いちゃいちゃな日常? 寧ろこのへんが書きたかったのかもしれない。
改めて申し上げますが、拙宅の将軍は家事ダメダメです。独身生活も20年近くになろうとゆーのに、学生時代からちっとも進歩しておりません。
逆に行灯先生はそこそここなす設定です。自炊は貧乏学生の必須スキルだ!という理由で。実際サイフォン派の行灯先生はマメなことも嫌いじゃない気がするなぁ……。
改めて申し上げますが、拙宅の将軍は家事ダメダメです。独身生活も20年近くになろうとゆーのに、学生時代からちっとも進歩しておりません。
逆に行灯先生はそこそここなす設定です。自炊は貧乏学生の必須スキルだ!という理由で。実際サイフォン派の行灯先生はマメなことも嫌いじゃない気がするなぁ……。
女物とはいえシンプルな衣類を着た田口に思ったのは、「若く見える」ということだった。それ以上の感想はなかった。
だが、外へ出る段になって、淡いグレーのジップパーカーを羽織った田口の姿によろめきかけた。男物のパーカーはやはり大きくて、指先がちょこんと出る程度。可愛いと口走りそうになって、自分の思考回路に速水は慌てた。
これは行灯これは行灯これは行灯、と心の中で唱えるが、効き目はだんだん薄くなっている気がする。
速水と目が合うと慌て、その拍子に躓きかけ、速水の腕に縋りつき、転ぶのを免れた安堵でほっと息を吐く。その一連の田口を見ては、呪文も最早意味はなかった。
「これ、オモシロ可愛くないか?」と思った速水を、否定するもう一人の速水は出てこない。
思えば、速水が今まで交際した相手はすべて女性からの申し入れだ。速水が自分から口説いたことはない。誰もが積極的で、腕を組んだくらいでそわそわと落ち着かなくなるようなウブなタイプはいなかった。
一度否定出来ないでいると、やることなすこと可愛く見えるから始末が悪い。
車までの道のりが短いのが大層残念だった。
抱きとめた時に腹筋のあたりに押し当てられた柔らかな膨らみに瞬間血が上ったのは、それとはまた別の思考である。
まったく男というのはどうしようもない生き物だ。
「相変わらず汚い部屋……」
「忙しいんだよ」
速水の家に上がり込んだ田口は早速ぼやいた。
速水の口調が言い訳がましくなる。
だが、田口は冷たい目で速水を一瞥した。
「暇な学生時代もこんなモンだったろ。よくこんなトコで生きてけるな」
「るっさい。俺は寝るから、掃除でも何でも好きにしやがれ」
「お前それが掃除してもらう側の態度かぁ?」
田口をリビングに放置して、速水はさっさと自室へ向かった。
下着の替えを引っ張り出して風呂場へ向かう。
その途中でチラリと田口を見れば、脱いだパーカーをソファへ投げて袖を捲り上げていた。
「コンビニ弁当の残骸ばっか……ゴミくらい捨てろよ、まったく」
ブツブツ言いながら掃除を始める田口が可笑しかった。
寝たのは二時間かそこらだったらしい。目を覚ました時は一時をちょっと過ぎていた。
リビングは小奇麗になっていた。ソファに座って雑誌を読んでいた小柄な女の姿に速水は目を見開いた。速水の気配に彼女が顔を上げ、速水は田口を連れてきていたことを思い出した。
田口は速水の顔を見て小さく笑った。
「おでこ全開だ」
「へ?」
「寝癖。鏡見てこいよ」
素っ頓狂なことを言い出したので速水が首を傾げると、田口はくすくす笑いながら洗面所を指差した。
洗面所の鏡を見て納得する。
シャワー後の濡れ髪で、うつ伏せか何かで寝てしまったのだろう。前髪がすっかり逆立ってしまっていた。
速水は舌打ちして、濡らした手で髪を撫でつけたのだった。
速水がリビングに戻ってくると、田口は台所で鍋を火にかけていた。
「何やってんだ?」
「昼メシ。素麺でいいだろ?」
「素麺なんてウチにあったのか」
掃除の途中で発掘したらしい。言われて初めて、乾麺の類がいくつかあったことを速水は思い出した。
速水のそんな様子に田口は苦笑を浮かべ、それからからからと笑った。
「お前の記憶にないんじゃ、いつのものだか怪しいなぁ。ま、死なない死なない」
