キリリクの後編です。
前編を書いたのはそう昔でもないのに、読み返しながらでないと後編が書けないってどうだろう?
これが連載になると、更に読み返し読み返しなんだな。
油断すると「きりゅう」とタイピングしてしまいます。
「コウヘイ」は正直悩みましたねえ……。
「コーヘイ」「コーヘー」「コーヘ」「コウヘー」と、バリエーションは多い。「タクチ」にしようかとも思った。
「こーへい」は他で使ってるから却下するとしても、字面があんまり可愛くないので、結局「コウヘイ」になった次第です。
つまらないことで悩んだりしてるんですよ、これでも。
前編を書いたのはそう昔でもないのに、読み返しながらでないと後編が書けないってどうだろう?
これが連載になると、更に読み返し読み返しなんだな。
油断すると「きりゅう」とタイピングしてしまいます。
「コウヘイ」は正直悩みましたねえ……。
「コーヘイ」「コーヘー」「コーヘ」「コウヘー」と、バリエーションは多い。「タクチ」にしようかとも思った。
「こーへい」は他で使ってるから却下するとしても、字面があんまり可愛くないので、結局「コウヘイ」になった次第です。
つまらないことで悩んだりしてるんですよ、これでも。
「やっぱり、一番最初に私を見つけるのはキリウだね」
コウヘイはそう言って笑い、再び瞼を下ろした。
黄色い瞳が閉ざされる。
そのまま眠り込んでしまいそうなコウヘイに、キリウは慌てて地面に膝を付いて声をかけた。
「継の君。お戻りになりませんと…………」
「そうなんだけどね」
キリウの言葉にコウヘイは目を開けると、寝転んだまま腕を上げた。
キリウの鼻先で、コウヘイの手がひらひらと翻る。
キリウの視線がコウヘイの手に集まった。
それを見ていたコウヘイは、弾んだ声で笑った。
「キリウ、寄り目だ」
「継の君。…………起こせ、と?」
「うん」
面白がる口調のコウヘイを窘め、キリウは差し出された手の意味を確かめた。
コウヘイは笑みを浮かべたまま頷く。
一つ息を吐くと、キリウは立ち上がってからコウヘイの手を掴んだ。
その手が、一瞬背中が震えるほど冷たかった。
キリウがそれに眉を顰めつつ力を込めて一歩後ろへ下がれば、コウヘイの軽い身体はすぐに起き上がる。
キリウが手を放すと、コウヘイは両手を後ろについた。
まだ宮殿へ戻る気は無いようだった。
キリウも再度地面に膝を付き、コウヘイの顔を窺った。
「……継の君、どこかお加減でも悪くていらっしゃるのか?」
コウヘイの顔色は血の気が薄く、白い状態だった。
冷たい手は、血の巡りが悪くなっている所為らしい。
心配を隠しきれない口調でキリウが尋ねると、コウヘイは苦笑を浮かべた。
「もう少し先に進むと、下界の風が流れてきている場所があるんだ。血の気に中てられて、動けなくなっちゃって……ようやく此処まで戻ってきたところだった」
「継の君っ!」
コウヘイは笑い交じりに言うが、キリウにしてみればとんでもないことだった。
月界の住人は血の穢れを忌む。
個々人に耐性の違いはあるが、血の穢れに触れれば体調を崩してしまう。酷ければ病の床に就き、そのまま亡くなってしまうこともある。
まして月帝太子であるコウヘイは、その高貴な血筋故に、血の穢れには殊更に弱かった筈だ。
眉を吊り上げるキリウに、コウヘイは照れ笑いを浮かべてみせた。
「実はまだ動くのは辛いんだ。もう少し休んでいい?」
「勿論です。横になって下さい」
「うん」
コウヘイの言葉に、キリウは力いっぱい頷く。
コウヘイも一つ頷いて、すとんと腕の力を抜くとまた地面に寝転がった。
目を閉じた途端にコウヘイは長く息を吐く。
その重い吐息がコウヘイの体調の悪さを知らしめるようで、キリウの胸に不安が立ちこめた。
そのまま二人は黙り込む。
鳥の囀りや木擦れの音が聞こえるばかりだった。
キリウの鼻には、少し先にあるという地上の風の忌わしい匂いは感じられない。
