ヤバい! 四回になりそう。
今回の目標シーンまで、どのくらい行数がかかるかにもよってきますが、かなり危ないです。
ところで前回から三角関係フラグが立ちまくってます。
昼ドラに三角関係は有りですよね? 寧ろ必須ですよね?
勿論リクエストは猟犬行灯ですので、結果は決まっています。
決まってるんだけど、すんごく葛藤した!
将軍を三角関係の負け側に配置するのって、想像以上に心理的ハードルが高かったです。
やっぱり霧島、基本は将軍行灯派なんだ……と再確認した次第。
後記:四回確定です。今回じゃ終わらねえって、絶対。
今回の目標シーンまで、どのくらい行数がかかるかにもよってきますが、かなり危ないです。
ところで前回から三角関係フラグが立ちまくってます。
昼ドラに三角関係は有りですよね? 寧ろ必須ですよね?
勿論リクエストは猟犬行灯ですので、結果は決まっています。
決まってるんだけど、すんごく葛藤した!
将軍を三角関係の負け側に配置するのって、想像以上に心理的ハードルが高かったです。
やっぱり霧島、基本は将軍行灯派なんだ……と再確認した次第。
後記:四回確定です。今回じゃ終わらねえって、絶対。
不定愁訴外来室で待っていると、当直を終えた速水が私服で滑り込んできた。
田口が休みなので、不定愁訴外来室を使う人は誰もいない。
完全に病院施設の私物化だが、それで誰も困らないあたりが凄いと言うか何と言うか。
「で、どうしたんだよ?」
田口が用意したコーヒーを一口啜っただけで、速水は早速本題に入った。
田口は溜息を一つ吐く。
話を聞いてやるから愚痴外来で待ってろと半ば強引に言われ、それでも了承して田口は不定愁訴外来室で待っていた。
いざ話すとなると、やはり躊躇うものがある。
田口と違って無言で向き合っているのが苦手らしい速水は、もう一口コーヒーを啜ると口を切った。
「あの男のことか」
「…………うん」
頷くだけなら田口にも出来た。
一つ言葉を零せば、後は数珠繋ぎだ。
加納が携帯電話の着信履歴を消去していること。
加納の立場にとって、田口の存在が重荷であること。
「解ってるつもりだったんだ、人には言えない関係だって。でも、それでもっ、そんなに負担になってるとは考えなかった!」
「うん」
「…………違う、負担になってるのがイヤなんじゃない、負担に思っている加納さんが、イヤなんだ」
「うん」
「だって何時面倒臭くなって、切りたくなるか解らないっ」
「うん」
論点がころころ変わる田口の主張に、速水はただ相槌を打つだけだった。
喚いているうちに、田口の結論は一つ所に集約されていく。
「…………別れるしかないかな」
そう呟いた。
重荷だから身を引こうとか、そんな綺麗な考えじゃなかった。
田口の履歴を消してしまうような加納を、信じられない。それだけ。
「…………なあ、田口」
それまでずっと、ただ頷くだけだった速水が口を開いた。
両手の中に顔を伏せていた田口は、急いで顔を上げた。
速水が真っ直ぐに田口を見ていた。
思わず田口は息を呑む。
「俺と一緒に行くか?」
「え…………? 行くって、何処…………?」
「何処ってお前がトバしたんだろ。極北」
速水は極北市の救命救急センターへの左遷が決まっていた。
だが、決まったからと言って「はいそれでは」とは異動できない。
引き継ぎもあるし、その月のシフトも埋まっていた。
それを放り出して速水が異動したら、それこそ佐藤センター副部長代理が過労で倒れるだろう。
実際佐藤は、「シフトが動きません!」と泣いて速水を引き留めたらしかった。
「一緒に来いよ。あんな男のことなんか忘れちまえ」
田口はまじまじと速水を見つめてしまった。
遠く離れて、加納のことを忘れる。何て甘美な提案だろう。
