パラレル注意報発令中
連載中って、前振りに一番困る。
つまりここのスペースに書くネタにだんだん詰まってくるのだ。
普通なら「どうしてこの話を書こうと思ったか」みたいなので済んでるけど、連載だと最初の一回にそのネタを振って、後は制作中の愚痴……という展開にしかならない。
あんまり愚痴を書くのは申し訳ないし。
……という愚痴。
書くことがない、ということをネタに書くという、自転車操業。
連載中って、前振りに一番困る。
つまりここのスペースに書くネタにだんだん詰まってくるのだ。
普通なら「どうしてこの話を書こうと思ったか」みたいなので済んでるけど、連載だと最初の一回にそのネタを振って、後は制作中の愚痴……という展開にしかならない。
あんまり愚痴を書くのは申し訳ないし。
……という愚痴。
書くことがない、ということをネタに書くという、自転車操業。
田口の従兄でありナルミの兄であるキリウは、オレンジ新棟の屋上まで降りてくると田口の前に膝を着いた。
宮廷で行われる正式な跪礼に、田口の方が慌ててしまう。
「キリウ、いいからっ」
「そうだよ、兄さん。汚れる」
ナルミの物言いを横眼で睨んで、キリウは跪いたまま田口に目を向けた。
田口は厳しい顔を作ってみせた。
「立ってくれ、キリウ。それでは話ができない」
「御意を得ます」
田口が再度促して、ようやくキリウは立ち上がった。
立てば、彼は田口より背が高い。
田口は表情を緩めて見上げた顔に笑ってみせた。
「久し振りだね、キリウ。変わりなさそうで何よりだ」
「継の君も、お変わりなく……」
「堅苦しいところまで相変わらずか」
田口はそう言ってわざとナルミを見れば、ナルミは肩を竦めた。
キリウはナルミを睨んで不快そうに眉を顰める。
「アレは無作法が過ぎるのです。継の君がお優しいので増長している」
「はいはい。兄さんのお説教はまた今度。裁きは?」
ナルミはあっさりと用件に入った。キリウが表情を曇らせる。
田口に向けられるキリウの視線は悲しみに満ちていた。
「今回の罪を悔い、今後200年、月での蟄居を受け入れるのであれば、特別に許す、と仰っております」
「200年の蟄居……長いね」
ナルミも眉を顰めた。
月界の住人にとって200年は決して長くはないが、蟄居の年数としては長い。
田口は微笑を浮かべたまま、緩く首を振った。
「罪を悔い、というところが納得できない」
「それは、如何なる意味でしょう?」
「俺はこのことを悔いていないし、恥じるつもりもない、ということだ」
地上の魂への干渉が罪であることは知っている。
だが、田口はそうしたことを後悔しなかった。
「本当のところ、この地上に居る400年、何度も干渉しようと思ったよ。
戊辰の時も日清日露、大戦の時も……そう出来たらどんなに良かったか。俺の力が及ばなかったから、そうしなかっただけだ。今日、俺の手の届くところで、事が起こった。俺は、人々を助けるために、俺に出来る最善をした……それを後悔はしない」
田口の言葉にキリウは顔を歪めた。ナルミも苦虫を噛み潰したような顔だった。
従兄の泣き出しそうな顔を見るのは、地上に追放が決まった時以来だと田口はボンヤリ思う。
「……どうしてそんなに、人の身を気に掛けるのです。人など、互いに殺し合う野蛮で醜く弱い生き物だというのに…………っ」
「キリウ」
田口の口調は柔らかかったが、キリウが吐き出す怨嗟を止める効果はあった。
息を呑んだキリウを宥めるように、田口はそっとキリウの頬に触れた。
キリウは瞬間身を強張らせたが、すぐに緊張を解いた。
本当に幼い頃、生まれの違いが何の意味も無かった頃はこうして触れ合ったものだ。
ばたん、と大きな物音が背後でした。
ナルミがちらっと振り向いただけで、つまらなそうに視線を戻した。
上がってきたのは速水だった。
田口も気配でそれが解ったが、今、キリウから視線を切ることは出来なかった。
思いは告げなくてはならない。
「人は弱いよ。すぐ欲に負けて、魂の高潔を見失う。生存のためでなく、同種を殺めるのは人だけだろう。一方で、人は人を救おうとするんだ。天の命数は決まっている、それでも足掻く。その絶えない努力を、俺は愛おしいと思うよ」
田口の言葉にますますキリウは泣きそうな顔をする。
