企画ほっぽり出して、随分前からネタとタイトルだけ温めていたものに挑戦します。そろそろ発酵しそうだし……。
本能の赴くまま、ポエムちっくになるかもしれない。
発想の元はC/occ/o「樹/海/の糸」です。これまた随分古い。
なので、別に青木が原へ行く訳でもないのに、タイトルが樹海。
例によって1フレーズ、2フレーズ勝負です。
本能の赴くまま、ポエムちっくになるかもしれない。
発想の元はC/occ/o「樹/海/の糸」です。これまた随分古い。
なので、別に青木が原へ行く訳でもないのに、タイトルが樹海。
例によって1フレーズ、2フレーズ勝負です。
本館から旧棟へ続く回廊はない。
葉の落ちた並木道を速水は歩いていた。
既に風は冬を携え始めている。
手術着に白衣、という安直な格好で出てきたことを、少しだけ後悔した。
「けど、勢いってあるよな」
思い立ったが吉日、とも言う。
白衣のポケットに隠しているのは、匿名の投書だ。寧ろ密告書というべきか。
救命救急センター部長速水晃一の背任を示唆するもの。
リベートで賄わなくては回らないオレンジの窮状を訴え、立て直したい。
その為に自分の首を差し出すことにした。
我ながら、奇抜でいい考えだと思う。
同期の古馴染みに知られたら、呆れられそうではあるが。
そんなことを思っていたら、何の偶然かその古馴染みが先方から歩いてくるところだった。
「れ? 何で速水がこんなトコに?」
並木道の真ん中で、田口は怪訝そうな顔で速水を見上げた。
田口を見下ろしながら速水も首を傾げた。
「お前こそ、愚痴外来に引き篭もってるんじゃないのか?」
「お前だって、オレンジの部長室に篭りきりじゃないか」
「そんなことないぞ、本館の手術室にも行く」
「それなら俺は、神経内科病棟と満天と売店も行くぞ」
レベルの低い主張に速水は噴き出した。田口も笑い返す。
学生時代の気安さがそこにはあった。
不意の痛みが速水の胸を衝く。
ポケットに隠した密告書、これを出してしまえば田口とこうして笑うことはなくなるだろう。
ただの退職ではない、恐らくは懲戒解雇、若しくはそれに近い形の任意辞職になる。
それで態度を変える程速水も卑屈ではないし、意外と根性の太い田口も態度を変えたりしないだろう。
それでも、二人の間に何も残らないことはない筈だ。
ほんの些細な蟠りが、他愛なく笑い合うことを許さないだろう。
「は、速水っ?!」
気付けば速水は田口を腕の中に抱き締めていた。
田口が戸惑った声を上げるが、胸が詰まっていて手を放せなかった。
愛おしさより、この感情は懐かしさに近い。
麻雀と剣道に明け暮れて、不真面目で楽しかった学生時代。
現実との戦い方を必死に覚えた新人の頃や、遠過ぎる理想に歯軋りしているここ数年のこと。
東城大を辞めることで失くす全てを、今、目の前の田口が象徴していた。
だから手放せない。
だが。
「悪ィ悪ィ」
どちらかを選べと言われたら。
オレンジを守るという願いと秤に掛けたら、思い出も懐かしさも手放せる。
手放すことに、悔いはなかった。
だからそっと田口を放す。
そう言えば、肩を組んだことはあっても、正面から田口を抱きしめたことはなかった。
これが最初で最後になるだろう。
結局一度も、好きも愛してるも言えずにいた。
終わりがこれなら、言わずにいて正解だったかもしれない。
「冗談だよ、ジョーダン」
「冗談でも止めてくれ……お前のファンに見られたら恨まれる」
速水の方から一歩下がり軽い口調で言った。
田口はぐったりした顔で、吐息と共に愚痴を零す。
その、かったるそうな口調が可笑しくて、速水はからりと笑った。
田口の横を抜けてすれ違う。
「じゃあな」
「うん、またな」
速水の言葉に、田口は何の疑問も持たずに返す。
また、という日は恐らく来ないだろう。
抱き締めた感触が冷たい風に消えかけるのを、速水は残念に思った。
葉の落ちた並木道を速水は歩いていた。
既に風は冬を携え始めている。
手術着に白衣、という安直な格好で出てきたことを、少しだけ後悔した。
「けど、勢いってあるよな」
思い立ったが吉日、とも言う。
白衣のポケットに隠しているのは、匿名の投書だ。寧ろ密告書というべきか。
救命救急センター部長速水晃一の背任を示唆するもの。
リベートで賄わなくては回らないオレンジの窮状を訴え、立て直したい。
その為に自分の首を差し出すことにした。
我ながら、奇抜でいい考えだと思う。
同期の古馴染みに知られたら、呆れられそうではあるが。
