「なになに? 『前略 田口先生』……」
地下食堂の隅っこで、速水はその便箋を取り上げた。
島津が耳を澄まし、宛先人であるところの田口は途方に暮れた顔になる。
「『先日の東城デパート火災の折に見た先生の姿が忘れられません。
泣いている子供を抱きながら、お年寄りに話しかけていた先生は、
聖母マリアもかくやと思われ、後光すら射して見えました。』」
「ぶっ」
速水の朗読に、島津は一つ噴き出した。
田口が横目で睨むとそそくさと横を向いたが、笑いに肩が震えている。
朗読している速水の方も、口元が笑いのために歪んでいた。
悪友どもの失礼な態度に田口はため息を吐いた。
「『一度お会いして、二人きりでお話がしたいと思います。
○月×日の朝10時、桜宮水族館でお待ちしています。
お仕事かもしれませんが、来るまで待ってますので、どうか来て下さい』……だってよ」
ようやっと朗読を終えた速水は、ニヤニヤと根性の悪い笑みと共に手紙を封筒に戻して、田口に返して寄越した。島津の顔も、速水と似たようなものだ。
二人揃って、田口に降りかかった珍事を面白がっている。
「お前がラブレター貰うなんてなぁ」
「しかも野郎から」
挙句テーブルを叩いて笑うのだから、失礼極まりない。
この二人にバレたのが失敗の元だと田口はしみじみ思う。
最初は、お礼の手紙か何かだと思ったのだ。研修医とはいえ医者であるし、そういうことが無いわけでもない。
だが、貰った手紙を読み進めていくうちに、様子が違うのに気付いた。
田口が徐々に眉間に皺を寄せて難しい表情になっていくのに、速水が気付いたのだ。
で、そんな厄介事が書いてあるのかと朗読を始め、笑い話になったワケである。
「ひーっひっひ……お前、コレどうすんだよ? 行くのか?」
「涙が出てくるまで笑わなくてもいいだろ……行って、ちゃんと断ってくるよ」
強引に笑いを収めた速水は引き攣った声で田口に訊いた。
田口はため息交じりに言った。
先方が指定した日は、幸か不幸か、田口は公休になっている。
行くのは正直気が進まないのだが、ズルズルと話を引き延ばすよりは、さっさと断ってしまった方がいいだろう。待ちぼうけさせるのも申し訳ない。
「はあ…………」
田口は何度目かの溜息を吐いて、もそもそと昼食を片付けた。
速水も島津も同じように昼食を平らげ、三人は揃って地下食堂を抜け出した。
それぞれの病棟へ戻る途中、田口に聞こえないように速水は島津に囁いた。
「お前、○月×日って休み?」
「午後出勤。そーゆうお前はどうなんだ?」
「休み」
囁いて、ちらっと眼を合わせ、ニヤっと笑う。
それだけで速水と島津の打ち合わせは終了した。
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COMMENT
私だって
渡せるものなら、行灯センセに渡したいです!
ラブレターv←食い付く所が違う
どんなオリキャラなのか、楽しみですよ~v
伝説の時はまだお友達感覚だけど、今のジェネラルに知れたら、血祭りにされそうな気がします。
いや、まあそれでもいいっていう猛者がいてくれたら、酷く萌えるんですけど(笑)
続きも楽しみにしていますv
ラブレターv←食い付く所が違う
どんなオリキャラなのか、楽しみですよ~v
伝説の時はまだお友達感覚だけど、今のジェネラルに知れたら、血祭りにされそうな気がします。
いや、まあそれでもいいっていう猛者がいてくれたら、酷く萌えるんですけど(笑)
続きも楽しみにしていますv
Re:私だって
いらっしゃいませ、こんばんは。
霧島なら行灯先生宛てにラブレターを、将軍宛てに励ましの手紙かな(笑)。
オリキャラ……今回はホントに当て馬だから……寧ろあのラブレターと後編の「一言」のために作った話だし。期待しないで下さい、マジで。
今のとこ、猛者は緑本のゲリラしかいない気がしますねえ。食わせ者のが多い……狸といい地雷原といい眠り猫といい。将軍も大変だな。だから励ましの手紙が必要なのかも……特にウチでは。
霧島なら行灯先生宛てにラブレターを、将軍宛てに励ましの手紙かな(笑)。
オリキャラ……今回はホントに当て馬だから……寧ろあのラブレターと後編の「一言」のために作った話だし。期待しないで下さい、マジで。
今のとこ、猛者は緑本のゲリラしかいない気がしますねえ。食わせ者のが多い……狸といい地雷原といい眠り猫といい。将軍も大変だな。だから励ましの手紙が必要なのかも……特にウチでは。