終わるぞ。やっと終わるぞ。
この話を書くためにやったことは結構多い。
1・勤務先のお歳暮ギフトコーナーをうろうろして価格調査。
2・洋菓子メーカーのサイト回ってクリスマスギフトの調査。
3・電卓叩いて予算計算。
計算上はきっかり5万円です。
この話絡みの将軍行灯パートは別立てでお送りします。
サイト更新致しました。
サイトの方はクリスマスちーっとも関係ありませんです、ハイ。
この話を書くためにやったことは結構多い。
1・勤務先のお歳暮ギフトコーナーをうろうろして価格調査。
2・洋菓子メーカーのサイト回ってクリスマスギフトの調査。
3・電卓叩いて予算計算。
計算上はきっかり5万円です。
この話絡みの将軍行灯パートは別立てでお送りします。
サイト更新致しました。
サイトの方はクリスマスちーっとも関係ありませんです、ハイ。
「最後になっちゃいましたね。メリークリスマス、これ、皆さんで食べて下さい」
「はい! 有り難うございますっ!」
オレンジ一階、救命救急センターで、田口は最後のギフトボックスを差し出した。
受け取った如月看護師が嬉しそうな表情と共に、はっきりとした口調で礼を言った。
若く健康な彼女にとっては、菓子折りは何時でも大歓迎である。
「やれやれ。やーっと終わったか」
「……だったらやらせるなよ」
ようやっと全てのギフトを配り終え、荷物持ちのトナカイ役から解放された島津は肩を回して草臥れた口調で言った。
そもそもこんなことをやりだしたのは島津の方だ。
田口はそう思い、呆れた目で島津を見た。
「後は速水だな。如月、速水のヤツは何処にいる?」
田口の視線を気に留めず、島津は如月看護師に尋ねた。
菓子折りを透視するかの如く矯めつ眇めつしていた如月看護師は、顔を上げると屈託のない表情で言った。
「速水部長でしたら、休憩に入ってます」
「仮眠中かぁ……なら、後にするか?」
「あ、いいえ。ちょっと息抜きにコーヒー飲んでくるって言ってましたよ」
如月看護師は茶目っ気のある笑みを浮かべる。
彼女の言葉に、田口と島津は顔を見合わせた。
速水がコーヒーを飲みに行くとしたら、行先は一つしかなかった。
「ウチか……」
「何だ、お前んトコか」
田口と島津の声が重なる。
如月看護師は笑顔で一つ頷いた。
本館の不定愁訴外来室へ戻れば、速水と藤原看護師が顔を見合わせていた。
二人の間、ローテーブルの上にはチョコレートメーカーのギフトバッグが鎮座していた。ロゴの、大きい「W」はウィではなくヴィと読む。
戻って来た田口に気付き、速水は顔を上げた。
「なあ、これ食っていいのか?」
「お前なぁ……一言目がそれかよ」
速水の第一声に田口は呆れた。藤原看護師も苦笑を浮かべている。
速水は憮然としつつも、目の前の菓子に興味を惹かれたままだった。
「どうなんだよ、行灯? お前が貰ったんじゃねえの?」
「違う。それは藤原さんのだよ」
「あら、私ですか?」
田口が言うと、藤原看護師は面白そうな顔になった。
立ったままの田口は一つ頷いた。
「東城大娯楽探究会の企画だそうです。どうぞ」
「まあ。有り難うございます。あら、素敵……ヴィダメールって美味しいけど、なかなか手が届かなくて」
藤原看護師は隙のない笑みを浮かべて言うと、紙袋を手元に寄せて中身を覗き込んだ。
中を見て、今度は作りものではない柔らかな微笑を見せた。
中身はクリスマスギフトの焼き菓子のボックスと、チョコレートの小箱だ。
流石に藤原看護師宛とあって、田口も3150円のギフトボックスだけで済ませようとは思わなかった。
しかし、チョコレートたった四粒で1365円とは、恐ろしいものだ。箱代と消費税を込みにしたって、一粒300円。チロルチョコ(コンビニ価格)の15倍。
「またロクでもないことやってんじゃねえだろうな、島津?」
「今回はそんなでもないぞ」
「はっ、どーだか」
東城大娯楽探究会の名前に、速水は眉間に皺を寄せた。
嘗て娯楽探究の餌食にされた速水としては、その組織名にいい印象など無い。
鼻を鳴らしてソファにふんぞり返った速水の目の前に、田口は最後に残った紙バッグを突き出した。
距離感を把握し損ねた速水が一瞬寄り目になった。
「お前の分だよ、速水」
「東城大娯楽探究会からな」
島津がニヤニヤと笑って付け足した。
「ロクでもない」などと評したばかりの速水は、決まり悪そうに目線を逸らす。
田口がぽいっと手を放すと、紙バッグは速水の腿に落ちた。
