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こちらは、愚痴外来シリーズの妄想文を展開するブログです。 行灯先生最愛、将軍独り勝ち傾向です。 どうぞお立ち寄り下さいませ。
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最終回です。
怪談企画、とか言いつつそんなに恐くはなかったでしょう? ダークファンタジーってこんなカンジ?
サイトの方も更新します。これからHTMLファイル作るから、夕方か夜になると思いますが……5月のシリアス企画が入ってくるかな。


救急センターに自殺者の搬送が多いかどうか、実は調べたりしていません。
浅田次郎さんの「プリズンホテル・冬」に救急センター勤務の看護師が登場して、「あたしは死にたい奴を毎晩助けているわ」みたいなセリフがあるので、多いのかなーと勝手に思っているだけです。
実は将軍のイメージはこの人なんだと思うんだけどなー。
救急センター勤続20年、飯の数が殺した数、「ステる(死亡)かどうかはあたしが決める、ここではあたしが法律だ!」とのたまう"血まみれのマリア"。
「プリズンホテル」シリーズは読んだのですが、他のシーズンはほとんど覚えておりません。霧島が冬だけ覚えているのは、偏にこの人の為です。
ちなみに"血まみれのマリア"の元恋人が、安楽死を行って公判中のドクターなんですが……まさか行灯先生、やらないよね?

夢は切れ切れに訪れた。
鍵を開けて速水の家に上がり、床に転がっている速水を見つけて血相を変える田口。
田口が窓を開け、換気扇を回して換気をし、救急車を呼び、速水の診断をし、心肺蘇生を施すのを横で見ていた。田口がここまで出来るなんてちょっと驚いたが、田口だって医者なのだから(しかも割と土壇場には強い)、それも当然かと思ったりした。
見覚えのある東城大の病棟を仰ぎ見て、そこで場面が切り換る。
速水の前にいたのは、血を流した若い男だった。

「 来い 」

頭蓋骨は拉げ、脳漿がはみ出している。
胸郭が内側へと陥没し、開いた穴から臓腑が見えた。
砕けた左の肩と左の骨盤、左脚が捩じれて繋がっている。
男の顔に見覚えはなかったが、身体に見覚えはあった。
先日搬送されてきた自殺者だ。

「 お前も、来い 」

若い男は速水を呼ぶ。
脳裏に直接響く音だ。太鼓の音、滝の音……そんな、心拍を直に揺さぶってくるような、低く強い音だった。
耳ではなく身体で聴くような音は、強い引力で速水を呼ぶ。
だが、命令されるのは嫌いだった。
子供のような反抗心が頭を擡げ、速水を押し留める。

「はやみ」

柔らかい声が速水を呼んだ。
速水と若い男しかいなかった暗い世界に、その声は光の粒子になって降ってきた。



「よかった、速水…………っ」

目を覚ました速水の視界に、真っ先に飛び込んできたのは涙目になった田口の顔だった。田口の隣には島津の暑苦しい顔があって、やはりこちらも安堵の表情を浮かべていた。

「救命救急センター部長がガス中毒で救急搬送されてくるなんざ、前代未聞だぞ。心配かけやがって」
「う――――…………っ」

島津が悪態混じりに言った。
田口は顔を伏せて唸っていた。田口に取られている速水の手に雫が落ちてくる。

「ほら、速水は大丈夫だって言ったろ。コイツがそう簡単にくたばるか」

表情を隠しているが明らかに泣きが入っている田口の頭を、島津は苦笑と共にぐしゃぐしゃと掻き混ぜた。
速水は焼けたように痛む喉から声を出した。

「し、まづ……」

田口が弾かれたように顔を上げる。案の定、目も鼻も赤くなっていた。
島津もたちまち真剣な表情になって、速水の言葉を待った。

「触んな。それは、俺の役…………」

速水が絞り出した言葉に田口は呆気に取られた。
島津も一瞬ポカンとし、それから白けた顔になった。
田口の頭を掻き回していた手を離して、わざとらしくホールドアップのポーズを取ると、島津はどすを効かせた声で言った。

「ヤキモチ妬く元気がありゃ十分だ、やっぱりお前そうそう死なねぇよ。勝手にやってろ」

そう言って島津はのっそりと病室を出ていった。
そこには田口と速水だけが残される。
田口に握られた手をそっと動かすと、田口は速水の手を解放して速水の反応をじっと窺っていた。
何とか腕を伸ばして田口の顔に触れると、田口の方から身体を屈めて速水に近寄ってくれる。田口の後頭部まで腕を伸ばして、田口の頭を自分の胸に乗せた。

「…………お前が無事でよかった」

ゆるゆると田口の髪を撫でていると、田口は速水の胸の上で呟いた。
田口らしい、控えめだが温かい声だった。
ふと、速水を呼んだ若い男のことを思う。
彼にはいなかったのだろうか。
名を呼び、死を嘆き、生を喜んでくれる誰か。
速水にとっての田口のような存在が、彼にはいなかったのだろうか。
いたら、自殺などしなかったのではないかと思った。
たとえもし、今現在そういう存在がなかったとしても、将来出逢う可能性だってあった。自殺はその可能性も断ち切ってしまうことだ。

「お前にも、いればよかったのにな」

自ら死を選ぶ気持ちは、やはり速水には理解出来ない。
だが、今初めて、速水は彼の死を悼んだ。

「何か言ったか?」

速水の独り言を聞き咎めて、田口は速水の胸から顔を上げた。
唇を読むかの如く、至近距離で速水をじっと見つめている。
その田口を誘導しながら、キスの寸前で速水は囁いた。

「お前がいてよかった、って言ったのさ」

最初から舌を伸ばして田口の口腔を弄る。
病人相手に躊躇うようだった田口だったが、速水がしつこく誘えば次第に応えてくれるようになった。
粘膜が擦れてたてる水音と弾む呼吸、触れる体温。
速水は田口と生きている実感を存分に楽しんだのだった。
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