続きです。実際プレゼントを配って回る行灯先生と魔人です。
また長くなったよう……何さこの、三回連載化。
でも、残りの分量考えると、ここで切った方がやりやすそうなので一度切ります。
本気でクリスマスぎりぎりってとこだなぁ。
また長くなったよう……何さこの、三回連載化。
でも、残りの分量考えると、ここで切った方がやりやすそうなので一度切ります。
本気でクリスマスぎりぎりってとこだなぁ。
「あ、田口先輩っ!」
田口の姿を見つけ、神経内科医局長・兵藤勉は表情を輝かせた。
犬のように解り易い反応に、田口の隣りで島津は密かに笑う。
田口の方はというと、真っ先に兵藤に出逢ってしまったことにウンザリした顔だった。
「どうしたんですか、コレ?」
田口と島津が両手に抱えたクリスマスギフトに、当たり前ながら兵藤は怪訝な目を向ける。
説明しようとして、田口は一瞬言葉に詰まった。
「けったいなアングラ組織による投票の結果、病棟内にプレゼントを配る羽目になった」というのは言ってもいいものか、どうだか。
判断がつかず、田口は島津を横目で見る。
「東城大娯楽探究会の企画で、クリスマスの差し入れです」
田口の視線を受けた島津は、そう一言で済ませた。
田口が苦労する羽目になった経緯を見事に端折っている。
田口はつい憮然としてしまった。
そんな田口に、今度は島津の方が目を向けた。
「で? 神経内科宛のはどれなんだ?」
「ああ、うん、どれでもいいや」
「どれでも?」
「うん」
島津と、兵藤も揃って怪訝な顔をした。
田口は改めて、島津の持っている分と自分の手にある分を見た。
「こっちの包装のヤツならどれでもいいんだ。値段は同じだから」
病棟宛のプレゼントは全て菓子折りだ。
メーカーも中身もいろいろあるが、値段は全て税込3150円である。
百円均一ショップでラッピング用品を揃えて、外側だけは統一してあった。
「好きに選べ」
「え――――…………?」
田口が促すと、兵藤は重なった箱を順番に眺め回した。
大小がある、というのが心理的に引っ掛かるところなのだろう。
舌切雀の昔話を田口は思い出した。
そういえばあの話、欲張りのおばあさんは最後どういう目に遭うのだったか。酷い目に遭うという事実しか、田口は思い出せなかった。
舌切雀のお爺さんほど悟りを開けない兵藤が何時までも悩んでいると、兵藤の背後からすっと手が伸びた。
「これにしましょうよ、兵藤先生」
そこにいたのは神経内科の丹羽看護師だった。
積み重なったギフトの下の方にある、正方形の平たい箱を引っ張ろうとする。
島津が慌ててバランスを取り、互いに協力し合って箱は丹羽看護師の手に渡った。
医局長を押し退けてしまう強さに、田口は密かに感心する。
尤も、田口だって丹羽看護師にやり込められることが度々なのだ。
兵藤が彼女に敵うとも思えない。
底面積はあるが厚みのないその箱を少し揺らして、丹羽看護師は笑った。
「……チョコレートと見た。田口先生、有り難う御座います」
「あ、有り難う御座いますっ」
「いいえ。メリークリスマス、です」
丹羽看護師の謝辞に、兵藤が慌てて同調した。
金を出したのは田口ではないが、構わず田口は頷いた。
メリークリスマス、の一言は何となく言い慣れない。
棒読みの上に語尾を付けた田口に、丹羽看護師はくすっと笑った。
四階の病院長室では、高階病院長が待ち構えていた。
応接用のローテーブルにギフトを一時避難させ、田口は一つだけ違う包装紙の大きい箱を高階の前に差し出した。
高階は座ったまま目線だけで箱を見下ろすと、次に目線だけを動かして田口を見上げた。
「これは、お歳暮と言うんじゃありませんか?」
田口は一つ頷いた。
応接用のソファで寛いでいた島津は、溜息を隠そうともしなかった。
田口が高階宛に用意したのは、地元の桜宮酒造が製造した地酒セットである。
吃驚するほど辛口の「津波」と、信じられない程甘口の「細波」が組みになった桜宮湾セットは、ネーミングとコンセプトの極端さが地元民には話題の品だ。ちなみに5250円。
大型スーパーのお歳暮コーナーで見つけたそれを、田口はそのまま持ってきたワケである。
実のところ、病棟宛の菓子折も全てお歳暮ギフトコーナーで調達していた。そうでないのは藤原看護師宛と速水宛のみだ。
「いいじゃないですか、中身に変わりありませんし」
「まあそりゃそうですけどね」
田口の言い草に、高階は盛大に溜息を吐いた。
それでも例の箱を手元に寄せるところを見ると、受け取ることは受け取るらしい。
やっぱり貰うものは貰うんだよな――、などと田口が不届きなことを考えていると、高階はちらりと田口を見て嫌味ったらしい顔をした。
「クリスマスにお歳暮の包みでプレゼントを贈られたら、大概は怒ると思いますよ。本命相手には気を付けた方がいいですね」
「…………病院長には関係ありませんよ」
「そうでもないんですが?」
憮然として応じた田口に対し、高階は更ににやりと笑う。
東城大娯楽探究会の名誉会長を務める高階にとっては、田口と「本命」の動向は格好のネタである。
