たすく様からの、12月企画リクエストです。
たすく様、企画参加有難う御座いました。
リク内容は「桜宮藩の続き、桐生先生ご登場」ということでした。
南十字藩ってどこらへんにあるんだろう?
太平洋を越えるわけにはいかないので、九州のどっかにしようかな……。
そうかっ! 南十字藩は昔キリシタン大名の支配下だったんだよっ。うん、それで「十字」あたりに説明が付けられる。よしよし。
季節感を無視して、本編終了後から半年以上経過した3月ぐらいの設定です。旧暦三月で今の四月ぐらい。
ちなみに恭一で「やすかず」と読んでみる。
……すんません、長くなりそうです。前後編でお願いします。
企画承りリストは こちら です。
たすく様、企画参加有難う御座いました。
リク内容は「桜宮藩の続き、桐生先生ご登場」ということでした。
南十字藩ってどこらへんにあるんだろう?
太平洋を越えるわけにはいかないので、九州のどっかにしようかな……。
そうかっ! 南十字藩は昔キリシタン大名の支配下だったんだよっ。うん、それで「十字」あたりに説明が付けられる。よしよし。
季節感を無視して、本編終了後から半年以上経過した3月ぐらいの設定です。旧暦三月で今の四月ぐらい。
ちなみに恭一で「やすかず」と読んでみる。
……すんません、長くなりそうです。前後編でお願いします。
企画承りリストは こちら です。
一太郎さんは六つになりました頃から、お屋敷近くの剣術道場に通い始めました。
剣術を始めるにはまだ早いとの懸念も御座いましたが、お屋敷で一人稽古をなさるにも限りが御座います。
速水様も、そうかかりきりで手解きは出来ません。
母上であるきみ殿の心配を余所に、一太郎さんは剣術道場で年の近いお子たちと仲良くなり、大人にも可愛がられ、日々溌溂と稽古に励んでおりました。
「ああ、よいよい」
道場主の登場に、門人たちが稽古の手を止めかけた。
道場主はそれを制して、門人たちに続きを促す。
少しだけ緩んだ空気はまたすぐに気迫を取り戻した。
道場の隅で、打ち込み稽古の順番を待っていた一太郎は、道場主に続いて入って来た人物に首を傾げた。
「お客人かな?」
一太郎と同じく順番待ちをしていた、稽古友達の六太も首を傾げて呟いた。
剣腕高く人格者として知られる道場主には知己が多い。
客人があるのは珍しいことではないものの、道場まで案内する客は多くは無かった。
子供らしい好奇心で客人を窺っていた一太郎だったが、ふと、その客人に見覚えがあることに気付いた。
静かだが、周囲の様子を慎重に窺うような足運び。まるで、目が悪い人のような……。
「桐生先生っ!!」
「ほえっ?!」
突然叫んだ一太郎に、六太が驚いて間抜けな声を上げた。
道場は瞬間静まり返った。
目を丸くする道場主の隣りで、一太郎を見つけた桐生がゆっくりと笑った。
桐生恭一は南十字藩の剣術指南役だった。
だが、目を悪くしたのをきっかけに家督を弟に譲り、湯治と称して諸国を訪ね歩いていたのである。
江戸に半年ばかり滞在していたが、風も暖かくなってきた弥生の頃、一度郷里へ戻ろうと東海道を上り始めのだ。
途中で豆州桜宮藩の既知の道場主に挨拶をしようと立ち寄ったところで、一太郎との再会と相成ったという訳だ。
「おや、知っているのかな?」
「ええ。以前にこちらに立ち寄った際に、少し」
「そうか。速水、こちらへ」
「…………速水?」
大声を上げてしまったことを恥じる一太郎だったが、道場主の方は実に楽しそうな表情を浮かべていた。
ひょこひょこと一太郎を手招く。
一太郎は一瞬戸惑って六太を見たが、六太に頷かれて道場主の傍へ寄っていった。
板の間にきっちり正坐をして、深く頭を下げた。
道場主が呼んだ一太郎の姓に桐生は瞬間怪訝な顔をしたが、それを確かめる前に道場主が口を開いた。
「南十字藩の桐生殿だ。郷里へお戻りの際、我が家にお立ち寄り下さった」
周りの門人たちに紹介する意図もあるのだろう、道場主は声高だった。
南十字藩の桐生と聞いて、心当たりのある門人たちからざわめきが零れる。
そのざわめきを背後に聞きながら、一太郎は桐生の様子を観察した。
桐生の目が悪いことは一太郎も知っていたが、こうして座っている姿を見ている限りでは、とてもそうは思えなかった。
桐生が一太郎に目を合わせ、それからゆったりと笑った。
「元気そうだな、一太郎殿」
「はいっ。桐生先生もお変わりなさそうで何よりですっ」
一太郎が見知っているままの桐生の笑顔だった。
一太郎は安心し、場所が道場だということも忘れて元気よく答える。
一太郎の答えに桐生は満足そうに頷いた。
「桐生殿の教えを受けたことがあるのかな、速水?」
「はい。私の、二番目の先生です!」
「一番はお母上だったな」
一太郎の言葉に桐生は思わず笑みを浮かべた。
黒戸村でも、一太郎はよく桐生を「二番目の師」だと言っていたのだ。
剣術と手習いとで物が違うにも関わらず、一太郎にとって一番目の先生は母親のきみだった。
道場主が面白そうな顔をした。
「それでは、私が三番目ということかな」
「いいえっ! 三番目は父上で、先生は四番目です」
「そうかそうか。そなたには教えを仰ぐ者が多いな。よいことだ」
ほのぼのと登場主は笑っているが、桐生は聞き慣れない言葉を耳にしていて落ち着かなかった。
道場主は先程から、一太郎を「速水」と呼んでいる。一太郎の姓は「田口」だった筈だ。
