今回で終わりです。今度こそ。
連載にしろ何にしろ、必ず一つは「書きたいシーン」があって話を作っていくので、それが入っていれば凡そ満足出来ます。自己満足。
今回は、将軍を追い出す歌姫、が個人的な思い入れシーンだった。
霧島の狙いってさぁ……何かズレてたりする?
終わったことはもういいのぉ~~♪
2009年6月分のファイルを移動しております。
「遠方より来たるあり」とかの頃。
その他の人々企画やってたんだよね、確か。
リンク切れ等発見しましたらお知らせ下さると助かります。
連載にしろ何にしろ、必ず一つは「書きたいシーン」があって話を作っていくので、それが入っていれば凡そ満足出来ます。自己満足。
今回は、将軍を追い出す歌姫、が個人的な思い入れシーンだった。
霧島の狙いってさぁ……何かズレてたりする?
終わったことはもういいのぉ~~♪
2009年6月分のファイルを移動しております。
「遠方より来たるあり」とかの頃。
その他の人々企画やってたんだよね、確か。
リンク切れ等発見しましたらお知らせ下さると助かります。
ミュージカル当日の舞台を、田口は隅っこで見物していた。
客の入りは盛況だった。
入院患者でも患者の身内でもなさそうな、私服姿の女性が多い。
公休の看護師たちだろう。
休日にわざわざ出向いてくる彼女たちの目当ては、十中八、九が速水だ。
速水の事を考えると、田口の眉間に皺が寄ってしまう。
見交わした瞳。
重なる声。
触れ合うよりも、もっと近くに感じた体温。
余りに気持ちの良い感触に、逆に怖くなるほどだった。
もう一度、確かめたいと思う。
勿論そんなことは言い出せないままに当日を迎え、速水は人前で歌を披露している。
少しズレた音程に、田口は密かに眉を顰めた。
「…………え?」
デュエットが二曲終わり、次は速水のソロの筈だった。
だが、ステージに登場したのは浜田一人。
速水が歌う筈だったソロナンバーを、彼女が一人で歌っている。
誰もそれに気付いていないが、練習に付き合った田口はプログラムを知っている。
「何で…………」
真っ先に、何かトラブルがあったのかと思った。
救急関係か、速水自身か。
田口は踵を返し、会場を抜け出した。
隅っこに立っていたのが幸いだ。
会場から一歩外へ出ると、人気がなくて空気が冷えた病院に戻る。
後ろから微かに浜田の声が聞こえるのみだった。
舞台袖に向かおうとした田口の腕を、誰かが掴んだ。
「速水!」
「出てきてくれて助かった」
驚愕で目を見開く田口を余所に、速水は笑った。
田口は眉を吊り上げて速水を睨みつけた。
「お前、なに舞台抜け出してんだよ」
「抜け出したんじゃねえよ、追い出されたのさ」
田口の批難に苦笑を浮かべると、速水は場所を変えようと田口を促した。
ワケが解らないまま、田口もその提案には頷いた。
愚痴外来ほど密談に適した部屋もないだろう。
元々は田口のサボリ部屋だったのだ。
コーヒーを淹れながら、田口は速水の少ないセリフを脳内で反芻していた。
追い出された、とはどういうことだろう。
出てきてくれて助かった、ということは田口に用があったのか。
田口が一人で考えても、答えが出る筈もなかった。
田口が出したコーヒーを一口啜り、速水は大きく息を吐く。
おっさんみたいな反応だなぁと、自分を棚に上げて田口は思う。
まずはコーヒーを味わってから田口は口を開いた。
「追い出されたって、どういうことだ?」
「言葉通りだな。気も漫ろで歌うな、音楽にも客にも失礼だって浜田に怒られた」
「…………そんなの、客には解らないだろ」
聴いているこちらは素人なのだ。
露骨な手抜きならともかく、多少なら解りっこない。
現に田口だって、速水の歌に気が入っていないなど、気付きもしなかった。
ズルイことを言う田口に、速水は苦笑を浮かべた。
「いいんだよ、別の事考えてたのは本当だからな」
「仕事か?」
速水の頭から離れない考え事なら、やはり救急のことだろうか。
それなら納得も出来る。
そう思いながら口にした田口に、速水は首を横に振った。
コーヒーカップをテーブルに避難させ、速水は手を伸ばす。
田口のコーヒーカップも取り上げられてしまった。
速水を睨んだ田口の目は、速水の真剣な瞳の返り討ちに遭う。
「お前の事だ」
田口の心臓が音を立てた。
何も言えない田口を視線で縛り上げたまま、速水は言葉でも田口を動けなくさせる。
「お前と一緒に歌った、あの時のことが忘れられない。そればっかり考えてたら、浜田に怒られた」
「そ、うか」
「浜田じゃダメなんだ。どんなに彼女が上手くても、あの時の気持ちにはならない。お前だからだ……今なら、それが解る」