湯が湧くのを待つ間に麺つゆを作り、箸と皿を用意する。普段鈍くさいくせに、手際の良さは家主の速水以上だ。茹で上がった素麺を流水で冷やして、田口は麺つゆと共に二人前の素麺をテーブルに差し出した。
「いただきます」
「はいどうぞ」
いただきますを言うのも久し振りな気がする。いただきますに返事があるのはもっと久し振りだ。
冷やすのが大雑把だったのか、ちょっと温い部分もあったりしたが、大して気にはならなかった。
気になるのは別のことだ。
「薬味ねえの?」
「ない。というより、食い物全く無いぞ」
「え、マジで?」
田口の言葉に速水はいつもの戸棚を開ける。カップ焼きそばが3つばかり残っていた。
「何だ、あるじゃん」
「カップ麺と冷食と、調味料と乾きモノは食い物のうちに入らない! 肉も卵も野菜も無いじゃないか」
「そりゃーお前の基準だろ?」
「お前の方が間違ってる。絶対」
「あーはいはい」
田口は言い出したら退かない。絶対、とまで断言されて、速水は田口に逆らう気も失せた。
「まったく、どんな食生活をしてるんだか……たまの休みぐらい真っ当に食えよな」
「メンドくせぇもん。作ってくれるってんなら食うけど」
「それは俺に作れっていう意味か? 相変わらずだな、お前……後で買い物行かなきゃな」
思えば、学生時代から田口のメシに世話になることが度々あった。作るのは面倒くさいけどコンビニ弁当に飽きた頃、麻雀の借金を一回チャラにする条件でたかりに行ったものだった。速水に手料理を振舞いたがる女たちよりよほど頼みやすかったし、後腐れもなかった。
目の前に座っているのは女だったが、話ぶりは田口そのままだ。愚痴も説教も面倒くさそうな表情も、見慣れたものだった。
声の高さは気にならなくなっていた。
普通のスーパーマーケットに来ることすら久し振りだった。
速水が押すカートに、田口は次々に食材を放り込む。速水にとっては到底消費しきれるとは思えない量だったが、田口には勝算があるらしい。牛蒡などここ数年購入したこともなかった。
「塩鯖、西京漬け……あ、ブリ照りにするか」
「魚ぁ? 肉のがいいんだけど」
「ダぁメ。お前最近魚食ってないだろ。なあ、4分の1で189円って安い?」
「知るかよ」
「ん、止めとくか。水菜でいいや。あとは、っと…………」
「そんなに買うのかよ? 俺使いきれねえぞ」
「お前に期待してないって。ところで酒はいいのか?」
「そうだなぁ……どっちが美味いと思う?」
「どっちも買っとけば? 俺も飲むし」
新作の発泡酒を半ダースずつ二種類買いこむと、結果として随分な量の買い物になった。速水一人ではここまで買いこむことはない。
大きく膨らんだビニル袋を手に駐車場を横切る頃になって、そういや今日の二人は傍からは仲睦まじく買い物をする男女に見えただろうな、と思い当たった。
まあ、それも悪くはない。
だが、外へ出る段になって、淡いグレーのジップパーカーを羽織った田口の姿によろめきかけた。男物のパーカーはやはり大きくて、指先がちょこんと出る程度。可愛いと口走りそうになって、自分の思考回路に速水は慌てた。
これは行灯これは行灯これは行灯、と心の中で唱えるが、効き目はだんだん薄くなっている気がする。
速水と目が合うと慌て、その拍子に躓きかけ、速水の腕に縋りつき、転ぶのを免れた安堵でほっと息を吐く。その一連の田口を見ては、呪文も最早意味はなかった。
「これ、オモシロ可愛くないか?」と思った速水を、否定するもう一人の速水は出てこない。
思えば、速水が今まで交際した相手はすべて女性からの申し入れだ。速水が自分から口説いたことはない。誰もが積極的で、腕を組んだくらいでそわそわと落ち着かなくなるようなウブなタイプはいなかった。
一度否定出来ないでいると、やることなすこと可愛く見えるから始末が悪い。
車までの道のりが短いのが大層残念だった。
抱きとめた時に腹筋のあたりに押し当てられた柔らかな膨らみに瞬間血が上ったのは、それとはまた別の思考である。
まったく男というのはどうしようもない生き物だ。
「相変わらず汚い部屋……」