それから、父上という言葉。
桐生は真っ先に、一太郎が養子にでも入ったのかと思った。
「母上は……きみ殿は息災かな?」
桐生はわざわざ一太郎の母の名を出して尋ねた。
養子に入ったなどとして母親と別れていれば、何かしらの反応はある筈だ。
だが、一太郎は笑みを浮かべたまま元気よく応じた。
「はいっ!」
一太郎の答えに導かれるのは、変わらず母はきみであること。
ならば姓が変わったのは、きみが嫁いだ為だろう。
表立っては口にもしていないが、桜宮藩に桐生が立ち寄った理由の一つにはきみとの再会を期待していたからだった。
懐かしい面影が白く霞んだような気がした。
剣術を始めるにはまだ早いとの懸念も御座いましたが、お屋敷で一人稽古をなさるにも限りが御座います。
速水様も、そうかかりきりで手解きは出来ません。
母上であるきみ殿の心配を余所に、一太郎さんは剣術道場で年の近いお子たちと仲良くなり、大人にも可愛がられ、日々溌溂と稽古に励んでおりました。
「ああ、よいよい」
道場主の登場に、門人たちが稽古の手を止めかけた。
道場主はそれを制して、門人たちに続きを促す。
少しだけ緩んだ空気はまたすぐに気迫を取り戻した。
道場の隅で、打ち込み稽古の順番を待っていた一太郎は、道場主に続いて入って来た人物に首を傾げた。
「お客人かな?」
一太郎と同じく順番待ちをしていた、稽古友達の六太も首を傾げて呟いた。
剣腕高く人格者として知られる道場主には知己が多い。
客人があるのは珍しいことではないものの、道場まで案内する客は多くは無かった。
子供らしい好奇心で客人を窺っていた一太郎だったが、ふと、その客人に見覚えがあることに気付いた。
静かだが、周囲の様子を慎重に窺うような足運び。まるで、目が悪い人のような……。
「桐生先生っ!!」
「ほえっ?!」
突然叫んだ一太郎に、六太が驚いて間抜けな声を上げた。
道場は瞬間静まり返った。
目を丸くする道場主の隣りで、一太郎を見つけた桐生がゆっくりと笑った。
桐生恭一は南十字藩の剣術指南役だった。
だが、目を悪くしたのをきっかけに家督を弟に譲り、湯治と称して諸国を訪ね歩いていたのである。
江戸に半年ばかり滞在していたが、風も暖かくなってきた弥生の頃、一度郷里へ戻ろうと東海道を上り始めのだ。
途中で豆州桜宮藩の既知の道場主に挨拶をしようと立ち寄ったところで、一太郎との再会と相成ったという訳だ。
「おや、知っているのかな?」
「ええ。以前にこちらに立ち寄った際に、少し」
「そうか。速水、こちらへ」
「…………速水?」
大声を上げてしまったことを恥じる一太郎だったが、道場主の方は実に楽しそうな表情を浮かべていた。
ひょこひょこと一太郎を手招く。
一太郎は一瞬戸惑って六太を見たが、六太に頷かれて道場主の傍へ寄っていった。
板の間にきっちり正坐をして、深く頭を下げた。
道場主が呼んだ一太郎の姓に桐生は瞬間怪訝な顔をしたが、それを確かめる前に道場主が口を開いた。
「南十字藩の桐生殿だ。郷里へお戻りの際、我が家にお立ち寄り下さった」
周りの門人たちに紹介する意図もあるのだろう、道場主は声高だった。
南十字藩の桐生と聞いて、心当たりのある門人たちからざわめきが零れる。
そのざわめきを背後に聞きながら、一太郎は桐生の様子を観察した。
桐生の目が悪いことは一太郎も知っていたが、こうして座っている姿を見ている限りでは、とてもそうは思えなかった。
桐生が一太郎に目を合わせ、それからゆったりと笑った。
「元気そうだな、一太郎殿」
「はいっ。桐生先生もお変わりなさそうで何よりですっ」
一太郎が見知っているままの桐生の笑顔だった。
一太郎は安心し、場所が道場だということも忘れて元気よく答える。
一太郎の答えに桐生は満足そうに頷いた。
「桐生殿の教えを受けたことがあるのかな、速水?」
「はい。私の、二番目の先生です!」
「一番はお母上だったな」
一太郎の言葉に桐生は思わず笑みを浮かべた。
黒戸村でも、一太郎はよく桐生を「二番目の師」だと言っていたのだ。
剣術と手習いとで物が違うにも関わらず、一太郎にとって一番目の先生は母親のきみだった。
道場主が面白そうな顔をした。
「それでは、私が三番目ということかな」
「いいえっ! 三番目は父上で、先生は四番目です」
「そうかそうか。そなたには教えを仰ぐ者が多いな。よいことだ」
ほのぼのと登場主は笑っているが、桐生は聞き慣れない言葉を耳にしていて落ち着かなかった。
道場主は先程から、一太郎を「速水」と呼んでいる。一太郎の姓は「田口」だった筈だ。
それから、父上という言葉。
桐生は真っ先に、一太郎が養子にでも入ったのかと思った。
「母上は……きみ殿は息災かな?」
桐生はわざわざ一太郎の母の名を出して尋ねた。
養子に入ったなどとして母親と別れていれば、何かしらの反応はある筈だ。
だが、一太郎は笑みを浮かべたまま元気よく応じた。
「はいっ!」
一太郎の答えに導かれるのは、変わらず母はきみであること。
ならば姓が変わったのは、きみが嫁いだ為だろう。
表立っては口にもしていないが、桜宮藩に桐生が立ち寄った理由の一つにはきみとの再会を期待していたからだった。
懐かしい面影が白く霞んだような気がした。
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