6666番をヒットした、初さまのリクエストです。
ヒットおめでとう御座います。そしてリクエスト有難うございます。
複数リクエストの中から、「『4月のラヴィアンローズ』の続き。ほのぼの日常」をチョイスしました。
表に出る機会のなさそうな裏設定があったんですが、それが日の目を見られそうです。有難う御座います。
それではどうぞです。
ヒットおめでとう御座います。そしてリクエスト有難うございます。
複数リクエストの中から、「『4月のラヴィアンローズ』の続き。ほのぼの日常」をチョイスしました。
表に出る機会のなさそうな裏設定があったんですが、それが日の目を見られそうです。有難う御座います。
それではどうぞです。
速水が差し出したシフト表を左手、水性ボールペンを右手に、田口は居間の壁にかけてあるカレンダーの前に立った。一つ一つシフトを書き込んでいく。
家事を担う立場として、速水のシフトは重要な問題だ。その日の生活パターンがそっくり変わってしまう。
双子の娘たち、晃子と公子がそんな田口を見つけて首を傾げた。
「ママぁ、何やってるの?」
「何やってるの、ママ?」
「ん、パパのお仕事の予定を書いてるんだ」
ほら、この日曜日、パパお休みだよ。
晃子と公子を交互に抱き上げて、田口はカレンダーを指差した。
ボールペンで書かれた「休」の字は、幼い二人の娘には解らないが、田口がしていることが何となく面白そうだと思ったらしい。
「あき、やりたいっ」
「きみもやる――っ」
二人は揃って声を上げた。
田口はちょっと考え込んだ。
子供二人にやらせたら、とんでもないことになるだろうことは目に見えている。だからと言って、ダメとは言いたくない。やりたいというなら、やらせてあげたいに決まっている。
そして、思いついた。
「解った。じゃあ二人とも、お部屋からクレヨン持っておいで」
「「はあいっ!」」
田口の言葉に、良い子のお返事をして娘たちは居間を飛び出した。
居間のソファで寛いでいた速水は、田口の背中に問いかける。
「どうするつもりだ?」
その声は不安で曇っているのではなく、期待交じりの明るい声だ。
田口はにっこりと笑って、居間のキャビネットの一番上に放り出していた未使用のカレンダーの筒を引っ張り出した。業者や商店からの貰い物が毎年いくつかくるが、全てのカレンダーを使うわけではない。
その中でも一番日付欄が大きくて書き込みする余裕のあるものを選ぶ。6月までのページを破り捨てて、7月のページを居間のローテーブルの上に広げた。
田口の準備が出来た頃に、晃子と公子はそれぞれのクレヨンを手に戻ってきた。
「じゃあ始めようか。二人とも、こっちおいで」
「「はぁいっ」」
田口の声に、二人はローテーブルの脇へ座った。
「じゃあまず、7月1日。日勤は……あき。好きな色で丸印付けて。ここにこう、まるね」
「うんっ」
日付欄の空いた部分に、田口は指で丸を描いた。それを真似て、晃子が青いクレヨンで丸をつける。
「次、7月2日。今度はきみね。遅番……じゃあ三角。きみ、好きな色で三角描いて」
「はぁいっ」
田口の言葉に頷いて、公子は黄色のクレヨンで三角形を描く。
すぐ傍のソファに座っていた速水にも、田口の意図が見えてきた。
夜勤明けは塗り潰した丸、休みは好きな絵を描いていい。
最初に「好きな絵」に当たったのは公子の方で、それを見ていた晃子が、
「きーちゃんズルいっ」
と不貞腐れた。
「順番でしょ、あき。次はあきが好きな絵描くからね」
田口がそう言って、軽く晃子の頭を撫でた。
解り易いマークを選び、子供が大きく描けるように、欄の大きいカレンダーを用意したのだ。メーカーが寄越した素っ気ないカレンダーに、次々と鮮やかなマークが落とされる。
横から見ていると、二人の個性が際立ってくる。
晃子はいろんな色を使いたがるし、公子はずっとお気に入りの黄色を使う。
