更に微糖な恋愛模様

バレンタイン本命、将軍と行灯先生です。
ところが本命とは思えないほど、将軍が哀れな話です。


タイトルからお察しの通り、去年書いたバレンタインギャグSS系列です。
つまり行灯先生がとんでもない勘違いをして、将軍がヘコむ話。
前回と違うのは登場人物比率ぐらいかと思われます。
この二人で甘いの書く予定は、今のところないんだ……。


ところで本日、陸上自衛隊音楽隊の定期コンサートに行ってきました。
制服萌えだぜ、あれはっ！
やっぱりマーチ系がピカイチだと思いました。
宇宙戦艦ヤマト組曲も派手派手しくて楽しかった。
意外と芸が細かいですよ、自衛隊音楽隊。

不定愁訴外来のデスクの上に、燦然と輝くギフトボックス。
その中身はチョコレート以外に有り得なかった。
速水は憎々しげにチョコレートを見下ろした。

「お前、これどうしたんだ？」
「ん？　藤原さんだよ、恒例の義理チョコ」

コーヒーを淹れてきた田口は、速水の気も知らず、のほほんとした口調で言った。
贈り主の正体が解ったところで、速水の気が晴れる筈もなかった。
田口に片想いして早二十余年、速水にとってはバレンタインは苦痛極まりない行事だ。
当たり前だが田口から貰えはしない。
速水にチョコを贈りたい女性は多いが、田口は妬いてもくれない。
田口に贈られるチョコをシャットアウトしたい……それこそ、義理も本命も問わずだ……が、それが出来る筈もない。
結局、速水がすることと言えば、田口宛のチョコを横から奪って食い、せめて田口の口に入らないようにすることだ。

「畜生め…………っ」
「って！　ちょっ、全部食うなよっ！　俺が貰ったんだぞっ！」
「るせぇ、お前なんかに食わせるかっ！！」

唸りながら速水は立て続けにチョコを口に放り込んだ。
田口が血相を変えるが、時遅し、既にチョコレートは箱の中から消え失せている。
ろくろく味わいもせずただ甘ったるい口の中を、速水は田口の淹れたコーヒーで漱いだのだった。




後日のことだ。
夕方過ぎに呼び出されて、速水は不定愁訴外来を訪れた。
田口は速水にソファを勧め、自分も速水の正面に座る。

「話が、あるんだけど……」

そう言ったきり、田口は黙り込んだ。
ちらちらと速水を見ては視線を逸らし、指を組みかえたり落ち着かない動作を繰り返す。

「何だ？」
「えっと、考えたんだ。恋愛は個人の自由だと思うし、好きになっちゃったものは仕方ないと思う。でも、向こうの立場とか家族とかあるし、やっぱり、言うのが友達かと思って…………」

速水が促すと、今度は意を決して田口は話し始めた。
いつになく早口なのは、言い難いことを話しているからだ。
恋愛関係の話、と漠然とした方向性しか見えず、速水はますます首を傾げた。
田口は一つ息を吐いて繰り言を断つと、速水を真っ直ぐに見据えて言った。

「藤原さんは止めた方がいいと思う」
「………………はい？」

ワケが解らず、速水は間の抜けた声で問い返した。
田口が速水の表情を窺うように、上目遣いになって小さな声で呟いた。

「お前、藤原さんが好きなんだろ？」

田口の言葉に速水は凍結した。
目が点になり、咄嗟に言葉が出てこない。
選りにも選って何でまた。

「…………どうしてそんな恐ろしい勘違いをするんだよっ？！」
「え、だって、お前この間チョコ全部食っちゃって、俺に食わせたくなかったんだろ？　義理なんだから妬かなくたっていいのに……でもな、ホラ、年の差とかいろいろ……」

衝撃から立ち直って悲鳴を上げた速水に、田口は心得顔で言う。
その後も親切な忠告をくれた田口だったが、速水の耳には一切入らなかった。




そのまた後日。

「どうしてくれるんだっ？！」
「俺は関係ねえだろっ！！」

島津に八つ当たりする速水と、速水に盛大に怒鳴り返す島津の姿が、地下MRI室にあったということだ。