怪談企画第三弾です。
怪談とか言いながら、ちっとも怖くない話。
寧ろ目指したのは美しい幽霊譚で御座います。
キャストは行灯と地雷原、バイオレットで参ります。
すみれ先生大好きいつこ様の、連載応援になればよいです。
こっそり螺鈿ネタバレかもしれない。
ワケ解らなかったらゴメンなさい。
怪談とか言いながら、ちっとも怖くない話。
寧ろ目指したのは美しい幽霊譚で御座います。
キャストは行灯と地雷原、バイオレットで参ります。
すみれ先生大好きいつこ様の、連載応援になればよいです。
こっそり螺鈿ネタバレかもしれない。
ワケ解らなかったらゴメンなさい。
不定愁訴外来奥の院のパーテーションを開けた瞬間、藤原は軽く眼を見開いた。
机に突っ伏して田口が寝ているのは珍しい光景ではない。いい夢を見ているのか、口元に微笑が浮かんでいた。
だが、その傍に立っている人物……それも女性だ……がいるのは珍しかった。
看護師ではなく、医師が纏う白衣がふわりと揺れる。
彼女は身体を屈めて、田口の口元へ顔を寄せた。
藤原は思わず手にしていた書類を強く握った。
その拍子に封筒やファイルががさっと音を立て、静寂が壊れた。
女性は一瞬で姿を消した。
「えっ」
「…………れ? あ、藤原さん、お帰りなさい」
藤原が瞬きを繰り返しているうちに、居眠りから覚めた田口が藤原を見つけてほにゃりと笑う。田口の、変わらない呑気さに、藤原の肩から力が抜けた。
「随分幸せそうなお顔で眠ってらっしゃいましたね、田口先生。いい夢でも見たんですか?」
「そ、そうですか?」
藤原が言うと、田口の腰は引き気味になった。
藤原の発言を「マヌケな顔で寝ていた」という意味ではないかと穿った……というところまで、藤原には丸見えだった。田口という男は表情を隠すのも巧いが、解り易いところもある。
だが、今更格好つけても無駄だと思ったのだろう、田口は苦笑を一つ浮かべて口を開いた。
「すみれ先生の夢を見たんです」
桜宮の爆弾娘、わがままバイオレット。
でんでんむしの焼失で故人となってしまった人だ。
敵同士といえる東城大と桜宮病院の間柄で、田口とすみれが不思議と良好な関係を築いていたことを、藤原は思い出した。
そして、先ほど田口の傍にいた女性の後ろ姿。
「夢の中でも私は居眠りしてて、すみれ先生に怒られたんです。そんな風に寝てて風邪を引くから、医者の不養生って言われるんですよって。可笑しな話ですね」
夢の中で寝ていたという二重構造と、すみれの勝気な態度に田口は笑っていた。故人を懐かしむ優しさが田口の口調から滲み出る。
藤原はそろそろと口を開いた。
「…………夢の中で、すみれ先生にキスされませんでしたか?」
「ええええっ?! な、何でそれをっ?!」
「図星ですね…………」
田口はものすごく解り易い反応をした。逃げ場などない椅子の上で、更に逃げようとする。顔は明らかに赤い。
そして、戦々恐々と藤原の表情を見守っている。
確かに普通の人なら、「この妄想野郎」くらいは思うだろう。
だが今の藤原はそうは思わなかった。
瞼の裏には揺れる白衣が消える場面が焼き付いている。
今になってみると、あの後ろ姿が誰だったのかよく解る。
藤原はそっと自分の手を挙げて、己の唇の端に触れた。
ちょうど彼女が唇を落とした辺りだ。
「田口先生、口紅付いてますよ、ここ」
「え…………?」
同じように自分の顔に触れて、田口は一瞬戸惑った顔をした。
誰も田口に触れた女はいなかった筈だった。
いくら田口が鈍感でも、不定愁訴外来の奥の院まで無音で入ってはこられない。
そもそも田口に、眠りの隙をついてキスをするような色っぽい相手の心当たりはない。
だが確かに、田口が強く擦った指先には赤い色が移っていた。
「すみれ先生、いらしていたんですね」
藤原がひっそりと言う。笑顔には何処か影があった。
目を丸くしていた田口も一つ息を吐いて肩の力を抜くと、どこか困ったような、少し寂しそうな顔で笑った。
机に突っ伏して田口が寝ているのは珍しい光景ではない。いい夢を見ているのか、口元に微笑が浮かんでいた。
だが、その傍に立っている人物……それも女性だ……がいるのは珍しかった。
看護師ではなく、医師が纏う白衣がふわりと揺れる。
彼女は身体を屈めて、田口の口元へ顔を寄せた。
藤原は思わず手にしていた書類を強く握った。
その拍子に封筒やファイルががさっと音を立て、静寂が壊れた。
女性は一瞬で姿を消した。
「えっ」
「…………れ? あ、藤原さん、お帰りなさい」
藤原が瞬きを繰り返しているうちに、居眠りから覚めた田口が藤原を見つけてほにゃりと笑う。田口の、変わらない呑気さに、藤原の肩から力が抜けた。