好きな絵、というと晃子は星のマークが続き、公子はいろんなものを描く。
らしいらしくないの問題よりも、微笑ましいばかりだ。結局娘たちは何をしていても愛らしい。速水は微笑を浮かべながら二人の娘と田口の様子を眺めていた。
晃子と公子が交互に描いていき、最後に一日残った。7月は31日まであるのだ。そして7月31日の速水は休みの予定である。
案の定、二人の娘はそれぞれ自分がやると主張した。
「あきがやる――っ」
「あきちゃんズルい――っ。きみがやるの!」
「二人ともケンカなし! ケンカするならママがやるよ」
田口がぴしゃりと言って二人を黙らせる。
それから田口は暫くカレンダーを睨んだ。二人の娘たちはママが何を描くのか興味津々で、ついさっきまで言い争っていたことも忘れている。
速水も田口が何を描くのか、興味を持って見守った。晃子が描いた星が3つとお日さま、公子が描いたのはお花、リボン、お魚、三日月と、既に簡単なマークは出揃っている。
おもむろに田口は晃子のクレヨンから赤を取り出した。緩いカーブで描いたのはハートマークだ。
「ママ、これなあに?」
「なぁに?」
二人の娘が田口にひっ付いて尋ねた。
「ハートマーク。大好きのマークだよ。はい、パパのカレンダー完成!」
「「わ――いっ」」
笑って言った田口に、晃子と公子は揃ってパチパチと小さな手で拍手をした。田口が居間のカレンダーの隣にそれを掛けるとますます喜んで、期待に満ちた目で速水を振り返った。
やはりここは期待に応えるべきである。速水はソファから立ち上がると、二人の頭をぐりぐりと乱暴に撫でた。何故だか二人とも、少し乱暴なくらいの方が喜ぶのだ。
「すごいなぁ、二人とも。パパ嬉しいぞ、有難うな」
「「うふふふふっ」」
「さあ、もう寝る時間だ。お片付けしておいで」
「「はぁいっ」」
速水に褒められてクスクスと笑っていた晃子と公子は、速水の掛声にクレヨンを手にして再び居間を飛び出していった。
傍に立っていた田口と眼が合う。
速水は強く田口を抱き締めた。
「ええっ?!」
「ほんっと、お前と一緒になってよかった」
「へっ?!」
田口はワケが解らずにきょとんとしていたが、速水の正直な感想はそれだった。
子供達の気持ちを損なわず、且つ効率的な手段を見つける手並みといい。最後のハートマークといい。何度惚れ直したって、速水には足らなかった。
気持の高揚のままにキスをすれば、田口はおずおずと応えてくれる。
もっと奥まで舌を絡め合おうとしたところで、
「お片付けした――っ」
「おトイレも行ったよ――っ」
二人の娘たちに邪魔されて、速水と田口は苦笑を浮かべた。
………………という夢を見たので、二人の子供たちが如何に可愛かったかを田口に力説していた時だった。
田口の眉間に皺が寄り、むっつりと黙りこんでいるのに速水は気付いた。
「行灯?」
「夢は、潜在的な願望の表れだって言うよな」
「???」
田口は低い声で呟く。何が言いたいのか今一つ解らず、速水は首を傾げた。
「そんなに子供が欲しいなら、女性と付き合えばいいだろ…………っ」
喉の奥から唸るような声。逸らされた目は多分潤んでいる。
速水は慌てて田口を抱き締めた。
田口は身体を捩って抵抗したが、放すつもりはなかった。
「なあ、聞けよ、田口。あの夢にはお前がいたんだ。お前込みで、幸せな夢だった。あの夢が俺の願望だって言うなら、俺の望みはお前と一緒に暮らすことだ」
「う――――――っ」
泣きだそうにも、大人になって泣き方を忘れたのか、田口は喉の奥から半端な嗚咽を漏らす。そのくせ目元に浮かぶ雫は本物で、速水は唇でそれを拭った。
瞼、鼻、頬と何度も唇で辿り、やっと力の抜けた田口の唇にキスをする。引っ張り出した舌に甘く歯を立て、口蓋の隅々まで舌でなぞる。唾液が溢れて零れるのも構わなかった。
必要なのは全ての不安を溶かす、熱いキスだ。
