パラレル注意報発令中
取り敢えず完結です。予定通り、かなぁ。
どちらかと言ったらシリアス系の方が、当初の予定通りに進む可能性は高い気がします。
予定通りにはいかなかったのが筆の進みの方だ。
でも、キリリクもあるのに5日で終わらそうと思ってた、7月頭の霧島の方がそもそも無謀。
そんでもって、やっと将軍が再登場したカンジ。最終回なのに。
個人的な好みを突っ込んだだけの代物でしたが、お付き合い下さった方、有難う御座いました。
7月のパラレル月間はまだ続きます。苦手な人は申し訳ない……。
取り敢えず完結です。予定通り、かなぁ。
どちらかと言ったらシリアス系の方が、当初の予定通りに進む可能性は高い気がします。
予定通りにはいかなかったのが筆の進みの方だ。
でも、キリリクもあるのに5日で終わらそうと思ってた、7月頭の霧島の方がそもそも無謀。
そんでもって、やっと将軍が再登場したカンジ。最終回なのに。
個人的な好みを突っ込んだだけの代物でしたが、お付き合い下さった方、有難う御座いました。
7月のパラレル月間はまだ続きます。苦手な人は申し訳ない……。
オレンジ新棟の屋上に駆け上った速水が見たのは三人の男だった。
一人は知っている、田口だ。速水が知る、黒い髪をした中年男の田口だった。
もう二人は知らない顔だったが、白く光る髪ですぐ正体が解る。
田口と何か話をしていた。
田口が、田口の前に立つ男の頬に触れる。
親しげなその仕草に胸の奥が焦げる。
「人は人を救おうとするんだ。天の命数は決まっている、それでも足掻く。その絶えない努力を、俺は愛おしいと思うよ」
田口はそう語った。
目の前の男に語っているのだろう、だが速水の心にも響いた。
不断に人を救おうとする、その道に速水自身がいる。
嬉しかった。
そして、わずかな期待。
男の言葉が、そんな浮足立った速水の心を打ち砕く。
「死を」
「待てっ!」
田口とキリウの間に割り込んだのは速水だった。田口の腕を引いてキリウから更に引き離す。
速水が着ている血まみれのままの白衣に、キリウとナルミは眉を顰め、田口はゆっくりと呼吸をして気を鎮めた。
「何でこいつが死ななくちゃならないんだっ! こいつがやったことが、そんなに悪いことなのかよっ?!」
速水が勢いのまま怒鳴る。速水は理不尽に目が眩んでいた。
田口がしたのは多くの人たちを助けることだった。助けるきっかけを作ることだった。
それがどうして、死に値するほどの罪になるのか。
だが、速水に怒鳴られたキリウは、眉を動かさなかった。
ほんの少しだけ宙に浮かんで速水を見下ろす位置を確保する。
二人が同じくらいの身長なのだと、田口はそれに気付いて妙にのんびりしみじみしてしまった。
「月の理は、人の身に過ぎぬお前には理解出来ない」
「ヒトヒトって、見下す言い方をしやがって…………っ」
「当然だろ、僕等は上に住んでるもの」
つっけんどんにキリウは言い、速水は喉の奥で唸った。
ナルミが混ぜっ返し、芝居がかった仕草で月の出ていない空を指差した。
速水の背後に庇われるような形になっていた田口は、速水の白衣を引っ張って声をかけた。
「速水、落ち着け」
「落ち着けるかっ!! 大体、どうしてお前はそう平静なんだ」
「継の君に、何て無礼な」
田口の口調があまりにいつも通りなので、逆に腹立たしい。
速水が勢いのままに怒鳴ると、キリウは眉を顰めた。
知るかよ、と内心速水は舌打ちする。
田口は田口だ。月がどうのとか無礼がどうのとか、速水の知ったことではなかった。
田口は速水の横へ出て、速水の顔を覗き込みながら笑った。
「月に、死刑はないんだ」
「え?」
「つまり……キリウの嘘?」
確かめるように田口がキリウを見上げる。
キリウは事務的な能面を消して、長い溜息を吐いた。
速水がナルミの方を見れば、ナルミは呆れた顔で首を横に振っている。
「相変わらず、兄さんは冗談が下手だね」
俄かには信じられず、速水はキリウを見てナルミを見て、それから田口を見た。
田口は苦笑を浮かべて小さく肩を竦めた。
「実際は死と変わらないのです。継の君への裁きは月界からの除籍ですから」
「除籍って、お前どうなるんだ?」
「ん……月界の住人としての能力は無くなるな。月には二度と戻れない。次の転生の時には、魂の記憶は残らない……そんな所かな?」