従兄を悲しませるのは本意ではないが、田口にはどうしようもなかった。
キリウは一つ息を吐くと、一歩身を引いて田口から離れた。
手で顔を覆う間に気を取り直し、感情の一切を隠した。
役人のように隙の無い表情で口を開く。
「継の君がそう仰るのであれば、他にありません。月界の裁きを伝えます」
田口の背筋に緊張が走る。ナルミも緊張の表情を作った。
硬い声でキリウは告げた。
「死を」
宮廷で行われる正式な跪礼に、田口の方が慌ててしまう。
「キリウ、いいからっ」
「そうだよ、兄さん。汚れる」
ナルミの物言いを横眼で睨んで、キリウは跪いたまま田口に目を向けた。
田口は厳しい顔を作ってみせた。
「立ってくれ、キリウ。それでは話ができない」
「御意を得ます」
田口が再度促して、ようやくキリウは立ち上がった。
立てば、彼は田口より背が高い。
田口は表情を緩めて見上げた顔に笑ってみせた。
「久し振りだね、キリウ。変わりなさそうで何よりだ」
「継の君も、お変わりなく……」
「堅苦しいところまで相変わらずか」
田口はそう言ってわざとナルミを見れば、ナルミは肩を竦めた。
キリウはナルミを睨んで不快そうに眉を顰める。
「アレは無作法が過ぎるのです。継の君がお優しいので増長している」
「はいはい。兄さんのお説教はまた今度。裁きは?」
ナルミはあっさりと用件に入った。キリウが表情を曇らせる。
田口に向けられるキリウの視線は悲しみに満ちていた。
「今回の罪を悔い、今後200年、月での蟄居を受け入れるのであれば、特別に許す、と仰っております」
「200年の蟄居……長いね」
ナルミも眉を顰めた。
月界の住人にとって200年は決して長くはないが、蟄居の年数としては長い。
田口は微笑を浮かべたまま、緩く首を振った。
「罪を悔い、というところが納得できない」
「それは、如何なる意味でしょう?」
「俺はこのことを悔いていないし、恥じるつもりもない、ということだ」
地上の魂への干渉が罪であることは知っている。
だが、田口はそうしたことを後悔しなかった。
「本当のところ、この地上に居る400年、何度も干渉しようと思ったよ。
戊辰の時も日清日露、大戦の時も……そう出来たらどんなに良かったか。俺の力が及ばなかったから、そうしなかっただけだ。今日、俺の手の届くところで、事が起こった。俺は、人々を助けるために、俺に出来る最善をした……それを後悔はしない」
田口の言葉にキリウは顔を歪めた。ナルミも苦虫を噛み潰したような顔だった。
従兄の泣き出しそうな顔を見るのは、地上に追放が決まった時以来だと田口はボンヤリ思う。
「……どうしてそんなに、人の身を気に掛けるのです。人など、互いに殺し合う野蛮で醜く弱い生き物だというのに…………っ」
「キリウ」
田口の口調は柔らかかったが、キリウが吐き出す怨嗟を止める効果はあった。
息を呑んだキリウを宥めるように、田口はそっとキリウの頬に触れた。
キリウは瞬間身を強張らせたが、すぐに緊張を解いた。
本当に幼い頃、生まれの違いが何の意味も無かった頃はこうして触れ合ったものだ。
ばたん、と大きな物音が背後でした。
ナルミがちらっと振り向いただけで、つまらなそうに視線を戻した。
上がってきたのは速水だった。
田口も気配でそれが解ったが、今、キリウから視線を切ることは出来なかった。
思いは告げなくてはならない。
「人は弱いよ。すぐ欲に負けて、魂の高潔を見失う。生存のためでなく、同種を殺めるのは人だけだろう。一方で、人は人を救おうとするんだ。天の命数は決まっている、それでも足掻く。その絶えない努力を、俺は愛おしいと思うよ」
田口の言葉にますますキリウは泣きそうな顔をする。
従兄を悲しませるのは本意ではないが、田口にはどうしようもなかった。
キリウは一つ息を吐くと、一歩身を引いて田口から離れた。
手で顔を覆う間に気を取り直し、感情の一切を隠した。
役人のように隙の無い表情で口を開く。
「継の君がそう仰るのであれば、他にありません。月界の裁きを伝えます」
田口の背筋に緊張が走る。ナルミも緊張の表情を作った。
硬い声でキリウは告げた。
「死を」
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