遠方より来たるあり・３

現時点での予想は5回。今回は将軍を出しますぜ。


ところで本日6月11日は傘の日だそうです。入梅に合わせ、傘の販促と使用マナー向上を訴えて設定された記念日です。
コメントを利用して、10行ぐらいの記念日SSSをくっつけていますので、そちらも是非読んでやって下さい。


も一つおまけ。サイト更新してます。
バレンタイン後の将軍イジメ週間ものを再録してます。

「へぇ…………」

非常階段から外へ行くとの案内に、清川は思わず笑った。
何というか、帝華大では考えられない鷹揚さだと思ったのだ。
非常階段の途中で田口はちょっと清川を見上げて笑った。

「その節はお世話になりました」
「は？」

今日が初対面の筈である。
当然ながら清川には礼を言われるような心当たりが全くなくて、首を傾げてしまった。
そんな清川に田口はゆるりと笑う。

「医鷲旗の優勝決定戦です。友人と賭けをしたんですよ」
「それで礼を仰ると言うことは、速水が負ける方に賭けた？」

田口はにっと笑った。
速水とは同期と言っていたが、一筋縄ではいかない付き合いらしい。
田口の表情を見て、なるほど高階を出し抜いたのも一理ある、と清川は密かに思ったのだった。



非常階段下にあったドアを開けた途端、ふわりと漂った香りに清川は目を細めた。コーヒーの残り香だ。

「田口先生はコーヒー党ですか？」
「清川先生も？」
「ええ」
「それはよかった」

清川の答えに田口はにっこりと、今度は人の好い笑顔を浮かべて頷いた。パーテーションを二つ抜け、奥まで進む。
と。

「遅ぇよ。行灯、コーヒー」

ソファにどっかり座っていた男が、首を逸らして偉そうに言った。
田口は溜息を吐いた。

「いきなりそれはないだろ、速水…………」

田口が呼んだ名前に、清川は目を見開いた。

「速水？」
「ん？　…………清川、か？」

嘗ての好敵手同士が、意外なところでの顔合わせだ。
さて互いにどんな顔をすればいいものやら、流石の清川も咄嗟に繕うことができなかった。
ほんの僅かな時間だが凍結した二人を動かしたのは田口だった。
穏やかな口調で空いているソファを清川に勧めた。

「清川先生、どうぞおかけ下さい。今コーヒーを淹れますので」
「行灯、俺にも」
「解ってるよ」

速水が遠慮なしに田口に言う。田口は振り返りもせずに答えた。
それからふと速水と清川の視線が合う。
速水が小さく笑った。

「アイツのコーヒー美味いぞ。今どきサイフォンで淹れてるからな」
「そりゃ凄い」

清川が思わず振り返ると、田口の前には見慣れない道具がある。コーヒー党とは言え、清川の場合インスタントで満足できる程度だ。本格サイフォンコーヒーなんて、東京でだって滅多に飲めない。
コポコポと沸き始めるお湯の音に、清川の期待は高まるのだった。