忍者ブログ
こちらは、愚痴外来シリーズの妄想文を展開するブログです。 行灯先生最愛、将軍独り勝ち傾向です。 どうぞお立ち寄り下さいませ。
[275]  [274]  [273]  [272]  [271]  [270]  [269]  [268]  [267]  [266]  [265
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

12月企画リクエストの、続きです。
桐生先生はなーんも出来ないままに退場しちゃいました。
そんでもって、夫妻のいちゃラブが長いぃぃ……。


前回登場したお友達「六太」の由来は延台輔です。解る方、お友達になって下さい。
「一太郎」は長崎屋の若旦那だったりします。解る方、お友達になって下さい。
子供キャラに名前を付けるのには抵抗無いんですけど、大人キャラに名前を付けるにはもンの凄く抵抗あります。
原作に子供キャラが少ないせいでオリキャラが必要と割り切っているのに対し、大人キャラの誰を宛がうかを考えてしまうせいだと思います。
そんなワケで「道場主」とか「家人」とか、名前のないモブキャラが増えたりする……。
もしかしたら、「家人」は佐藤という苗字かもしれませんが。

一太郎さんは桐生様を速水家にお誘いしました。
子供心に懐かしい人に会えたのが嬉しく、また母上にも会わせたいと思ったが故で御座います。
桐生様の戸惑いは大きゅう御座いましたが、桐生様もきみ殿にお会いしたかったのでありましょう。
一太郎さんの招待を受けられたので御座います。



「戻りましたあっ!」

一太郎が大きな声でする挨拶に、速水は相好を崩した。
一太郎と共に暮らすようになってから既に半年以上も経っているが、子供の天真爛漫さには何時でも微笑ましいものを覚える。
傍にいたきみが、お付きの小女に茶の用意を申しつけた。
客が来ることに決まったのは少し前だ。
一太郎が通う剣術道場の主が、一太郎が客人を招きたがっている旨を伝える使いを寄越したのだ。
それを思い出し、その時は快諾したものの、また速水の眉間に皺が寄った。
南十字藩の桐生と聞けば、速水の中ではよい印象は無かった。
南十字藩の剣術指南役としての高名は知っている、人格者とも聞く。
問題は、きみに懸想をしていたらしいという、ただその一点だ。
何事も無かったときみは言うが、それで気が休まらないのが恋心というものだった。
きみがどこかそわそわと、楽しそうに待ち構えているのが速水の癪に障った。

「父上、母上。桐生先生です」

客間で待ち構えていた速水夫妻の前に、一太郎の案内で桐生が通される。
客人に庭の見える上座を示しながら、速水は桐生を観察した。
桐生の目が速水の上をさっと撫でただけで通り過ぎ、きみを探すのがよく解る。
実に、腹立たしかった。



「桜宮藩近侍御用掛、速水晃一(あきただ)です」

張りの有る声がそう告げた。
丁寧な口調の中に含まれる若干の苛立ちを、桐生は敏感に感じ取った。
初対面で剣呑な気を向けられる理由が解らなかった桐生だが、次の速水の言葉に疑問が氷解した。

「妻と一太郎が懇意にして頂いたそうですね」
「とんでもない。私の方こそ、お二人には世話になり申した。南十字藩士、桐生恭一(やすかず)です」

速水は、桐生がきみに想いを寄せていたことを知っているのだ。
だからこそ刺々しい気配で、牽制の言葉を吐くのだろう。
桐生は笑ってそう言うしかなかった。

「お久しぶりです、桐生様。お加減はその後如何でしょうか?」

夫の気が立っているのに気付いているのかいないのか、きみは相変わらずのおっとりした口調で言った。

「そうですね、良くなったり悪くなったりといったところです」

桐生はきみの方に向き直ると、きみの口調に合わせるようにゆっくりと喋った。
桐生の目は時々白く翳んで見える。
今日は体調が良いらしく、きみの姿がきちんと見えた。
髪は後家の切り髪ではなく既婚者の丸髷、着物も春らしい薄紅色。
蒔絵を施した品の良い櫛を差している。
何よりも目立つのは緩やかに膨らんだ腹だった。

「身籠っていらっしゃるのか?」
「はい」

きみは笑みと共に頷く。
少し恥ずかしそうにはにかんだ、だが隠しきれないほど幸せそうな笑みだった。
きみの隣りに座っていた一太郎が身を乗り出した。

「桐生先生、私の妹です!」
「妹と決まったわけではないぞ、一太郎」
「きっと妹ですっ。父上だって、娘がよいと仰っていたではありませんか」
「そうだったな」

一太郎がそう言うと、速水はからかうように混ぜ返した。
一太郎は断固として主張する。
そうやって笑い合う速水と一太郎を見ていると、二人がとてもよく似ていることが桐生にも解った。
きみは嘗て、死んだ一太郎の父に操を立てた、と桐生の申し出を断っている。
一太郎の父が速水であることは疑いようもない。
何か拠所無い事情があって二人は別れ、そしてまた結ばれたのか。

「いつもこんな調子……呆れてしまいますでしょう?」

きみが微苦笑を浮かべて桐生を見た。
その顔が間違いなく幸せそうであったので、桐生は己が割り込む余地などないのを思い知ったのだった。



桐生は長居せず剣術道場へと戻っていった。
一太郎と共に桐生を見送って速水が居間へ戻ると、きみがゆっくりと茶の用意をしていた。
身重を理由に、桐生の方がきみの見送りを断ったのだ。
そのことでも速水は若干臍を曲げている。
どうして余所の男が妻の体調を気遣うのだ、といったところだ。
そんな、ささくれ立っている速水に、きみはゆるりと笑って茶を勧めた。