「速水…………」
ずっとあの時の、速水と共に歌った時の事を考えていたのは田口も同じだ。
一つになる感覚。
完全に、満ち足りた世界。
もう一度歌って確かめる間でもなかった。
速水の瞳の中に映る自分を見ながら、田口は小さく速水の名を呼んだ。
速水が笑う。
田口の瞳の中にも、速水が映っていることだろう。
近付いてくる速水の影に、田口はそっと瞼を閉じた。
二人の間で、新しい何かが始まった。
客の入りは盛況だった。
入院患者でも患者の身内でもなさそうな、私服姿の女性が多い。
公休の看護師たちだろう。
休日にわざわざ出向いてくる彼女たちの目当ては、十中八、九が速水だ。
速水の事を考えると、田口の眉間に皺が寄ってしまう。
見交わした瞳。
重なる声。
触れ合うよりも、もっと近くに感じた体温。
余りに気持ちの良い感触に、逆に怖くなるほどだった。
もう一度、確かめたいと思う。
勿論そんなことは言い出せないままに当日を迎え、速水は人前で歌を披露している。
少しズレた音程に、田口は密かに眉を顰めた。
「…………え?」
デュエットが二曲終わり、次は速水のソロの筈だった。
だが、ステージに登場したのは浜田一人。
速水が歌う筈だったソロナンバーを、彼女が一人で歌っている。
誰もそれに気付いていないが、練習に付き合った田口はプログラムを知っている。
「何で…………」
真っ先に、何かトラブルがあったのかと思った。
救急関係か、速水自身か。
田口は踵を返し、会場を抜け出した。
隅っこに立っていたのが幸いだ。
会場から一歩外へ出ると、人気がなくて空気が冷えた病院に戻る。
後ろから微かに浜田の声が聞こえるのみだった。
舞台袖に向かおうとした田口の腕を、誰かが掴んだ。
「速水!」
「出てきてくれて助かった」
驚愕で目を見開く田口を余所に、速水は笑った。
田口は眉を吊り上げて速水を睨みつけた。
「お前、なに舞台抜け出してんだよ」
「抜け出したんじゃねえよ、追い出されたのさ」
田口の批難に苦笑を浮かべると、速水は場所を変えようと田口を促した。
ワケが解らないまま、田口もその提案には頷いた。
愚痴外来ほど密談に適した部屋もないだろう。
元々は田口のサボリ部屋だったのだ。
コーヒーを淹れながら、田口は速水の少ないセリフを脳内で反芻していた。
追い出された、とはどういうことだろう。
出てきてくれて助かった、ということは田口に用があったのか。
田口が一人で考えても、答えが出る筈もなかった。
田口が出したコーヒーを一口啜り、速水は大きく息を吐く。
おっさんみたいな反応だなぁと、自分を棚に上げて田口は思う。
まずはコーヒーを味わってから田口は口を開いた。
「追い出されたって、どういうことだ?」
「言葉通りだな。気も漫ろで歌うな、音楽にも客にも失礼だって浜田に怒られた」
「…………そんなの、客には解らないだろ」
聴いているこちらは素人なのだ。
露骨な手抜きならともかく、多少なら解りっこない。
現に田口だって、速水の歌に気が入っていないなど、気付きもしなかった。
ズルイことを言う田口に、速水は苦笑を浮かべた。
「いいんだよ、別の事考えてたのは本当だからな」
「仕事か?」
速水の頭から離れない考え事なら、やはり救急のことだろうか。
それなら納得も出来る。
そう思いながら口にした田口に、速水は首を横に振った。
コーヒーカップをテーブルに避難させ、速水は手を伸ばす。
田口のコーヒーカップも取り上げられてしまった。
速水を睨んだ田口の目は、速水の真剣な瞳の返り討ちに遭う。
「お前の事だ」
田口の心臓が音を立てた。
何も言えない田口を視線で縛り上げたまま、速水は言葉でも田口を動けなくさせる。
「お前と一緒に歌った、あの時のことが忘れられない。そればっかり考えてたら、浜田に怒られた」
「そ、うか」
「浜田じゃダメなんだ。どんなに彼女が上手くても、あの時の気持ちにはならない。お前だからだ……今なら、それが解る」
「速水…………」
ずっとあの時の、速水と共に歌った時の事を考えていたのは田口も同じだ。
一つになる感覚。
完全に、満ち足りた世界。
もう一度歌って確かめる間でもなかった。
速水の瞳の中に映る自分を見ながら、田口は小さく速水の名を呼んだ。
速水が笑う。
田口の瞳の中にも、速水が映っていることだろう。
近付いてくる速水の影に、田口はそっと瞼を閉じた。
二人の間で、新しい何かが始まった。
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