田口の強張っていた身体から力が抜け、寄り掛かる重みが増した。田口に寄り掛かられるのが速水は好きだ。田口の全てを手に入れた気になる。
「信じろよ。どんな幸せな生活も、お前がいなきゃ意味ないんだ」
「うん…………」
田口の髪を撫でながら囁けば、小さい声だったが田口は頷いてくれた。
速水は再度抱き締める腕に力を込めて、田口がこの距離にいる幸せを噛み締めたのだった。
家事を担う立場として、速水のシフトは重要な問題だ。その日の生活パターンがそっくり変わってしまう。
双子の娘たち、晃子と公子がそんな田口を見つけて首を傾げた。
「ママぁ、何やってるの?」
「何やってるの、ママ?」
「ん、パパのお仕事の予定を書いてるんだ」
ほら、この日曜日、パパお休みだよ。
晃子と公子を交互に抱き上げて、田口はカレンダーを指差した。
ボールペンで書かれた「休」の字は、幼い二人の娘には解らないが、田口がしていることが何となく面白そうだと思ったらしい。
「あき、やりたいっ」
「きみもやる――っ」
二人は揃って声を上げた。
田口はちょっと考え込んだ。
子供二人にやらせたら、とんでもないことになるだろうことは目に見えている。だからと言って、ダメとは言いたくない。やりたいというなら、やらせてあげたいに決まっている。
そして、思いついた。
「解った。じゃあ二人とも、お部屋からクレヨン持っておいで」
「「はあいっ!」」
田口の言葉に、良い子のお返事をして娘たちは居間を飛び出した。
居間のソファで寛いでいた速水は、田口の背中に問いかける。
「どうするつもりだ?」
その声は不安で曇っているのではなく、期待交じりの明るい声だ。
田口はにっこりと笑って、居間のキャビネットの一番上に放り出していた未使用のカレンダーの筒を引っ張り出した。業者や商店からの貰い物が毎年いくつかくるが、全てのカレンダーを使うわけではない。
その中でも一番日付欄が大きくて書き込みする余裕のあるものを選ぶ。6月までのページを破り捨てて、7月のページを居間のローテーブルの上に広げた。
田口の準備が出来た頃に、晃子と公子はそれぞれのクレヨンを手に戻ってきた。
「じゃあ始めようか。二人とも、こっちおいで」
「「はぁいっ」」
田口の声に、二人はローテーブルの脇へ座った。
「じゃあまず、7月1日。日勤は……あき。好きな色で丸印付けて。ここにこう、まるね」
「うんっ」
日付欄の空いた部分に、田口は指で丸を描いた。それを真似て、晃子が青いクレヨンで丸をつける。
「次、7月2日。今度はきみね。遅番……じゃあ三角。きみ、好きな色で三角描いて」
「はぁいっ」
田口の言葉に頷いて、公子は黄色のクレヨンで三角形を描く。
すぐ傍のソファに座っていた速水にも、田口の意図が見えてきた。
夜勤明けは塗り潰した丸、休みは好きな絵を描いていい。
最初に「好きな絵」に当たったのは公子の方で、それを見ていた晃子が、
「きーちゃんズルいっ」
と不貞腐れた。
「順番でしょ、あき。次はあきが好きな絵描くからね」
田口がそう言って、軽く晃子の頭を撫でた。
解り易いマークを選び、子供が大きく描けるように、欄の大きいカレンダーを用意したのだ。メーカーが寄越した素っ気ないカレンダーに、次々と鮮やかなマークが落とされる。
横から見ていると、二人の個性が際立ってくる。
晃子はいろんな色を使いたがるし、公子はずっとお気に入りの黄色を使う。
好きな絵、というと晃子は星のマークが続き、公子はいろんなものを描く。
らしいらしくないの問題よりも、微笑ましいばかりだ。結局娘たちは何をしていても愛らしい。速水は微笑を浮かべながら二人の娘と田口の様子を眺めていた。
晃子と公子が交互に描いていき、最後に一日残った。7月は31日まであるのだ。そして7月31日の速水は休みの予定である。
案の定、二人の娘はそれぞれ自分がやると主張した。
「あきがやる――っ」
「あきちゃんズルい――っ。きみがやるの!」
