遠方より来たるあり

さて、６月の企画です。題して

「今更だけどマドンナ・ヴェルデ連載開始記念企画・その他の人々強化月間」

です。長いな。"今更だけど"とか要らないな。
えっと、要は准教授を書きたい！　というところから始まってます。
が、准教授だけでは一か月保たないので、その他の人々も強化です。意外なCPが登場するかもよ？


意外と行灯先生と話合うと思うんですよねぇ、准教授。二人ともコーヒー党の怠け者で。
思いついた会話を全部突っ込むつもりで書くので、長くなるかもしれません。が、よろしくお付き合い下さいませ。

東城大学医学部附属病院の病院長室に、珍しい来客があった。
高階病院長は立ち上がり、デスクを回って出迎えた。
清川吾郎・帝華大准教授は、そのスカした面で一礼した。

「お久し振りです、高階先生」
「ようこそ……と言いたいところですが、一体どういう風の吹き回しですか？」
「いきなりですねえ。座っても？」

清川は苦笑を浮かべると、来客用のソファを目線で示した。
高階も取り敢えずは頷く。だが、高階の視線に含まれた鋭いものは巧妙に隠されたまま消えなかった。

「病院機構から独立したリスクマネジメント委員会。実に画期的ですね。でまあ、ウチとしては地方病院に先を越されたぞと焦るべきか、いやどうせポシャるに決まっているからもう少し様子を見るべきか、と意見の分かれるところでして。そこで僕にちょっとばかり偵察してこい、と」
「なるほど」

清川の言うことに、高階はまずは頷いた。
バチスタ・スキャンダル以後、東城大学病院リスクマジメント委員会が打ち出したシステムは各地から注目されていた。勉強させてほしい、という名目で面会を申し込まれることも何度かある。

「君、志願したでしょう？」
「何でわざわざ、そんな面倒なことを？　僕は不承不承ここまでやってきたんですよ」
「君は、不承不承やってくるほどにも勤勉ではないでしょう」
「それって、僕はよっぽど怠け者みたいですね」
「事実そうでしょうが」

高階の断言に清川は不満顔であったが、高階はにべもない。
清川の方もそれ以上は反論しなかった。そして不意に、にっと笑う。

「リスクマネジメント委員会の、田口先生でしたっけ？　一度お会いしてみたかったんですよ」
「おや」

高階の、わざとらしく作った表情。高階と清川のやり取りはどことなく胡散臭い。
だが、双方がこのやり取りを楽しんでいるのは明白だった。
清川は高階の顔が歪むのを楽しみにしながら次の言葉を紡ぐ。

「何せ、高階先生に一泡吹かせた方ですから」
「…………見てたんですね、記者会見」
「ま、あれだけニュースになりましたから。まさか高階先生の筋書きを引っ繰り返す人がいるとは思わなかったなぁ。手のひらの上で転がされてばかりだった僕としては、尊敬するばかりです」

清川の期待通り、高階の顔に苦みが走った。
清川はいけしゃあしゃあと言う。高階の方はうんざりした呆れ顔を浮かべた。
昔から厚かましいところのある清川だったが、年とともに益々面の皮が厚くなっているようだと高階は思った。

「そういうことなら、さっさと田口先生に代わりましょうか。」
「助かります」

高階の言葉に清川は頷いた。こういうところばかりが、歳相応の社会人らしかった。
溜息を一つ吐いて、高階は院内内線で呼び出し放送の依頼をかけたのだった。