「忙しいんだよ」
速水の家に上がり込んだ田口は早速ぼやいた。
速水の口調が言い訳がましくなる。
だが、田口は冷たい目で速水を一瞥した。
「暇な学生時代もこんなモンだったろ。よくこんなトコで生きてけるな」
「るっさい。俺は寝るから、掃除でも何でも好きにしやがれ」
「お前それが掃除してもらう側の態度かぁ?」
田口をリビングに放置して、速水はさっさと自室へ向かった。
下着の替えを引っ張り出して風呂場へ向かう。
その途中でチラリと田口を見れば、脱いだパーカーをソファへ投げて袖を捲り上げていた。
「コンビニ弁当の残骸ばっか……ゴミくらい捨てろよ、まったく」
ブツブツ言いながら掃除を始める田口が可笑しかった。
寝たのは二時間かそこらだったらしい。目を覚ました時は一時をちょっと過ぎていた。
リビングは小奇麗になっていた。ソファに座って雑誌を読んでいた小柄な女の姿に速水は目を見開いた。速水の気配に彼女が顔を上げ、速水は田口を連れてきていたことを思い出した。
田口は速水の顔を見て小さく笑った。
「おでこ全開だ」
「へ?」
「寝癖。鏡見てこいよ」
素っ頓狂なことを言い出したので速水が首を傾げると、田口はくすくす笑いながら洗面所を指差した。
洗面所の鏡を見て納得する。
シャワー後の濡れ髪で、うつ伏せか何かで寝てしまったのだろう。前髪がすっかり逆立ってしまっていた。
速水は舌打ちして、濡らした手で髪を撫でつけたのだった。
速水がリビングに戻ってくると、田口は台所で鍋を火にかけていた。
「何やってんだ?」
「昼メシ。素麺でいいだろ?」
「素麺なんてウチにあったのか」
掃除の途中で発掘したらしい。言われて初めて、乾麺の類がいくつかあったことを速水は思い出した。
速水のそんな様子に田口は苦笑を浮かべ、それからからからと笑った。
「お前の記憶にないんじゃ、いつのものだか怪しいなぁ。ま、死なない死なない」
湯が湧くのを待つ間に麺つゆを作り、箸と皿を用意する。普段鈍くさいくせに、手際の良さは家主の速水以上だ。茹で上がった素麺を流水で冷やして、田口は麺つゆと共に二人前の素麺をテーブルに差し出した。
「いただきます」
「はいどうぞ」
いただきますを言うのも久し振りな気がする。いただきますに返事があるのはもっと久し振りだ。
冷やすのが大雑把だったのか、ちょっと温い部分もあったりしたが、大して気にはならなかった。
気になるのは別のことだ。
「薬味ねえの?」
「ない。というより、食い物全く無いぞ」
「え、マジで?」
田口の言葉に速水はいつもの戸棚を開ける。カップ焼きそばが3つばかり残っていた。
「何だ、あるじゃん」
「カップ麺と冷食と、調味料と乾きモノは食い物のうちに入らない! 肉も卵も野菜も無いじゃないか」
「そりゃーお前の基準だろ?」
「お前の方が間違ってる。絶対」
「あーはいはい」
田口は言い出したら退かない。絶対、とまで断言されて、速水は田口に逆らう気も失せた。
「まったく、どんな食生活をしてるんだか……たまの休みぐらい真っ当に食えよな」
「メンドくせぇもん。作ってくれるってんなら食うけど」
「それは俺に作れっていう意味か? 相変わらずだな、お前……後で買い物行かなきゃな」
思えば、学生時代から田口のメシに世話になることが度々あった。作るのは面倒くさいけどコンビニ弁当に飽きた頃、麻雀の借金を一回チャラにする条件でたかりに行ったものだった。速水に手料理を振舞いたがる女たちよりよほど頼みやすかったし、後腐れもなかった。
目の前に座っているのは女だったが、話ぶりは田口そのままだ。愚痴も説教も面倒くさそうな表情も、見慣れたものだった。
声の高さは気にならなくなっていた。
普通のスーパーマーケットに来ることすら久し振りだった。
速水が押すカートに、田口は次々に食材を放り込む。速水にとっては到底消費しきれるとは思えない量だったが、田口には勝算があるらしい。牛蒡などここ数年購入したこともなかった。
「塩鯖、西京漬け……あ、ブリ照りにするか」
「魚ぁ? 肉のがいいんだけど」