「どうぞ。お酒の方がようございましたか?」
「いや、まだ酒には早かろう」

定位置に座ると、出された茶を一息に飲んだ。
程よく温めで飲み易かった。
速水の苛立ちも、茶と一緒に飲み込まれていった。
目を挙げれば、笑みを浮かべたきみと視線が合った。
くすっと笑ってきみは言った。

「少し怒っていらっしゃいましたでしょう?」
「…………そんなことは、ない」
「いいえ、そんなこと御座いました」

きみの言葉を否定はしてみたものの、きみは尚も笑って言う。
実際苛立っていたのは確かなので、速水は憮然とした。
黙ってしまった速水の傍に、きみはほんの少しだけにじり寄った。
速水が脇息に掛けた手にそっと触れてくる。

「昔も今も、殿だけです。私にはずっと、一太郎さまだけ……」

一太郎は息子の名前だが、速水自身の幼名でもあった。
時々きみはこうして速水を幼名で呼ぶ。
幼い頃のように懐かしく、またきみの声が甘く聞こえるので、速水も密かに気に入っていた。
可愛らしい声に絆されて、速水は触れてくるきみの手を捕まえて抱き寄せた。

「あっ」
「俺も、お前だけだ」
「…………はい」

重心を崩したきみが速水の胸に倒れ込んでくる。
それをしっかり腕の中に閉じ込めると、速水はきみの耳元に囁いた。
きみは吐息とともにそっと頷く。
そのまま暫く二人は身体を寄せ合って温もりを感じ合っていたが、ふと、

「あぁ、動いた」

胎の子が動くのを感じたきみが呟いた。

「どこだ?」
「この辺り……ほら、また」
「ああ、ここか」

きみが速水の手を導く。
耳を澄ますように待っていると、微かに、だが確かに感じられる。
速水が思わず頬を緩めると、微笑を浮かべたきみと目が合った。
幸せの余り、二人はくすくすと小さく声を上げて笑った。
PR
back
COMMENT
name
title
text
color   Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字
mail
URL
pass
secret
喜びのあまり小躍り
いたしました。パソコン前で。
家族に不審がられましたが些細なことでござる。
わがままなリクエストに応えていただき、本当にありがとうございました!

そりゃーこれだけラブラブだったら何もできないですよね、桐生先生。それでもって、南十字藩のご実家に帰った際、弟君に「まったく義兄上ときたら押しが弱い!」とか叱られてれば良いと思います。
あと、速水様の大人げのなさが素晴らしかったです。ずっとこのままでいてください←

そして延台輔も若旦那も存じ上げております……!
赤毛の女王様とほたほた歩くネズミ、心配症の手代(美男の方)を熱愛しています。
たすく 2009/12/05(Sat)23:32:53 編集
Re:喜びのあまり小躍り
いらっしゃいませ。コメント有難う御座います。
こんなんでよろしかったでしょうか? 桐生先生がなーんにも出来なかったのがちょっとばかり心残りです。
連載当時、何も考えずに書いた「おまけ」がこんな所で役に立つとはちっとも思っていませんでした。

>延台輔と若旦那
ご存じですか! わーい、お友達っ。
赤い女王様はカッコいいですよねっ! ネズミも好きですが、霧島の場合、泰麒も入ってきます。続き出ないかなぁ。
若旦那に可愛いお嫁さんが現れるとよいのですが、物の怪の可能性も大ですね。
S.Kirishima 2009/12/06 11:03
いいですね~❤
こんにちわ!昨夜は遊んでくださってありがとうございました!
桐生先生いいですね~❤でも速水とラブラブなきみさん。。。そこが一番の売りかもwすっごく素敵な結末でした。桐生先生視点は切ないけど、なんか、桐生さんなら、幸せならいいかとおもってくれればなんかいいなーとw
これからもがんばってくださいませ❤
黄月 2009/12/06(Sun)13:39:33 編集
Re:いいですね~❤
いらっしゃいませ。コメント有難う御座います。
こちらこそ、遊んでくれて有難うでした。

>速水とラブラブなきみさんが一番の売り?
時代劇らしく、いちゃいちゃシーンもおとなしめというか控え目というか、お上品です。自然とそうなってしまいます。
完結した連載が、何だかんだで増えてますねえ。リクエスト貰えるのはホント有難いことです。
黄月様の分、もう暫くお待ち下さいませね。
S.Kirishima 2009/12/07 12:36
TRACKBACK
TrackbackURL:
PREV ←  HOME  → NEXT
カレンダー
04 2024/05 06
S M T W T F S
1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31
最新コメント
[04/04 トワ]
[04/03 武那しめじ]
[03/12 名無し]
[01/04 みなみ]
[12/16 武那しめじ]
リンク
倉庫サイトと素敵同盟さま
プロフィール
腐れ管理人、霧島です。
趣味は図書館通いと立ち読み。
レンタルで映画DVD視聴。
モットーは「とりあえず」。
ブログ内検索
バーコード
最新トラックバック
Copyright (C) 2024 M-Rainbow All Rights Reserved.

Photo by (c)Tomo.Yun   TemplateDesign by kaie
忍者ブログ [PR]