「ん? チュッパかよ」
「一か月分な」
「ん――――…………まあいいか。サンキュ」
同じ東城大娯楽探究会からでも、ヴィダメールとチュッパチャプスでは、大分格差がある。
少々釈然としない様子の速水だったが、納得することにしたようだった。
何だかんだ言って、結局速水は食べるのだから無駄にはならない。
「コーヒー淹れましょうね。折角ですから、頂いたお菓子をお茶請けにしましょうか。田口先生、箱開けて下さいな」
「承知しました」
藤原看護師が立ち上がり、コーヒーの用意を始める。
藤原看護師の言葉に従って、田口はギフトボックスのシールを慎重に剥がした。
子供のように興味津津といった顔で、速水は田口の手元を見守っている。
コーヒーを待つ間、最初に田口から手渡されたレシートを島津は見ていた。
大手スーパーと百円均一ショップ、チョコレートメーカーの明細のみ単体だ。
大雑把に計算して、島津は田口に呆れた顔をした。
「お前これ幾らになったんだ?」
「49980円」
「ギリギリまで使ったんだな」
「着服しようとも思ったんだけどな」
島津に手渡された予算は五万円。
田口にしては珍しく、綿密な計算をして、そのギリギリまで使ったのだ。
速水が面白そうに笑った。
「何だよ、新幹線代は着服するくせに」
その言葉に、藤原看護師がチラリと田口を見る。
藤原看護師の視線に慌てながら、田口は手を振った。
「あれはいいんだ、病院の事務経費なんだから。でもこれは個人的に集めたものだろう? それを着服するわけにはいかないじゃないか。着服出来ないなら、めいっぱい使ってやる」
「お前のモラル基準はよう解らん」
「しかも、道徳的なんだかそうでないんだかも微妙だな」
「五月蠅いぞっ」
田口は田口なりに思うところあってのことだったが、旧友たちの同意は得られなかった。
島津も速水も微妙に首を傾げるので、田口は憤慨してしまう。
その憤慨と共に、テーブルの上にチロルチョコを一つ投げ出した。
新作の白いちごである。
チロルチョコはこつん、と音を立てて島津の前に転がった。
「島津の分な。1個20円、これでピッタリ五万だ」
厳密に言うと税込21円なので、1円分は田口の自腹だ。
チロルチョコを太い指で摘み上げてしげしげと眺めた後、島津は溜息を吐いた。
「どうも、と言っとくべきかね」
「メリークリスマス」
田口はにっと笑う。
その笑みは、田口が一本取った時の顔で、見ていた速水も釣られてにやっと笑った。
藤原看護師が運んできたコーヒーの香りが、不定愁訴外来を満たす。
「やれやれ」
一つ呟いた島津は太い指でチロルチョコの包装を剥がし、一口に放り込んだのだった。
「はい! 有り難うございますっ!」
オレンジ一階、救命救急センターで、田口は最後のギフトボックスを差し出した。
受け取った如月看護師が嬉しそうな表情と共に、はっきりとした口調で礼を言った。
若く健康な彼女にとっては、菓子折りは何時でも大歓迎である。
「やれやれ。やーっと終わったか」
「……だったらやらせるなよ」
ようやっと全てのギフトを配り終え、荷物持ちのトナカイ役から解放された島津は肩を回して草臥れた口調で言った。
そもそもこんなことをやりだしたのは島津の方だ。
田口はそう思い、呆れた目で島津を見た。
「後は速水だな。如月、速水のヤツは何処にいる?」
田口の視線を気に留めず、島津は如月看護師に尋ねた。
菓子折りを透視するかの如く矯めつ眇めつしていた如月看護師は、顔を上げると屈託のない表情で言った。
「速水部長でしたら、休憩に入ってます」
「仮眠中かぁ……なら、後にするか?」
「あ、いいえ。ちょっと息抜きにコーヒー飲んでくるって言ってましたよ」
如月看護師は茶目っ気のある笑みを浮かべる。
彼女の言葉に、田口と島津は顔を見合わせた。
速水がコーヒーを飲みに行くとしたら、行先は一つしかなかった。
「ウチか……」
「何だ、お前んトコか」
田口と島津の声が重なる。
如月看護師は笑顔で一つ頷いた。
本館の不定愁訴外来室へ戻れば、速水と藤原看護師が顔を見合わせていた。
二人の間、ローテーブルの上にはチョコレートメーカーのギフトバッグが鎮座していた。ロゴの、大きい「W」はウィではなくヴィと読む。
戻って来た田口に気付き、速水は顔を上げた。
「なあ、これ食っていいのか?」
「お前なぁ……一言目がそれかよ」
速水の第一声に田口は呆れた。藤原看護師も苦笑を浮かべている。
速水は憮然としつつも、目の前の菓子に興味を惹かれたままだった。