「ダぁメ。お前最近魚食ってないだろ。なあ、4分の1で189円って安い?」
「知るかよ」
「ん、止めとくか。水菜でいいや。あとは、っと…………」
「そんなに買うのかよ? 俺使いきれねえぞ」
「お前に期待してないって。ところで酒はいいのか?」
「そうだなぁ……どっちが美味いと思う?」
「どっちも買っとけば? 俺も飲むし」
新作の発泡酒を半ダースずつ二種類買いこむと、結果として随分な量の買い物になった。速水一人ではここまで買いこむことはない。
大きく膨らんだビニル袋を手に駐車場を横切る頃になって、そういや今日の二人は傍からは仲睦まじく買い物をする男女に見えただろうな、と思い当たった。
まあ、それも悪くはない。
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COMMENT
はやい・・
霧島さん、仕事が速い。さすがです!この二人に一言言わせていただくなら
「あんたらただのバカップルや!」
いっそ熟年夫婦になってしまえ。はっはっは。
でも田口先生、会話内容は男性の時と変わってないんだから、するってーと平素よりイチャイチャしてるってことですよね、この二人。
あーん。公平先生、ウチにお嫁に来てくんないかな。
えっと、非公開コメントって管理画面でしか見れないみたいなんです。
(ウチの日記で実験してみたところ)
コメント、なんか恥ずかしいこと書いてたきがするんですけど、霧島さんが気にならないなら公開にしていただけますか?
もしくはメールいただけると助かりまっす。
お手数をおかけして申し訳ありませんっ!<(_ _)>
「あんたらただのバカップルや!」
いっそ熟年夫婦になってしまえ。はっはっは。
でも田口先生、会話内容は男性の時と変わってないんだから、するってーと平素よりイチャイチャしてるってことですよね、この二人。
あーん。公平先生、ウチにお嫁に来てくんないかな。
えっと、非公開コメントって管理画面でしか見れないみたいなんです。
(ウチの日記で実験してみたところ)
コメント、なんか恥ずかしいこと書いてたきがするんですけど、霧島さんが気にならないなら公開にしていただけますか?
もしくはメールいただけると助かりまっす。
お手数をおかけして申し訳ありませんっ!<(_ _)>
Re:はやい・・
こちらこそ。度々の御来訪有難う御座います。
早速コメント公開に切り替えました。お返事確認してやって下さいませ。
霧島の仕事が早いんじゃないんだよ? 実際「~4」は三日がかりだったし。ファイル化する手間がないのと、推敲期間を置いてない(一発書も同然)なのが早さの理由だと思うな。
>平素よりイチャイチャしてる
そのつもりないんでしょうけどねー。
「お前ちゃんとメシ食えよ」
「メンドくせぇんだって。田口クン作ってぇ」
「お前がそんな声出してもちぃっとも可愛くない。てかキモイ」
っつーようなやり取りが果たしてイチャイチャに見えるのか? いや、お友達にしちゃ親し過ぎるか……。
バカップル的お買いものに見えたなら幸いです。食品を一緒に買い物するのって、服とかアクセとかのフツーのショッピングより萌え度高い気がします。一緒に生活してるって雰囲気ばっちりで。
早速コメント公開に切り替えました。お返事確認してやって下さいませ。
霧島の仕事が早いんじゃないんだよ? 実際「~4」は三日がかりだったし。ファイル化する手間がないのと、推敲期間を置いてない(一発書も同然)なのが早さの理由だと思うな。
>平素よりイチャイチャしてる
そのつもりないんでしょうけどねー。
「お前ちゃんとメシ食えよ」
「メンドくせぇんだって。田口クン作ってぇ」
「お前がそんな声出してもちぃっとも可愛くない。てかキモイ」
っつーようなやり取りが果たしてイチャイチャに見えるのか? いや、お友達にしちゃ親し過ぎるか……。
バカップル的お買いものに見えたなら幸いです。食品を一緒に買い物するのって、服とかアクセとかのフツーのショッピングより萌え度高い気がします。一緒に生活してるって雰囲気ばっちりで。