感じるのは、コウヘイを覆うように咲く黄色い花の香りだった。
「…………どうして、」
コウヘイが目を閉じたまま小さく呟いた。
ぼんやりと黄色い花を見ていたキリウは弾かれたように顔を上げ、コウヘイの横顔を凝視した。
血の気の失せたコウヘイの唇がゆっくりと動く。
「地上の人々は、神様の為に人を殺すのだろうね? あんなに綺麗な歌を作れるのに」
幼い声で呟くその言葉が、とても悲しそうだとキリウは思う。
コウヘイが優しい性質であることは、最も傍近くにいるキリウが一番よく知っている。
彼が悲しい想いをするのはとても嫌だった。
父に連れられて目通り適った幼い日から、コウヘイが悲しい想いをするのは、とてもとても嫌だったのだ。
「おそらく……種族としての愚かさと、個体の優劣は別の問題なのでしょう」
家庭教師から聞き齧ってキリウなりに理解していることを、キリウは口にした。
こんな賢しらな言葉など、きっと何の慰めにもならない。
そう思うが、言わずにはいられなかった。
言った傍から後悔しているようなキリウに、コウヘイは顔を横に向け、キリウを見て小さく笑った。
「相変わらず、従兄どのは難しいことを言う」
その顔が楽しそうだったので、キリウは少しだけほっとした。
まだまだキリウには、全ての苦しみ悲しみからコウヘイを守ることが出来ない。
それでも何時かは、キリウにとって唯一人の主君を守りたい。
柔らかい笑顔を浮かべるコウヘイを見ながら、改めてキリウは心に誓っていたのだった。
「…………で。思い出に浸るのはいいけどね、兄さん」
キリウよりよほど現実的な性質であるナルミは、感慨に耽るのもほんの一瞬で終わらせた。
たまたまコウヘイが見つけた廃園は、その後、コウヘイとキリウ、やがて加わったナルミの三人にとって、格好の遊び場となった。
だから、ナルミもこの場所の事を知っているのだ。
「ここでさぼる癖まで、あの人に似ちゃ困るんだけど」
ナルミの言う「あの人」を思ってキリウは小さく笑った。
同時に、仕事を抜け出して此処で昼寝をするコウヘイを連れ戻すのは、いつもいつも自分の仕事だったことを思い出した。
思わずナルミを見て、つい笑ってしまう。
コウヘイを探し回るキリウを、ナルミは我関せずと言った涼しい顔で眺めていた筈だ。
「何時の間に、お前の方がそんなに真面目になったんだ?」
「まったくね。誰のせいだか」
ナルミは堂々と嫌味ったらしく言う。
その口調が可笑しくて、キリウはまた笑ってしまったのだった。
コウヘイはそう言って笑い、再び瞼を下ろした。
黄色い瞳が閉ざされる。
そのまま眠り込んでしまいそうなコウヘイに、キリウは慌てて地面に膝を付いて声をかけた。
「継の君。お戻りになりませんと…………」
「そうなんだけどね」
キリウの言葉にコウヘイは目を開けると、寝転んだまま腕を上げた。
キリウの鼻先で、コウヘイの手がひらひらと翻る。
キリウの視線がコウヘイの手に集まった。
それを見ていたコウヘイは、弾んだ声で笑った。
「キリウ、寄り目だ」
「継の君。…………起こせ、と?」
「うん」
面白がる口調のコウヘイを窘め、キリウは差し出された手の意味を確かめた。
コウヘイは笑みを浮かべたまま頷く。
一つ息を吐くと、キリウは立ち上がってからコウヘイの手を掴んだ。
その手が、一瞬背中が震えるほど冷たかった。
キリウがそれに眉を顰めつつ力を込めて一歩後ろへ下がれば、コウヘイの軽い身体はすぐに起き上がる。
キリウが手を放すと、コウヘイは両手を後ろについた。
まだ宮殿へ戻る気は無いようだった。
キリウも再度地面に膝を付き、コウヘイの顔を窺った。
「……継の君、どこかお加減でも悪くていらっしゃるのか?」
コウヘイの顔色は血の気が薄く、白い状態だった。
冷たい手は、血の巡りが悪くなっている所為らしい。
心配を隠しきれない口調でキリウが尋ねると、コウヘイは苦笑を浮かべた。