焦がれ慕う心も、熱い夜に記憶も、疑いも寂しさも何もかも。
確かに、北海道まで離れれば、楽になれそうな気がした。
だが。
「…………お前に悪い」
「気にするな」
速水を利用するような状況が居た堪れなくて呟くと、速水はからりと笑った。
長い脚を勢いよく組み直す。
空気が動いて、雰囲気が明るさを取り戻したようになった。
「今の俺は、弱ったお前に付け込んでる悪い男だ。俺に申し訳ないと思う必要なんかないぞ。そのまま優しい俺に騙されて、惚れろよ」
「何だ、それ」
速水の軽い物言いに、田口は思わず笑った。
世の中、わざわざ自己申告する悪い男が何処にいるというのだ。
先刻までの鬱々とした気分を忘れた田口の唇に、速水が指で触れた。
「はや、み…………っ」
驚いて問う声は、速水の唇に飲まれて消えた。
表面をそっと重ねてくる優しい口づけは、加納のものとは全く違う。
嫌ではなかったが、違うと思った事実が苦しかった。
「なんで、」
「惚れろって言ったのも本気。お前が隙だらけなのが悪い」
「何だよ、もう」
速水の我儘勝手な、子供っぽい言い方に、田口はやはり笑ってしまった。
結局、田口は桜宮を離れることにした。
辞職ではなく、三ヶ月間の休職ということになった。
バチスタスキャンダルの際、病院長の辞表を却下したことを未だに根に持っている高階病院長が、田口の辞表を受理しなかったのだ。
アパートの荷物はすっかり片付けた。契約も切った。
身の回りの必要最低限は極北の速水の元へ送り、それ以外は桜宮の速水のマンションで預かって貰っている。
住民票は実家の住所に移した。
そうして、携帯電話の解約をする為に、田口は桜宮駅近くのショップへ向かっていた。
「…………」
歩きながら携帯電話を操作する。
電話帳から呼び出す、加納のナンバー。
暫く呼び出した状態で見つめていたが、田口は静かに発信ボタンを押した。
コールが三回。
午後二時を回ったこの時間なら、仕事中の加納は電話に出ない。
留守番電話サービスに繋がる前に、田口は電話を切った。
着信記録は残る。
だが、加納はいつもどおり履歴を消去する筈だ。
「さよなら」
これでいい。
元々、外で逢うだけだった二人だ。
加納の周辺には、田口の存在を匂わす物など無いだろう。
携帯の番号も、住居も。着信履歴も。
田口の足跡を何もかも消して、欠片すらも残さないようにして。
そうして全てを忘れてしまえばいい。
田口が休みなので、不定愁訴外来室を使う人は誰もいない。
完全に病院施設の私物化だが、それで誰も困らないあたりが凄いと言うか何と言うか。
「で、どうしたんだよ?」
田口が用意したコーヒーを一口啜っただけで、速水は早速本題に入った。
田口は溜息を一つ吐く。
話を聞いてやるから愚痴外来で待ってろと半ば強引に言われ、それでも了承して田口は不定愁訴外来室で待っていた。
いざ話すとなると、やはり躊躇うものがある。
田口と違って無言で向き合っているのが苦手らしい速水は、もう一口コーヒーを啜ると口を切った。
「あの男のことか」
「…………うん」
頷くだけなら田口にも出来た。
一つ言葉を零せば、後は数珠繋ぎだ。
加納が携帯電話の着信履歴を消去していること。
加納の立場にとって、田口の存在が重荷であること。
「解ってるつもりだったんだ、人には言えない関係だって。でも、それでもっ、そんなに負担になってるとは考えなかった!」
「うん」
「…………違う、負担になってるのがイヤなんじゃない、負担に思っている加納さんが、イヤなんだ」
「うん」
「だって何時面倒臭くなって、切りたくなるか解らないっ」
「うん」
論点がころころ変わる田口の主張に、速水はただ相槌を打つだけだった。