「随分幸せそうなお顔で眠ってらっしゃいましたね、田口先生。いい夢でも見たんですか?」
「そ、そうですか?」
藤原が言うと、田口の腰は引き気味になった。
藤原の発言を「マヌケな顔で寝ていた」という意味ではないかと穿った……というところまで、藤原には丸見えだった。田口という男は表情を隠すのも巧いが、解り易いところもある。
だが、今更格好つけても無駄だと思ったのだろう、田口は苦笑を一つ浮かべて口を開いた。
「すみれ先生の夢を見たんです」
桜宮の爆弾娘、わがままバイオレット。
でんでんむしの焼失で故人となってしまった人だ。
敵同士といえる東城大と桜宮病院の間柄で、田口とすみれが不思議と良好な関係を築いていたことを、藤原は思い出した。
そして、先ほど田口の傍にいた女性の後ろ姿。
「夢の中でも私は居眠りしてて、すみれ先生に怒られたんです。そんな風に寝てて風邪を引くから、医者の不養生って言われるんですよって。可笑しな話ですね」
夢の中で寝ていたという二重構造と、すみれの勝気な態度に田口は笑っていた。故人を懐かしむ優しさが田口の口調から滲み出る。
藤原はそろそろと口を開いた。
「…………夢の中で、すみれ先生にキスされませんでしたか?」
「ええええっ?! な、何でそれをっ?!」
「図星ですね…………」
田口はものすごく解り易い反応をした。逃げ場などない椅子の上で、更に逃げようとする。顔は明らかに赤い。
そして、戦々恐々と藤原の表情を見守っている。
確かに普通の人なら、「この妄想野郎」くらいは思うだろう。
だが今の藤原はそうは思わなかった。
瞼の裏には揺れる白衣が消える場面が焼き付いている。
今になってみると、あの後ろ姿が誰だったのかよく解る。
藤原はそっと自分の手を挙げて、己の唇の端に触れた。
ちょうど彼女が唇を落とした辺りだ。
「田口先生、口紅付いてますよ、ここ」
「え…………?」
同じように自分の顔に触れて、田口は一瞬戸惑った顔をした。
誰も田口に触れた女はいなかった筈だった。
いくら田口が鈍感でも、不定愁訴外来の奥の院まで無音で入ってはこられない。
そもそも田口に、眠りの隙をついてキスをするような色っぽい相手の心当たりはない。
だが確かに、田口が強く擦った指先には赤い色が移っていた。
「すみれ先生、いらしていたんですね」
藤原がひっそりと言う。笑顔には何処か影があった。
目を丸くしていた田口も一つ息を吐いて肩の力を抜くと、どこか困ったような、少し寂しそうな顔で笑った。
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COMMENT
きゃあ♪
きゃあ♪サプライズすっごいうれしい♪ありがとうございますっ!!
あ、こんばんは。いつこです(^^ゞ
田口センセはなんだかんだですみれ先生のこと引きずってると思うのですよ。
なのでこの切ない感じ…すごい好きです。ありがとうございます。(勝手にもらったつもり。笑)
このふたりは結局添い遂げられないから余計ネタ満載で…若かりしふたりの連載が長くなる…。(←ひどい人間、私。汗)
非常に励まされました!!最後までがんばります!!!
わーい。ほくほく。
あ、こんばんは。いつこです(^^ゞ
田口センセはなんだかんだですみれ先生のこと引きずってると思うのですよ。
なのでこの切ない感じ…すごい好きです。ありがとうございます。(勝手にもらったつもり。笑)
このふたりは結局添い遂げられないから余計ネタ満載で…若かりしふたりの連載が長くなる…。(←ひどい人間、私。汗)
非常に励まされました!!最後までがんばります!!!
わーい。ほくほく。
Re:きゃあ♪
いらっしゃいませ。ご無沙汰しております。
こちらこそ、日々伺っているのですが、ご挨拶してませんで申し訳ないです。
螺鈿のラスト、生き残ったのは多分レディ・リリィだと思うんですよね――。そうなるとバイオレットは……うぅっ。
もともとこういう話作るのは好きなので、「美しい幽霊譚」になったかどうかはさておき、霧島も楽しませて貰いました。
読んで下さって有難う御座いました。また遊びに参りますね――っ。
こちらこそ、日々伺っているのですが、ご挨拶してませんで申し訳ないです。
螺鈿のラスト、生き残ったのは多分レディ・リリィだと思うんですよね――。そうなるとバイオレットは……うぅっ。
もともとこういう話作るのは好きなので、「美しい幽霊譚」になったかどうかはさておき、霧島も楽しませて貰いました。
読んで下さって有難う御座いました。また遊びに参りますね――っ。