「要は普通の人間になるってことだね」
キリウは沈痛な面持ちで告げる。
速水が田口に確かめると、田口は幾つかの点を挙げたが、速水には今一つピンとこなかった。
田口に水を向けられたナルミの一言の方が、よほど解り易い。
「田口…………っ」
喜ぶ速水とは裏腹に、キリウは憮然とした表情だった。
キリウにしてみれば当然だった。これが田口との別れになってしまうのだ。
従兄の気持ちが解らない田口ではなかったが、除籍の刑を口惜しいと思うよりも、嬉しいと思う気持ちの方が強かった。
改めて、これほどに地上と人の世を愛しているのだと田口は自覚する。
更に一歩進み出て、田口はキリウに告げた。
「除籍を受け入れる」
「継の君…………」
「もう『継の君』じゃないぞ。従兄どのには面倒を掛けるな」
田口が廃嫡となれば、次の月帝太子が必要になる。他にも従兄弟や叔父が数人いるが、年齢と才覚、身分などを鑑みても、最有力候補はキリウに違いなかった。
「いいえ。私にとって継の君は貴方お一人です」
田口の前に降りてきたキリウは、膝をついて田口の白衣の裾を手に取った。目を伏せて白衣の裾に唇を落とした。
王に忠誠を誓う臣下の作法のように。姫に愛を誓う騎士の仕草のように。
当然ながら速水は心中穏やかではいられないが、邪魔をすることも出来なかった。
「お身体をお厭い下さいませ」
「有り難う」
キリウが手を放すと、田口の白衣が頼りなく揺れた。
キリウは立ち上がりふっと空へ舞い上がる。速水の頭よりも高い位置に足の先がきた。キリウの隣にナルミが並んだ。
「あんたが帝位に就いたら、それはそれで面白かったと思うんだけどな。残念だよ」
「君がそう思っていたなんて驚きだ。キリウを助けてやってくれ」
「言われる間でもない」
ナルミはナルミらしい、少し皮肉交じりの素っ気ない言葉で、田口との永の別れに代えた。
月から来た二人はそうして音も立てず天へ上っていく。
空を飛べない田口と速水は、オレンジ新棟の屋上から無言でそれを見送った。
二人、どれくらい黙り込んでいただろうか。
田口が速水を振り返り、苦笑を浮かべて言った。
「説明するって約束だったな。どこから話そうか?」
「…………要らない」
速水の低い呟きに、田口は首を僅かに傾げる。
その田口を速水は抱き締めた。
抱き締めた後になって、田口には血の匂いがきついかと思ったが、腕を緩めることはできなかった。
「説明は要らない。ただ答えてくれ。お前はこれからもここに居るな?」
「…………うん」
「よかった…………」
田口は少し考えて頷いた。
月にはもう帰らない。田口の居場所はこの地上になった。東城大病院から離れるつもりもなかった。
田口を抱き締める速水の腕に、更に力が籠もる。
速水の吐息交じりの安堵が田口の耳を擽った。
「好きだ……ずっと好きだった」
オレンジ新棟の屋上で、二人の影が更に距離を詰めた。
「今日は何だ?」
「"Stand by me"」
速水が尋ねると、田口は歌うのを止めて一言答えた。そしてまた、小さな声で歌い出す。
空が落ち、山が沈んでも、君が傍にいる限り。
相変わらず田口は月を見ながら歌う。月という単語が入っているなら、古今東西問わずに口ずさむ。
歌い終わったばかりの唇に、速水はキスを落とした。
速水の腕のなかのかぐや姫は、もう月には還らない。
一人は知っている、田口だ。速水が知る、黒い髪をした中年男の田口だった。
もう二人は知らない顔だったが、白く光る髪ですぐ正体が解る。
田口と何か話をしていた。
田口が、田口の前に立つ男の頬に触れる。
親しげなその仕草に胸の奥が焦げる。
「人は人を救おうとするんだ。天の命数は決まっている、それでも足掻く。その絶えない努力を、俺は愛おしいと思うよ」
田口はそう語った。
目の前の男に語っているのだろう、だが速水の心にも響いた。
不断に人を救おうとする、その道に速水自身がいる。
嬉しかった。
そして、わずかな期待。
男の言葉が、そんな浮足立った速水の心を打ち砕く。
「死を」
「待てっ!」
田口とキリウの間に割り込んだのは速水だった。田口の腕を引いてキリウから更に引き離す。
速水が着ている血まみれのままの白衣に、キリウとナルミは眉を顰め、田口はゆっくりと呼吸をして気を鎮めた。
「何でこいつが死ななくちゃならないんだっ! こいつがやったことが、そんなに悪いことなのかよっ?!」