喚いているうちに、田口の結論は一つ所に集約されていく。
「…………別れるしかないかな」
そう呟いた。
重荷だから身を引こうとか、そんな綺麗な考えじゃなかった。
田口の履歴を消してしまうような加納を、信じられない。それだけ。
「…………なあ、田口」
それまでずっと、ただ頷くだけだった速水が口を開いた。
両手の中に顔を伏せていた田口は、急いで顔を上げた。
速水が真っ直ぐに田口を見ていた。
思わず田口は息を呑む。
「俺と一緒に行くか?」
「え…………? 行くって、何処…………?」
「何処ってお前がトバしたんだろ。極北」
速水は極北市の救命救急センターへの左遷が決まっていた。
だが、決まったからと言って「はいそれでは」とは異動できない。
引き継ぎもあるし、その月のシフトも埋まっていた。
それを放り出して速水が異動したら、それこそ佐藤センター副部長代理が過労で倒れるだろう。
実際佐藤は、「シフトが動きません!」と泣いて速水を引き留めたらしかった。
「一緒に来いよ。あんな男のことなんか忘れちまえ」
田口はまじまじと速水を見つめてしまった。
遠く離れて、加納のことを忘れる。何て甘美な提案だろう。
焦がれ慕う心も、熱い夜に記憶も、疑いも寂しさも何もかも。
確かに、北海道まで離れれば、楽になれそうな気がした。
だが。
「…………お前に悪い」
「気にするな」
速水を利用するような状況が居た堪れなくて呟くと、速水はからりと笑った。
長い脚を勢いよく組み直す。
空気が動いて、雰囲気が明るさを取り戻したようになった。
「今の俺は、弱ったお前に付け込んでる悪い男だ。俺に申し訳ないと思う必要なんかないぞ。そのまま優しい俺に騙されて、惚れろよ」
「何だ、それ」
速水の軽い物言いに、田口は思わず笑った。
世の中、わざわざ自己申告する悪い男が何処にいるというのだ。
先刻までの鬱々とした気分を忘れた田口の唇に、速水が指で触れた。
「はや、み…………っ」
驚いて問う声は、速水の唇に飲まれて消えた。
表面をそっと重ねてくる優しい口づけは、加納のものとは全く違う。
嫌ではなかったが、違うと思った事実が苦しかった。
「なんで、」
「惚れろって言ったのも本気。お前が隙だらけなのが悪い」
「何だよ、もう」
速水の我儘勝手な、子供っぽい言い方に、田口はやはり笑ってしまった。
結局、田口は桜宮を離れることにした。
辞職ではなく、三ヶ月間の休職ということになった。
バチスタスキャンダルの際、病院長の辞表を却下したことを未だに根に持っている高階病院長が、田口の辞表を受理しなかったのだ。
アパートの荷物はすっかり片付けた。契約も切った。
身の回りの必要最低限は極北の速水の元へ送り、それ以外は桜宮の速水のマンションで預かって貰っている。
住民票は実家の住所に移した。
そうして、携帯電話の解約をする為に、田口は桜宮駅近くのショップへ向かっていた。
「…………」
歩きながら携帯電話を操作する。
電話帳から呼び出す、加納のナンバー。
暫く呼び出した状態で見つめていたが、田口は静かに発信ボタンを押した。
コールが三回。
午後二時を回ったこの時間なら、仕事中の加納は電話に出ない。
留守番電話サービスに繋がる前に、田口は電話を切った。
着信記録は残る。
だが、加納はいつもどおり履歴を消去する筈だ。
「さよなら」
これでいい。
元々、外で逢うだけだった二人だ。
加納の周辺には、田口の存在を匂わす物など無いだろう。
携帯の番号も、住居も。着信履歴も。
田口の足跡を何もかも消して、欠片すらも残さないようにして。
そうして全てを忘れてしまえばいい。
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