歌い出しは男性からだった。
カラオケの伴奏に合わせて、速水がたどたどしく歌う。
男性から女性に切り替わり、小児科の歌姫の代わりに田口が入る。
女性のキーの高さに、田口の声も擦れた。
そして二人の掛け合いのタイミング。
「あ」
「ああ、俺か。てか、今何処だ?」
歌詞と楽譜の両方を追っていた速水が、現在地点を見失った。
田口は指で楽譜の一点を指し、そこから流しっぱなしにしていたカラオケ伴奏を追った。
男女のパートを一緒くたに田口は歌っていく。
「新しい何かの始まり」
サビに追いついて、速水の声が重なる。
速水のタイミングに頷いて、田口はそのまま指で楽譜をなぞりながら歌った。
同じ楽譜を覗き込みながら、速水は全曲ではなく自分のパートだけを意識して歌う。
最後まで歌いきって、二人は同時に肩の力を抜いて息を吐いた。
顔を見合わせて笑ってしまう。
「本番じゃやるなよ」
「確かに、みっともいいものじゃないな」
「みっともいい、は日本語として間違ってるだろ」
冗談混じりの練習は終始和やかに過ぎた。
最初の頃のたどたどしさが嘘のように、速水の声は伸びやかだった。
速水の練習に付き合って歌い込んだ田口も、女声のキーの高さを物ともしなかった。
何事も慣れということだ。
互いの表情を確かめながら、掛け合いのタイミングを取る。
二人揃って歌い出す箇所の出だしの呼吸を探る。
互いの声が絡まり合って、胸の奥に心地良く響く。
田口も速水も、互いの瞳が笑っているのに気付いていた。
それが酷く楽しく嬉しい。
二人の周りの世界が完全に満ち足りている錯覚。
酔い痴れて、しまう。
フェードアウトするエンディングを掴まえるかのように、速水は手を伸ばした。
田口に触れる。
指の背で頬にそっと触れただけだった。
田口が淡く笑った。
何かが始まると、思った。
カラオケの伴奏に合わせて、速水がたどたどしく歌う。
男性から女性に切り替わり、小児科の歌姫の代わりに田口が入る。
女性のキーの高さに、田口の声も擦れた。
そして二人の掛け合いのタイミング。
「あ」
「ああ、俺か。てか、今何処だ?」
歌詞と楽譜の両方を追っていた速水が、現在地点を見失った。
田口は指で楽譜の一点を指し、そこから流しっぱなしにしていたカラオケ伴奏を追った。
男女のパートを一緒くたに田口は歌っていく。
解ってる、何かが変わったの
初めての気持ち 今夜ここで
これはきっと 新しい何かの始まり
「新しい何かの始まり」
サビに追いついて、速水の声が重なる。
速水のタイミングに頷いて、田口はそのまま指で楽譜をなぞりながら歌った。
同じ楽譜を覗き込みながら、速水は全曲ではなく自分のパートだけを意識して歌う。
最後まで歌いきって、二人は同時に肩の力を抜いて息を吐いた。
顔を見合わせて笑ってしまう。
「本番じゃやるなよ」
「確かに、みっともいいものじゃないな」
「みっともいい、は日本語として間違ってるだろ」
冗談混じりの練習は終始和やかに過ぎた。
最初の頃のたどたどしさが嘘のように、速水の声は伸びやかだった。
速水の練習に付き合って歌い込んだ田口も、女声のキーの高さを物ともしなかった。
何事も慣れということだ。
世界が輝いて見えるの
もっと、もっと眩しく
私の傍に貴方が居て
そう、僕の傍に
互いの表情を確かめながら、掛け合いのタイミングを取る。
二人揃って歌い出す箇所の出だしの呼吸を探る。
きっと新しい何かの始まり
君とここにいる、それがとても自然
君の瞳を覗きながら
胸の奥に感じる 新しい何かの始まり
互いの声が絡まり合って、胸の奥に心地良く響く。
田口も速水も、互いの瞳が笑っているのに気付いていた。
それが酷く楽しく嬉しい。
二人の周りの世界が完全に満ち足りている錯覚。
酔い痴れて、しまう。
胸の奥に感じる
新しい何かの始まり
フェードアウトするエンディングを掴まえるかのように、速水は手を伸ばした。
田口に触れる。
指の背で頬にそっと触れただけだった。
田口が淡く笑った。
何かが始まると、思った。
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