「もう少し先に進むと、下界の風が流れてきている場所があるんだ。血の気に中てられて、動けなくなっちゃって……ようやく此処まで戻ってきたところだった」
「継の君っ!」
コウヘイは笑い交じりに言うが、キリウにしてみればとんでもないことだった。
月界の住人は血の穢れを忌む。
個々人に耐性の違いはあるが、血の穢れに触れれば体調を崩してしまう。酷ければ病の床に就き、そのまま亡くなってしまうこともある。
まして月帝太子であるコウヘイは、その高貴な血筋故に、血の穢れには殊更に弱かった筈だ。
眉を吊り上げるキリウに、コウヘイは照れ笑いを浮かべてみせた。
「実はまだ動くのは辛いんだ。もう少し休んでいい?」
「勿論です。横になって下さい」
「うん」
コウヘイの言葉に、キリウは力いっぱい頷く。
コウヘイも一つ頷いて、すとんと腕の力を抜くとまた地面に寝転がった。
目を閉じた途端にコウヘイは長く息を吐く。
その重い吐息がコウヘイの体調の悪さを知らしめるようで、キリウの胸に不安が立ちこめた。
そのまま二人は黙り込む。
鳥の囀りや木擦れの音が聞こえるばかりだった。
キリウの鼻には、少し先にあるという地上の風の忌わしい匂いは感じられない。
感じるのは、コウヘイを覆うように咲く黄色い花の香りだった。
「…………どうして、」
コウヘイが目を閉じたまま小さく呟いた。
ぼんやりと黄色い花を見ていたキリウは弾かれたように顔を上げ、コウヘイの横顔を凝視した。
血の気の失せたコウヘイの唇がゆっくりと動く。
「地上の人々は、神様の為に人を殺すのだろうね? あんなに綺麗な歌を作れるのに」
幼い声で呟くその言葉が、とても悲しそうだとキリウは思う。
コウヘイが優しい性質であることは、最も傍近くにいるキリウが一番よく知っている。
彼が悲しい想いをするのはとても嫌だった。
父に連れられて目通り適った幼い日から、コウヘイが悲しい想いをするのは、とてもとても嫌だったのだ。
「おそらく……種族としての愚かさと、個体の優劣は別の問題なのでしょう」
家庭教師から聞き齧ってキリウなりに理解していることを、キリウは口にした。
こんな賢しらな言葉など、きっと何の慰めにもならない。
そう思うが、言わずにはいられなかった。
言った傍から後悔しているようなキリウに、コウヘイは顔を横に向け、キリウを見て小さく笑った。
「相変わらず、従兄どのは難しいことを言う」
その顔が楽しそうだったので、キリウは少しだけほっとした。
まだまだキリウには、全ての苦しみ悲しみからコウヘイを守ることが出来ない。
それでも何時かは、キリウにとって唯一人の主君を守りたい。
柔らかい笑顔を浮かべるコウヘイを見ながら、改めてキリウは心に誓っていたのだった。
「…………で。思い出に浸るのはいいけどね、兄さん」
キリウよりよほど現実的な性質であるナルミは、感慨に耽るのもほんの一瞬で終わらせた。
たまたまコウヘイが見つけた廃園は、その後、コウヘイとキリウ、やがて加わったナルミの三人にとって、格好の遊び場となった。
だから、ナルミもこの場所の事を知っているのだ。
「ここでさぼる癖まで、あの人に似ちゃ困るんだけど」
ナルミの言う「あの人」を思ってキリウは小さく笑った。
同時に、仕事を抜け出して此処で昼寝をするコウヘイを連れ戻すのは、いつもいつも自分の仕事だったことを思い出した。
思わずナルミを見て、つい笑ってしまう。
コウヘイを探し回るキリウを、ナルミは我関せずと言った涼しい顔で眺めていた筈だ。
「何時の間に、お前の方がそんなに真面目になったんだ?」
「まったくね。誰のせいだか」
ナルミは堂々と嫌味ったらしく言う。
その口調が可笑しくて、キリウはまた笑ってしまったのだった。
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