速水が勢いのまま怒鳴る。速水は理不尽に目が眩んでいた。
田口がしたのは多くの人たちを助けることだった。助けるきっかけを作ることだった。
それがどうして、死に値するほどの罪になるのか。
だが、速水に怒鳴られたキリウは、眉を動かさなかった。
ほんの少しだけ宙に浮かんで速水を見下ろす位置を確保する。
二人が同じくらいの身長なのだと、田口はそれに気付いて妙にのんびりしみじみしてしまった。
「月の理は、人の身に過ぎぬお前には理解出来ない」
「ヒトヒトって、見下す言い方をしやがって…………っ」
「当然だろ、僕等は上に住んでるもの」
つっけんどんにキリウは言い、速水は喉の奥で唸った。
ナルミが混ぜっ返し、芝居がかった仕草で月の出ていない空を指差した。
速水の背後に庇われるような形になっていた田口は、速水の白衣を引っ張って声をかけた。
「速水、落ち着け」
「落ち着けるかっ!! 大体、どうしてお前はそう平静なんだ」
「継の君に、何て無礼な」
田口の口調があまりにいつも通りなので、逆に腹立たしい。
速水が勢いのままに怒鳴ると、キリウは眉を顰めた。
知るかよ、と内心速水は舌打ちする。
田口は田口だ。月がどうのとか無礼がどうのとか、速水の知ったことではなかった。
田口は速水の横へ出て、速水の顔を覗き込みながら笑った。
「月に、死刑はないんだ」
「え?」
「つまり……キリウの嘘?」
確かめるように田口がキリウを見上げる。
キリウは事務的な能面を消して、長い溜息を吐いた。
速水がナルミの方を見れば、ナルミは呆れた顔で首を横に振っている。
「相変わらず、兄さんは冗談が下手だね」
俄かには信じられず、速水はキリウを見てナルミを見て、それから田口を見た。
田口は苦笑を浮かべて小さく肩を竦めた。
「実際は死と変わらないのです。継の君への裁きは月界からの除籍ですから」
「除籍って、お前どうなるんだ?」
「ん……月界の住人としての能力は無くなるな。月には二度と戻れない。次の転生の時には、魂の記憶は残らない……そんな所かな?」
「要は普通の人間になるってことだね」
キリウは沈痛な面持ちで告げる。
速水が田口に確かめると、田口は幾つかの点を挙げたが、速水には今一つピンとこなかった。
田口に水を向けられたナルミの一言の方が、よほど解り易い。
「田口…………っ」
喜ぶ速水とは裏腹に、キリウは憮然とした表情だった。
キリウにしてみれば当然だった。これが田口との別れになってしまうのだ。
従兄の気持ちが解らない田口ではなかったが、除籍の刑を口惜しいと思うよりも、嬉しいと思う気持ちの方が強かった。
改めて、これほどに地上と人の世を愛しているのだと田口は自覚する。
更に一歩進み出て、田口はキリウに告げた。
「除籍を受け入れる」
「継の君…………」
「もう『継の君』じゃないぞ。従兄どのには面倒を掛けるな」
田口が廃嫡となれば、次の月帝太子が必要になる。他にも従兄弟や叔父が数人いるが、年齢と才覚、身分などを鑑みても、最有力候補はキリウに違いなかった。
「いいえ。私にとって継の君は貴方お一人です」
田口の前に降りてきたキリウは、膝をついて田口の白衣の裾を手に取った。目を伏せて白衣の裾に唇を落とした。
王に忠誠を誓う臣下の作法のように。姫に愛を誓う騎士の仕草のように。
当然ながら速水は心中穏やかではいられないが、邪魔をすることも出来なかった。
「お身体をお厭い下さいませ」
「有り難う」
キリウが手を放すと、田口の白衣が頼りなく揺れた。
キリウは立ち上がりふっと空へ舞い上がる。速水の頭よりも高い位置に足の先がきた。キリウの隣にナルミが並んだ。
「あんたが帝位に就いたら、それはそれで面白かったと思うんだけどな。残念だよ」
「君がそう思っていたなんて驚きだ。キリウを助けてやってくれ」
「言われる間でもない」
ナルミはナルミらしい、少し皮肉交じりの素っ気ない言葉で、田口との永の別れに代えた。
月から来た二人はそうして音も立てず天へ上っていく。
空を飛べない田口と速水は、オレンジ新棟の屋上から無言でそれを見送った。
二人、どれくらい黙り込んでいただろうか。
田口が速水を振り返り、苦笑を浮かべて言った。
「説明するって約束だったな。どこから話そうか?」
「…………要らない」