そんなことを思っていたら、何の偶然かその古馴染みが先方から歩いてくるところだった。
「れ? 何で速水がこんなトコに?」
並木道の真ん中で、田口は怪訝そうな顔で速水を見上げた。
田口を見下ろしながら速水も首を傾げた。
「お前こそ、愚痴外来に引き篭もってるんじゃないのか?」
「お前だって、オレンジの部長室に篭りきりじゃないか」
「そんなことないぞ、本館の手術室にも行く」
「それなら俺は、神経内科病棟と満天と売店も行くぞ」
レベルの低い主張に速水は噴き出した。田口も笑い返す。
学生時代の気安さがそこにはあった。
不意の痛みが速水の胸を衝く。
ポケットに隠した密告書、これを出してしまえば田口とこうして笑うことはなくなるだろう。
ただの退職ではない、恐らくは懲戒解雇、若しくはそれに近い形の任意辞職になる。
それで態度を変える程速水も卑屈ではないし、意外と根性の太い田口も態度を変えたりしないだろう。
それでも、二人の間に何も残らないことはない筈だ。
ほんの些細な蟠りが、他愛なく笑い合うことを許さないだろう。
「は、速水っ?!」
気付けば速水は田口を腕の中に抱き締めていた。
田口が戸惑った声を上げるが、胸が詰まっていて手を放せなかった。
愛おしさより、この感情は懐かしさに近い。
麻雀と剣道に明け暮れて、不真面目で楽しかった学生時代。
現実との戦い方を必死に覚えた新人の頃や、遠過ぎる理想に歯軋りしているここ数年のこと。
東城大を辞めることで失くす全てを、今、目の前の田口が象徴していた。
だから手放せない。
だが。
「悪ィ悪ィ」
どちらかを選べと言われたら。
オレンジを守るという願いと秤に掛けたら、思い出も懐かしさも手放せる。
手放すことに、悔いはなかった。
だからそっと田口を放す。
そう言えば、肩を組んだことはあっても、正面から田口を抱きしめたことはなかった。
これが最初で最後になるだろう。
結局一度も、好きも愛してるも言えずにいた。
終わりがこれなら、言わずにいて正解だったかもしれない。
「冗談だよ、ジョーダン」
「冗談でも止めてくれ……お前のファンに見られたら恨まれる」
速水の方から一歩下がり軽い口調で言った。
田口はぐったりした顔で、吐息と共に愚痴を零す。
その、かったるそうな口調が可笑しくて、速水はからりと笑った。
田口の横を抜けてすれ違う。
「じゃあな」
「うん、またな」
速水の言葉に、田口は何の疑問も持たずに返す。
また、という日は恐らく来ないだろう。
抱き締めた感触が冷たい風に消えかけるのを、速水は残念に思った。
PR
COMMENT
どちらか…
こんばんわ(^^)
私事ですがPCの調子が突如おかしくなり、ようやく復活(まだまだ怪しいけど)3週間ぶりに霧島さんのサイトを見ることができました。ホッ。
田口センセ、どちらかひとつではなくて、どちらも生かす道をひらめきそうですよね。速水センセはそんな田口センセの傍にいれば生きるのが楽になりそうですけどね…
私事ですがPCの調子が突如おかしくなり、ようやく復活(まだまだ怪しいけど)3週間ぶりに霧島さんのサイトを見ることができました。ホッ。
田口センセ、どちらかひとつではなくて、どちらも生かす道をひらめきそうですよね。速水センセはそんな田口センセの傍にいれば生きるのが楽になりそうですけどね…
Re:どちらか…
いらっしゃいませ。お久しぶりですね。
>PC不調
……って泣けますよねっ! パソコン使えないとつまらなくて!
とは言え、三週間経っても大して変わってないサイトでゴメンなさい。この三週間って、私何書いただろ?
>行灯先生ならどっちも。
そこが行灯先生の強かさだと思うんですけどね。てゆーか、実際将軍を繋ぎ留めることに成功してるし。
このcoccoの「樹海の糸」って霧島かなり好き歌なんです。今まで別ジャンルのSSでもcoccoを多用しております。二次創作BGMって趣味がモロバレするものです、はい。
ではではっ。また遊びにいらして下さいませ。
>PC不調
……って泣けますよねっ! パソコン使えないとつまらなくて!
とは言え、三週間経っても大して変わってないサイトでゴメンなさい。この三週間って、私何書いただろ?
>行灯先生ならどっちも。
そこが行灯先生の強かさだと思うんですけどね。てゆーか、実際将軍を繋ぎ留めることに成功してるし。
このcoccoの「樹海の糸」って霧島かなり好き歌なんです。今まで別ジャンルのSSでもcoccoを多用しております。二次創作BGMって趣味がモロバレするものです、はい。
ではではっ。また遊びにいらして下さいませ。