田口に勧められるまま、手を合わせて食事が始まる。
味はいつも通りにちょっと薄味の田口好みで、それが美味いと思うのだから既に速水にも慣れた味だった。
守秘義務に触れない程度に仕事の話をしたり、馴染みの顔の愚痴を言ったり、食事の時間はゆったりと慎ましく過ぎていく。
食後は速水がウィスキーをちびちびやるのを尻目に、田口は食後の片付けと洗濯を並行して行った。室内に洗濯物が干されるのは仕方ない。
「お前、シーツまで洗ったのか?」
「最近洗ってないだろ。ホントは晴れの日にやりたかったけどさぁ」
「この季節じゃ難しいな」
田口は不満顔だ。
しかし、シーツを洗濯したということは、今速水の寝具には綺麗なシーツが敷かれているということ。
ここまでの雰囲気は非常によい。
明日も仕事だが、一度や二度のセックスくらいなら……。
「じゃあ、俺帰るよ」
「へっ?!」
「疲れてるんだろ? 明日も仕事なんだし、たまにはゆっくり休めよ」
にこやかな笑顔と速水の頬にキスを一つ残して、田口は帰った。
速水は玄関のドアが閉まるのをただ呆然と見送ってしまった。
肩透かしもいいところである。
何だか釈然としないまま、寝床に入った速水は夢も見ずに熟睡してしまったのだった。
そんなことが数日続いた。
最初の日はしっかり寝てしまったので、まあ仕方無いと思った。実際、疲れていたということなのだろう。
二日目、少し仕事が長引いた。
帰宅の遅くなった速水を待ってくれていた田口だが、風呂と食事の用意をしてくれただけで、時間が遅いにも関わらずやっぱり帰ってしまった。
ちょっと物足りない気がして、速水の寝付きは悪かった。
次の日は昼過ぎの出勤で、そのまま当直だった。
当直が明けて戻ってみれば、タイマーで仕掛けられた風呂と簡単な食事の用意があった。伝言メモのようなものも。
田口の足跡を見せつけられると、触れ合っていないことを如実に思い出してしまい、速水は眉間に皺を寄せながら寝床に潜った。
その日の夕方にも田口は顔を出した。食材を片手に、にこやかに笑っている。
「お疲れさん。ゆっくり休めたか?」
「まあな」
「よかった。すぐメシ作るよ」
「ああ」
その日の夕食はちょっと豪華なステーキ定食だった。肉の焼き加減も、サイドメニューも完璧である。食後に開けたワインも、値段の割に美味かった。
速水は明日は休み。田口も休みらしい。
ここはもう、甘い夜を期待するのが当然だった。
…………なのに。
「じゃあ、俺帰るから。おやすみ」
「って、ちょっと待てっ!」
薄手のコートを手に立ち上がった田口を、速水は慌てて捕まえた。
田口が驚いた顔をして速水を見下ろしている。
その田口の手を引っ張って隣に座らせると、速水は田口の両肩を押さえて顔を寄せた。視線を逸らすことを許さない距離だ。
「お前、こないだから何なんだ?」
「何って…………俺、何かやったか?」
「何で泊まっていかない?」
食事を作りに来てくれるのは大歓迎だ。風呂の用意も洗濯も、して貰って助かっている。
だが、どうして泊まっていかないのか、そこが解らない。
田口の目は逃げ場を探してウロウロと彷徨ったが、速水は頑として逃がす気はなかった。田口が観念するのをじっと待つ。
「だって…………泊まっていくと、ヤることになるから……」
「それってヤりたくないって意味か?」
暫しの逡巡の後、田口はぼそぼそと答えた。
田口の答えに速水の声が低くなる。田口の肩を押さえる手に、勝手に力が入った。
速水の怒りを感じ取った田口が顔を上げる。
「違っ、お前が疲れてるんじゃないかと思って……っ」
「…………そういやお前、ここんとこ休め休めって言ってるな。俺、そんなに疲れて見えたのか?」
「そういうワケじゃ、ないんだけど、その、医者の過労死が増えてるって藤原さんに聞いて、それで…………」