速水の低い呟きに、田口は首を僅かに傾げる。
その田口を速水は抱き締めた。
抱き締めた後になって、田口には血の匂いがきついかと思ったが、腕を緩めることはできなかった。
「説明は要らない。ただ答えてくれ。お前はこれからもここに居るな?」
「…………うん」
「よかった…………」
田口は少し考えて頷いた。
月にはもう帰らない。田口の居場所はこの地上になった。東城大病院から離れるつもりもなかった。
田口を抱き締める速水の腕に、更に力が籠もる。
速水の吐息交じりの安堵が田口の耳を擽った。
「好きだ……ずっと好きだった」
オレンジ新棟の屋上で、二人の影が更に距離を詰めた。
「今日は何だ?」
「"Stand by me"」
速水が尋ねると、田口は歌うのを止めて一言答えた。そしてまた、小さな声で歌い出す。
空が落ち、山が沈んでも、君が傍にいる限り。
相変わらず田口は月を見ながら歌う。月という単語が入っているなら、古今東西問わずに口ずさむ。
歌い終わったばかりの唇に、速水はキスを落とした。
速水の腕のなかのかぐや姫は、もう月には還らない。
PR
COMMENT
月帝が誰か気になります
ミヒャエル氏?いや、でも田口じゃ言葉が通じな…(ゲフン、ゲフンっ)
あ、こんばんわ^^
白衣の裾にキスするキリウ……
彼は地球の住人でも月の住人でもキザなのが似合いますね☆(^^)
月に戻らないかぐや姫、要約すると“愛”ですねvv(←要約しすぎだww
おじいちゃんになるまで一緒に月を見ながら暮らせばいいと思います。それでときどき月での昔話をすればイイ☆
それにヤキモチを焼く速水センセ。容易に妄想…、否、想像がつくんですが、どうしたらいいですか。病院紹介してくださ…(ry
では、次の作品楽しみにしてますvv
ごちそうさまでした!!
あ、こんばんわ^^
白衣の裾にキスするキリウ……
彼は地球の住人でも月の住人でもキザなのが似合いますね☆(^^)
月に戻らないかぐや姫、要約すると“愛”ですねvv(←要約しすぎだww
おじいちゃんになるまで一緒に月を見ながら暮らせばいいと思います。それでときどき月での昔話をすればイイ☆
それにヤキモチを焼く速水センセ。容易に妄想…、否、想像がつくんですが、どうしたらいいですか。病院紹介してくださ…(ry
では、次の作品楽しみにしてますvv
ごちそうさまでした!!
Re:月帝が誰か気になります
いらっしゃいませ、コメント有難う御座います。
連載にお付き合い下さいまして、改めて有難う御座いました。
月帝さまねえ……腹黒狸は地上にとっておきたいからな。佐伯前病院長か銀獅子・桜宮巌雄か、「ひかり~」のおじいか……。
あ、言葉はね、実はノープロブレム設定なのですよ。お月さまの住人は、実はノルガ語だって話せるかもしれない。
キリウ氏は桐生氏より気障度は上です。何たって宮廷人ですから。本当なら中国の宮廷服みたいなの着てる筈なんだよな――。絵描けないのが残念だ。
今後の二人は月見酒でもしながらのんびり過ごすことでしょう。行灯先生の中には400年分の記憶があるので、江戸時代の話とかも出来る筈。話のタネには事欠きません。
ところで妄想の治療を得意とする病院は霧島も知りませんが、有効な対処法は知っています。それは周囲にうつしてやることですゼ。
でもこれって、相互作用で更に妄想が深まるだけ?
いいんだ、妄想中って幸せだから。
連載にお付き合い下さいまして、改めて有難う御座いました。
月帝さまねえ……腹黒狸は地上にとっておきたいからな。佐伯前病院長か銀獅子・桜宮巌雄か、「ひかり~」のおじいか……。
あ、言葉はね、実はノープロブレム設定なのですよ。お月さまの住人は、実はノルガ語だって話せるかもしれない。
キリウ氏は桐生氏より気障度は上です。何たって宮廷人ですから。本当なら中国の宮廷服みたいなの着てる筈なんだよな――。絵描けないのが残念だ。
今後の二人は月見酒でもしながらのんびり過ごすことでしょう。行灯先生の中には400年分の記憶があるので、江戸時代の話とかも出来る筈。話のタネには事欠きません。
ところで妄想の治療を得意とする病院は霧島も知りませんが、有効な対処法は知っています。それは周囲にうつしてやることですゼ。
でもこれって、相互作用で更に妄想が深まるだけ?
いいんだ、妄想中って幸せだから。