「どうなんだよ、行灯? お前が貰ったんじゃねえの?」
「違う。それは藤原さんのだよ」
「あら、私ですか?」
田口が言うと、藤原看護師は面白そうな顔になった。
立ったままの田口は一つ頷いた。
「東城大娯楽探究会の企画だそうです。どうぞ」
「まあ。有り難うございます。あら、素敵……ヴィダメールって美味しいけど、なかなか手が届かなくて」
藤原看護師は隙のない笑みを浮かべて言うと、紙袋を手元に寄せて中身を覗き込んだ。
中を見て、今度は作りものではない柔らかな微笑を見せた。
中身はクリスマスギフトの焼き菓子のボックスと、チョコレートの小箱だ。
流石に藤原看護師宛とあって、田口も3150円のギフトボックスだけで済ませようとは思わなかった。
しかし、チョコレートたった四粒で1365円とは、恐ろしいものだ。箱代と消費税を込みにしたって、一粒300円。チロルチョコ(コンビニ価格)の15倍。
「またロクでもないことやってんじゃねえだろうな、島津?」
「今回はそんなでもないぞ」
「はっ、どーだか」
東城大娯楽探究会の名前に、速水は眉間に皺を寄せた。
嘗て娯楽探究の餌食にされた速水としては、その組織名にいい印象など無い。
鼻を鳴らしてソファにふんぞり返った速水の目の前に、田口は最後に残った紙バッグを突き出した。
距離感を把握し損ねた速水が一瞬寄り目になった。
「お前の分だよ、速水」
「東城大娯楽探究会からな」
島津がニヤニヤと笑って付け足した。
「ロクでもない」などと評したばかりの速水は、決まり悪そうに目線を逸らす。
田口がぽいっと手を放すと、紙バッグは速水の腿に落ちた。
「ん? チュッパかよ」
「一か月分な」
「ん――――…………まあいいか。サンキュ」
同じ東城大娯楽探究会からでも、ヴィダメールとチュッパチャプスでは、大分格差がある。
少々釈然としない様子の速水だったが、納得することにしたようだった。
何だかんだ言って、結局速水は食べるのだから無駄にはならない。
「コーヒー淹れましょうね。折角ですから、頂いたお菓子をお茶請けにしましょうか。田口先生、箱開けて下さいな」
「承知しました」
藤原看護師が立ち上がり、コーヒーの用意を始める。
藤原看護師の言葉に従って、田口はギフトボックスのシールを慎重に剥がした。
子供のように興味津津といった顔で、速水は田口の手元を見守っている。
コーヒーを待つ間、最初に田口から手渡されたレシートを島津は見ていた。
大手スーパーと百円均一ショップ、チョコレートメーカーの明細のみ単体だ。
大雑把に計算して、島津は田口に呆れた顔をした。
「お前これ幾らになったんだ?」
「49980円」
「ギリギリまで使ったんだな」
「着服しようとも思ったんだけどな」
島津に手渡された予算は五万円。
田口にしては珍しく、綿密な計算をして、そのギリギリまで使ったのだ。
速水が面白そうに笑った。
「何だよ、新幹線代は着服するくせに」
その言葉に、藤原看護師がチラリと田口を見る。
藤原看護師の視線に慌てながら、田口は手を振った。
「あれはいいんだ、病院の事務経費なんだから。でもこれは個人的に集めたものだろう? それを着服するわけにはいかないじゃないか。着服出来ないなら、めいっぱい使ってやる」
「お前のモラル基準はよう解らん」
「しかも、道徳的なんだかそうでないんだかも微妙だな」
「五月蠅いぞっ」
田口は田口なりに思うところあってのことだったが、旧友たちの同意は得られなかった。
島津も速水も微妙に首を傾げるので、田口は憤慨してしまう。
その憤慨と共に、テーブルの上にチロルチョコを一つ投げ出した。
新作の白いちごである。
チロルチョコはこつん、と音を立てて島津の前に転がった。
「島津の分な。1個20円、これでピッタリ五万だ」
厳密に言うと税込21円なので、1円分は田口の自腹だ。
チロルチョコを太い指で摘み上げてしげしげと眺めた後、島津は溜息を吐いた。
「どうも、と言っとくべきかね」
「メリークリスマス」
田口はにっと笑う。
その笑みは、田口が一本取った時の顔で、見ていた速水も釣られてにやっと笑った。
藤原看護師が運んできたコーヒーの香りが、不定愁訴外来を満たす。
「やれやれ」
一つ呟いた島津は太い指でチロルチョコの包装を剥がし、一口に放り込んだのだった。
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