「俺のことが心配になった?」
「…………うん」
田口の返答に、速水は目を瞬いた。
思い返してみると、ゆっくり休めと言われることがこの数日は何となく多かった気がする。
そこを疑問に思ってみれば、田口は小さな声で全てを白状した。
速水の口元に、今度は勝手に笑みが浮かぶ。
肩を押さえていた手を緩めて、田口の頭を抱え込んだ。田口の額を自分の肩に押し付けるようにしながら髪を掻き混ぜる。
「折角だが余計な心配だよ、行灯」
「でも、お前の仕事がキツイのは事実だろ?」
「まあな。でも、お前いない方が苛ついて眠れない」
「そうなのか?」
田口は速水の表情を確かめる為に顔を上げようとしたが、速水は田口の後頭部を撫でる手をどかさなかった。田口はごそごそと額を速水の肩にすりつけるだけになる。
「大体、メシと風呂は用意してくれるけど泊まりはナシって、生殺しもいいところだぞ。勃たないほど疲れてるワケじゃないし、ヤったからって次の日使いモノにならないほどヤワでもない」
「あああ…………っ」
ちょっとだけいい雰囲気だったが、速水の軽口でムードはたちまちに消え失せた。だが、事態の深刻さも霧散する。
田口が聞きたくないものを聞いたというように、しかめっ面になった。
「泊まってけよ、田口」
「…………うん」
軽くなった空気の中で、速水は田口を誘う。
小さく頷く田口が可愛いと、速水は心の底から思った。
「お疲れですね、田口先生」
一日空けて、不定愁訴外来での話。
朝から大あくびの田口に対し、藤原看護師は呆れ顔で言った。
睡眠時間が足りなかった理由に心当たりのある田口は、藤原看護師から視線を逸らすしかない。
頬が熱くなっているのがバレなければいいのだが、藤原看護師にはお見通しなのだろう。
「そのうち田口先生の方が過労死しますよ。気をつけましょうね」
「はあ…………」
田口には曖昧に頷く以外に返事のしようがなかったのだった。
PR
COMMENT
父の日記念SSS
「はいパパ、あげるっ」
「パパ、だいすきっ」
二人の可愛い娘たちがそれぞれ差し出した黄色いバラを受け取って、速水は相好を崩した。
「ありがとな、あき、きみ」
双子の娘たちの頬に順番にキスをすると、娘たちはクスクスと笑う。
田口がそんな父子を微笑とともに見守っていると、ふと、娘たちは速水の腕を抜け出して田口のジーンズを引いて尋ねた。
「ママは?」
「パパにお花あげないの?」
「速水はママのパパじゃなくて旦那さまだからなぁ」
不思議そうな顔をする二人の娘に、田口は茶目っ気のある笑顔を見せた。
「大好きな人にあげるのは、黄色じゃなくて赤いバラだから、今日はあげない」
「…………という夢を見たけど、お前、俺に寄越すモンないか?」
月曜の朝っぱらから赤いバラを強請りに来る速水に、コイツ本気で脳ミソに黴生えたなと田口はしみじみ思ったのだった。
「パパ、だいすきっ」
二人の可愛い娘たちがそれぞれ差し出した黄色いバラを受け取って、速水は相好を崩した。
「ありがとな、あき、きみ」
双子の娘たちの頬に順番にキスをすると、娘たちはクスクスと笑う。
田口がそんな父子を微笑とともに見守っていると、ふと、娘たちは速水の腕を抜け出して田口のジーンズを引いて尋ねた。
「ママは?」
「パパにお花あげないの?」
「速水はママのパパじゃなくて旦那さまだからなぁ」
不思議そうな顔をする二人の娘に、田口は茶目っ気のある笑顔を見せた。
「大好きな人にあげるのは、黄色じゃなくて赤いバラだから、今日はあげない」
「…………という夢を見たけど、お前、俺に寄越すモンないか?」
月曜の朝っぱらから赤いバラを強請りに来る速水に、コイツ本気で脳ミソに黴生えたなと田口はしみじみ思ったのだった。