同じく、東城大娯楽探究会の一員である島津も高階の言葉にニヤリと笑っていた。
面白がられていることは確実で、それが解る田口は長い長い溜息を吐いた。
田口の姿を見つけ、神経内科医局長・兵藤勉は表情を輝かせた。
犬のように解り易い反応に、田口の隣りで島津は密かに笑う。
田口の方はというと、真っ先に兵藤に出逢ってしまったことにウンザリした顔だった。
「どうしたんですか、コレ?」
田口と島津が両手に抱えたクリスマスギフトに、当たり前ながら兵藤は怪訝な目を向ける。
説明しようとして、田口は一瞬言葉に詰まった。
「けったいなアングラ組織による投票の結果、病棟内にプレゼントを配る羽目になった」というのは言ってもいいものか、どうだか。
判断がつかず、田口は島津を横目で見る。
「東城大娯楽探究会の企画で、クリスマスの差し入れです」
田口の視線を受けた島津は、そう一言で済ませた。
田口が苦労する羽目になった経緯を見事に端折っている。
田口はつい憮然としてしまった。
そんな田口に、今度は島津の方が目を向けた。
「で? 神経内科宛のはどれなんだ?」
「ああ、うん、どれでもいいや」
「どれでも?」
「うん」
島津と、兵藤も揃って怪訝な顔をした。
田口は改めて、島津の持っている分と自分の手にある分を見た。
「こっちの包装のヤツならどれでもいいんだ。値段は同じだから」
病棟宛のプレゼントは全て菓子折りだ。
メーカーも中身もいろいろあるが、値段は全て税込3150円である。
百円均一ショップでラッピング用品を揃えて、外側だけは統一してあった。
「好きに選べ」
「え――――…………?」
田口が促すと、兵藤は重なった箱を順番に眺め回した。
大小がある、というのが心理的に引っ掛かるところなのだろう。
舌切雀の昔話を田口は思い出した。
そういえばあの話、欲張りのおばあさんは最後どういう目に遭うのだったか。酷い目に遭うという事実しか、田口は思い出せなかった。
舌切雀のお爺さんほど悟りを開けない兵藤が何時までも悩んでいると、兵藤の背後からすっと手が伸びた。
「これにしましょうよ、兵藤先生」
そこにいたのは神経内科の丹羽看護師だった。
積み重なったギフトの下の方にある、正方形の平たい箱を引っ張ろうとする。
島津が慌ててバランスを取り、互いに協力し合って箱は丹羽看護師の手に渡った。
医局長を押し退けてしまう強さに、田口は密かに感心する。
尤も、田口だって丹羽看護師にやり込められることが度々なのだ。
兵藤が彼女に敵うとも思えない。
底面積はあるが厚みのないその箱を少し揺らして、丹羽看護師は笑った。
「……チョコレートと見た。田口先生、有り難う御座います」
「あ、有り難う御座いますっ」
「いいえ。メリークリスマス、です」
丹羽看護師の謝辞に、兵藤が慌てて同調した。
金を出したのは田口ではないが、構わず田口は頷いた。
メリークリスマス、の一言は何となく言い慣れない。
棒読みの上に語尾を付けた田口に、丹羽看護師はくすっと笑った。
四階の病院長室では、高階病院長が待ち構えていた。
応接用のローテーブルにギフトを一時避難させ、田口は一つだけ違う包装紙の大きい箱を高階の前に差し出した。
高階は座ったまま目線だけで箱を見下ろすと、次に目線だけを動かして田口を見上げた。
「これは、お歳暮と言うんじゃありませんか?」
田口は一つ頷いた。
応接用のソファで寛いでいた島津は、溜息を隠そうともしなかった。
田口が高階宛に用意したのは、地元の桜宮酒造が製造した地酒セットである。
吃驚するほど辛口の「津波」と、信じられない程甘口の「細波」が組みになった桜宮湾セットは、ネーミングとコンセプトの極端さが地元民には話題の品だ。ちなみに5250円。
大型スーパーのお歳暮コーナーで見つけたそれを、田口はそのまま持ってきたワケである。
実のところ、病棟宛の菓子折も全てお歳暮ギフトコーナーで調達していた。そうでないのは藤原看護師宛と速水宛のみだ。
「いいじゃないですか、中身に変わりありませんし」
「まあそりゃそうですけどね」
田口の言い草に、高階は盛大に溜息を吐いた。
それでも例の箱を手元に寄せるところを見ると、受け取ることは受け取るらしい。
やっぱり貰うものは貰うんだよな――、などと田口が不届きなことを考えていると、高階はちらりと田口を見て嫌味ったらしい顔をした。
「クリスマスにお歳暮の包みでプレゼントを贈られたら、大概は怒ると思いますよ。本命相手には気を付けた方がいいですね」
「…………病院長には関係ありませんよ」
「そうでもないんですが?」
憮然として応じた田口に対し、高階は更ににやりと笑う。
東城大娯楽探究会の名誉会長を務める高階にとっては、田口と「本命」の動向は格好のネタである。
同じく、東城大娯楽探究会の一員である島津も高階の言葉にニヤリと笑っていた。
面白がられていることは確実で、それが解る田口は長い長い溜息を吐いた。
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