本気でダーク警報発令中
この話が書きたくて、シリアス企画をブチ上げたようなものです。
ダークなのもそうですが、一番の問題は
猟犬が悪役
って点かと思います。
これがダメって人は手をつけない方がいいかもしれない。
今回、4回連載です。多分増えない。
折しも今日5月13日はメイストーム・デー。恋人たちが別れを切り出すのにいい、"五月の嵐"の日。この話を始めるにはぴったりかも。
決心が固まった方から、はい、どうぞ。
この話が書きたくて、シリアス企画をブチ上げたようなものです。
ダークなのもそうですが、一番の問題は
猟犬が悪役
って点かと思います。
これがダメって人は手をつけない方がいいかもしれない。
今回、4回連載です。多分増えない。
折しも今日5月13日はメイストーム・デー。恋人たちが別れを切り出すのにいい、"五月の嵐"の日。この話を始めるにはぴったりかも。
決心が固まった方から、はい、どうぞ。
「医師法の第二章第四条だったな。『次の各号のいずれかに該当する者には、免許を与えないことがある。一、心身の障害により医師の業務を適正に行うことができない者として厚生労働省令で定めるもの。二、麻薬、大麻又はあへんの中毒者。三、罰金以上の刑に処せられた者。四、前号に該当する者を除くほか、医事に関し犯罪又は不正の行為のあった者』」
加納の声は低く、耳触りがよい。
しかし田口は身体を強張らせ、速水は眉間に皺を寄せた。
そんな二人を面白がるように唇を歪めたまま、加納は一人勝手に喋り続ける。
「同じく医師法第二章、第七条第二項。『医師が第四条各号のいずれかに該当し、又は医師としての品位を損するような行為のあつたときは、厚生労働大臣は、次に掲げる処分をすることができる。 一、戒告。二、三年以内の医業の停止。三、免許の取消し』……だったっけか」
「…………何が言いたい?」
速水が喉の奥で唸った。加納は小さく笑う。
美形二人が睨み合う様は、状況が違えばさぞ見応えがあっただろう。女性看護師が見物に殺到してもおかしくない。
だが、時間が夜も遅く、周囲に人影もなく。
そして二人は殺伐とした雰囲気を纏って対峙している。
「バチスタ・スキャンダルで揺れた東城大病院での、再度のスキャンダル。過去の判例からすると、贈収賄はせいぜい業務停止止まりだが、マスコミが煽れば先生はこの街にゃいられなくなるぜ」
「はっ、それがどうした」
加納のセリフを速水は鼻で笑った。
元より、東城大を辞することを念頭に入れての告発文だったのだ。今更東城大を辞めることは、速水にとっては痛恨でも何でもなかった。
その時、それまで完全に傍観者だった田口が口を開いた。
「加納さんは何がお望みですか?」
常日頃はボンヤリした田口が、速水よりも前に出る。
人前に出るのは極力避けたい田口だったが、今、この状況を動かすのは田口しかいなかった。
「取引の余地があるから、こうして私たちに話をなさるのでしょう?」
「行灯っ」
速水が田口の対応に異を唱えるべく声を荒げるが、田口はそれを無視して加納を睨み続ける。
いつにない田口の強さに、言葉が続かなかった速水は黙ってしまった。
加納が笑う。
タチの悪い、ドス黒い、狂いかけの人間を思わせる笑みだった。
「俺が欲しいのはあんただよ、先生。意味は解るよな?」
加納がまっすぐ田口の胸を指す。
ちょっと目を見開いて瞬きをした後、田口は溜息を一つ吐いた。
そのまま一歩前へ進む。
その腕を速水は掴んだが、即座に田口は速水の手を振り解いた。
「田口っ」
「お前を失くすワケにはいかないんだよ……ウチも、俺もなっ」
低い声は唸り声にも似ていた。
加納の前に立った田口は、そっと背伸びをして加納の唇に唇で触れる。瞼は閉じない。
ほんの一瞬の接触。
背筋に怖気が走り、速水はその場に立ち尽くした。
距離を取らないまま、田口は加納に囁く。
「こういう……意味ですか?」
「察しが早くて助かるよ」
一つ笑うと、加納は腕を伸ばして田口の腕を捕らえた。
反射的に田口は身体を退こうとしたが、それより早く加納はもう一方の腕で田口の腰を抱き寄せる。
きつく重ねられる唇。
至近距離のプレッシャーと、背中に立つ後ろめたさと、その他いろいろなものが耐え難くて、田口は強く眼を瞑った。
加納の舌が好き勝手に口内を荒らす。田口は息を吐くのもやっとだった。
呼吸さえ出来ないのは、見ているだけの速水も同じだ。
叫びそうな声を奥歯を噛んで殺し、止めたい腕は強く拳を握って耐える。
そして田口の唇は解放される。
「…………私に…………」
「あん?」
田口が呟く声に、加納は眉を上げて怪訝な顔をする。
加納と視線を合わせないまま、田口は呟いた。
「あなたが欲しがるだけの価値なんかないのに……」
「ははっ」
田口の呟きを加納は一笑に付した。
加納の目は田口ではなく、田口の背後にいる速水を見つめている。
灼けるほど痛い日差しのような、ギラついた目だ。
「あんたの価値を決めるのはあんたじゃないんだよ、先生。後ろの先生がどんなに立派な医者だろうと、俺が欲しいのはあんたなんだ」
強く握り過ぎた拳が関節を軋ませた。
再び目の前で始まるキスを、ただ、速水は黙って見ているしかなかった。
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