ハートケアの日

祝日ですね。で、本日の記念日は、と言いますと。

勤労感謝の日/外食の日/小ねぎ記念日/分散投資の日/珍味の日/ハートケアの日

だそうです。
……小ねぎ記念日って、どうしようって言うんだろう？　食卓の主役にはなれないだろうに。
ハートケアの日は「心臓を労わりましょう」という日らしいです。
…………ちっとも労わってないデス。


金、土、日と某サイト様主催のチャットルームに出没してました。
主催の黄月さま、お相手して下さった皆様、有難う御座いました！　とても楽しかったです。
失礼あったら申し訳ないです、ゴメンなさい……。

廊下の向こうで速水を見かけた。
速水の傍には若い女性看護師がいて、二人の間にはバインダーがあって。
おそらくは仕事の話だろう。
だが、時々ちらちらと女性看護師は速水を見上げる。
彼女と速水の視線は合わない。
合わない、けれども。

「…………っ」

解っているつもりなのに、速水がモテる様子など見たくなかった。
身体はよほど正直で、心臓が痛みを訴える。
田口はそっと不愉快なモノから目を逸らそうとした。
ふと速水が顔を上げた。
目が、合った。

「っ！」

速水が笑った。
自惚れでも何でもなく、確かに、田口に向かって笑った。
心臓が大きく跳ね上がる。
強く打ち過ぎる鼓動が、田口を硬直させる。
表情まで凍結した田口を見てとって、速水は少し面白そうに笑った。
それから、気取ったウインクを一つ飛ばす。

「う…………っ」

もうそこで田口は耐えきれなくなった。
くるりと踵を返し、大股でその場から逃げ出した。
心臓はフル稼働している。脈が速い。
鼓動は胸郭から飛び出しそうなほど、強烈だ。
人気のない日蔭の通路で、田口は壁に縋りついた。
額を押し付けると、少しひんやりした壁が心地よかった。
血の上った頭にはちょうどいい。

「心臓に悪い…………っ」

たかだか十数メートルの廊下で、このアップダウンだ。
駅の階段で動悸を覚えるような年なのに、これはキツイだろう。
救心のお世話になる日も近いかもしれなかった。

「ふぅ…………」
「よお」
「…………っ！！」

ようやっと心臓が落ち着いたかと思ったら、耳を擽る距離で声がした。
嫌いな声ではない、寧ろ誰より好きな声なのだけれども。
驚いて田口は息を飲む。
瞬間、心臓が止まった気がした。
田口を驚かすことに成功した速水は、実に楽しそうに笑っていた。



ああ、ホント、心臓に悪い。