君は特別会計

「クリスマス的経済学」から派生した、将軍行灯イチャイチャ話です。
百円均一ショップで購入したチュッパチャプスじゃあんまりだ、ということで。
…………うっかり立場が逆転しそうになりました。軌道修正。


プレゼント候補を決めるために、高級ブランドの公式サイトを回りました。
その中で白羽の矢が立ったのが今回ご登場のテ●フ●ニーなのですが、理由は単純、サイトがすっごく見易かったからです。
そもそも日本語対応ではないサイトもありまして、スタイリッシュと利便性は必ずしも一致しませんね。
だから企業のHPってあんまり好きじゃないんだよねぇ……。

「あの…………速水、これっ」

照れながら田口が差し出した、水色の小箱に速水は目を見開いた。
特徴的なターコイズブルーと白のリボン。速水も知っている高級ブランドのもの。

「お前、ティファニー知ってたのか」
「失礼なっ！」

田口のブランド音痴ぶりは東城大病院内に知れ渡っている。
速水もついそう言ったら、田口は反射的に叫び返した。
水色の箱にかかった指に咄嗟に力が籠る。
幾らブランド音痴の田口でも、オードリー・ヘップバーンの代表作は知っているのだ。

「悪い悪い。なあこれ、俺にってことだよな？」
「ん」
「クリスマスプレゼント？」
「ん」

顔を顰めた田口に軽く詫びると、速水は箱に手を伸ばしながら尋ねた。
途端に田口はまた気恥ずかしそうに目線を逸らす。
田口の手の上に、無防備に転がっている水色の箱を速水は手に取った。
今日という日にクリスマスプレゼント以外の何物でもないだろうに、極当たり前のことを速水は口にした。
田口が小さく頷く。
照れて視線を逸らしながらも、速水の動向が気になる田口はちらちらと速水に視線を送った。
小動物のようで可愛いと速水が密かに思っていることには、気付いていない。

「さっき貰ったのに」

紙バッグいっぱいのチュッパチャプス一カ月分。
色気とか可愛気とかは皆無だったが、それも田口のチョイスらしい気がして、速水はそれなりに嬉しかった。
しかし田口は首を横に振った。

「だって経費で買ったヤツだぞ。そんなのプレゼントに入るか」

不意に田口は真っ直ぐに速水を見た。
先程までの羞恥は何処かに消えていた。
まるで、此処が勝負どころであるかのように、速水から目線を切らなかった。
その瞳だけで速水の心臓は早くなる。
昼行灯の田口の本気を見たことのある者は、ほんの一握りだろう。

「お前に贈るんだ。ちゃんと、俺の金で買うに決まってる」
「うわぁ…………」

感嘆の吐息と共に、速水は口元を押さえた。
正直、ヤバイと思った。
何て漢気だ。惚れる。
そして、唐突に心配になった。
速水がこうなのだから、女性だったらイチコロだろう。
つくづく、田口が速水の恋人の座に収まってくれていることを感謝する。
速水が田口に惚れ直している間に、田口はまた元の照れくさそうな顔に戻っていた。

「そんな高いモンじゃないんだ、一応、男が持ってもおかしくないものにしたつもりなんだけど……」
「ああ、うん。開けるぞ」
「うん…………」

一言断って、速水は白いリボンを解いた。
中に入っていたのは、シルバーの丸いプレートが付いたキーリングだった。
ティファニーらしいブルーでフィフスアベニューの文字が入っている。
シンプルだが可愛らしく、ユニセックスの雰囲気の品だった。

「へぇ…………」

ティファニーと言えば女性向けの指輪やジュエリーの印象があったので、こういったものを扱っているとは知らなかった。
感心して指で引っ掛ける。
ふと思いついて、速水はポケットのキーケースから鍵を一本取り外した。
鍵をリングに通す速水の手元を、田口もじっと見つめていた。

「一本だけ？」
「ああ、お前んチのだ」

田口の家の合鍵を、田口から貰ったキーリングに。一本だけ。
速水は自分で楽しくなって小さく笑った。
速水の「特別扱い」に気付いたのだろう、田口は少しだけ頬を赤くして目を逸らす。
田口の頬を両手に包んで、速水は田口の瞳を捕えた。
礼より先に、田口の額にキスをする。

「サンキューな。大事にする」
「うん」

頷いた田口がそのまま瞼を伏せたので、誘われるままに瞼にキスをした。
キスが唇へ辿り着くのも、そう先のことではなかった。