「二人ともケンカなし! ケンカするならママがやるよ」
田口がぴしゃりと言って二人を黙らせる。
それから田口は暫くカレンダーを睨んだ。二人の娘たちはママが何を描くのか興味津々で、ついさっきまで言い争っていたことも忘れている。
速水も田口が何を描くのか、興味を持って見守った。晃子が描いた星が3つとお日さま、公子が描いたのはお花、リボン、お魚、三日月と、既に簡単なマークは出揃っている。
おもむろに田口は晃子のクレヨンから赤を取り出した。緩いカーブで描いたのはハートマークだ。
「ママ、これなあに?」
「なぁに?」
二人の娘が田口にひっ付いて尋ねた。
「ハートマーク。大好きのマークだよ。はい、パパのカレンダー完成!」
「「わ――いっ」」
笑って言った田口に、晃子と公子は揃ってパチパチと小さな手で拍手をした。田口が居間のカレンダーの隣にそれを掛けるとますます喜んで、期待に満ちた目で速水を振り返った。
やはりここは期待に応えるべきである。速水はソファから立ち上がると、二人の頭をぐりぐりと乱暴に撫でた。何故だか二人とも、少し乱暴なくらいの方が喜ぶのだ。
「すごいなぁ、二人とも。パパ嬉しいぞ、有難うな」
「「うふふふふっ」」
「さあ、もう寝る時間だ。お片付けしておいで」
「「はぁいっ」」
速水に褒められてクスクスと笑っていた晃子と公子は、速水の掛声にクレヨンを手にして再び居間を飛び出していった。
傍に立っていた田口と眼が合う。
速水は強く田口を抱き締めた。
「ええっ?!」
「ほんっと、お前と一緒になってよかった」
「へっ?!」
田口はワケが解らずにきょとんとしていたが、速水の正直な感想はそれだった。
子供達の気持ちを損なわず、且つ効率的な手段を見つける手並みといい。最後のハートマークといい。何度惚れ直したって、速水には足らなかった。
気持の高揚のままにキスをすれば、田口はおずおずと応えてくれる。
もっと奥まで舌を絡め合おうとしたところで、
「お片付けした――っ」
「おトイレも行ったよ――っ」
二人の娘たちに邪魔されて、速水と田口は苦笑を浮かべた。
………………という夢を見たので、二人の子供たちが如何に可愛かったかを田口に力説していた時だった。
田口の眉間に皺が寄り、むっつりと黙りこんでいるのに速水は気付いた。
「行灯?」
「夢は、潜在的な願望の表れだって言うよな」
「???」
田口は低い声で呟く。何が言いたいのか今一つ解らず、速水は首を傾げた。
「そんなに子供が欲しいなら、女性と付き合えばいいだろ…………っ」
喉の奥から唸るような声。逸らされた目は多分潤んでいる。
速水は慌てて田口を抱き締めた。
田口は身体を捩って抵抗したが、放すつもりはなかった。
「なあ、聞けよ、田口。あの夢にはお前がいたんだ。お前込みで、幸せな夢だった。あの夢が俺の願望だって言うなら、俺の望みはお前と一緒に暮らすことだ」
「う――――――っ」
泣きだそうにも、大人になって泣き方を忘れたのか、田口は喉の奥から半端な嗚咽を漏らす。そのくせ目元に浮かぶ雫は本物で、速水は唇でそれを拭った。
瞼、鼻、頬と何度も唇で辿り、やっと力の抜けた田口の唇にキスをする。引っ張り出した舌に甘く歯を立て、口蓋の隅々まで舌でなぞる。唾液が溢れて零れるのも構わなかった。
必要なのは全ての不安を溶かす、熱いキスだ。
田口の強張っていた身体から力が抜け、寄り掛かる重みが増した。田口に寄り掛かられるのが速水は好きだ。田口の全てを手に入れた気になる。
「信じろよ。どんな幸せな生活も、お前がいなきゃ意味ないんだ」
「うん…………」
田口の髪を撫でながら囁けば、小さい声だったが田口は頷いてくれた。
速水は再度抱き締める腕に力を込めて、田口がこの距離にいる幸せを噛み締めたのだった。
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