feel your time

突然ですが、12月21日は遠距離恋愛の日です。
数字の「１２２１」という並びに注目。
離れていた１人と１人がくっついて２人になる、というのが由来らしい。
この記念日で、経済的に得をするのは旅客業界か通信業界しかない気がします。何処の企業が制定したんだっけな？　忘れました。


で、以前参加したチャットで、チャットルーム管理人様に「やって？」と（可愛く）おねだりしたのです。今までにも何度か記念日コラボやってる方なので、お勧め記念日として紹介しました。
そしたら見事にやって下さいました。
……が、言いだしっぺの霧島の方は、そちらの御作を読んだ後になって今日の日付に気付いたという始末です。

「え？　21日？　…………って今日20日？！」

焦ったね。
そんなワケで今から作ります。
珍しくきりたぐです。将軍を出すといろいろ切なくなるので、ここは安全パイの魔人で。
やはり同じくチャットで出た、時差と時計ネタ。
霧島が昔どこかで読んだのはこういう話でしたよ、黄月さま。

島津は最近、不定愁訴外来室を喫茶室代わりに使うことを覚えた。
島津の主要な仕事場は地下階にあり、そこから「満天」に行くよりは近い。
わざわざ非常階段を降りる手間と、コーヒーの味を天秤にかけた結果、田口自慢のサイフォン式コーヒーに軍配が上がった次第だ。

「そろそろかな。今何時だ？」

だらだらと、全く仕事の役に立たない会話を交わしていた島津だったが、次の検査の時間が近付いていた。
ちょうど時計は持っていなかったので、向かいに座っていた田口に尋ねる。
田口はマグカップから目を上げて、島津より遠くへ視線を投げた。

「えっと、2時40分ってトコ」

ちょうど島津の背後の壁に、丸い時計が掛けてあるのだ。
田口の視線を追って島津も背後を振り仰ぎ、確かに時計の長針が８の手前にあるのを見た。
捻っていた首を元に戻して、ふと島津は気付く。
田口の左手首にあるのは、白衣の袖口に隠れているが、腕時計ではないだろうか。

「お前、時計してるじゃないか」

島津の言葉には、何故わざわざ壁掛け時計を見るのか、という疑問も含まれている。
田口はちょっと目を見開いたが、時計を隠すように右手で触れて苦笑を浮かべた。

「ちょっとズレてるんだ」
「面倒がらずに合わせろよ」

島津の言葉に、田口は柔らかく笑った。



「…………これはこのままでいいんだ」

島津が出て行った後、田口は自分の腕時計を見ながら呟いた。
時計が差すのは12時45分。ズレている、という範囲に収まるレベルではないだろう。
しかも2時間ではなく、実は14時間違うのだ。

「…………夜中か」

合わせているのはアメリカの東側標準時間だ。
1時近くであれば、就寝して暫くというくらいの時間か。
彼の地で、この時計の支配下で生活している彼を思って田口は小さく笑った。

「おやすみなさい、桐生先生」

太平洋を越えて尚も遠い場所にいる人を思って、田口は呟いたのだった。