ホスピタル・ミュージカル３

霧島、割とミュージカルって好きです。あとネズミ系。
ちなみに原語原曲派。
まあ基本とか古典的なのしか見たことないんですけどね。
「サウンド・オブ・ミュージック」がトップなのは譲らん。
「wicked」が映画化されないかなぁと思っている。
"Defying　Gravity"がどのシーンで使われるのか知りたい。
四季版は終わってるんだよなぁ。


それはさておき3回目。
必要もないのに、使用楽曲とか決めていたというマニアな話。
勿論霧島の趣味に偏っている。
実際、決めておいた方がイメージし易いので、それはそれでいいのですけどね。
いつか使うかもしれないしぃ～～♪


私信：tsutakoさま
メッセージ受信しました。46000ヒットおめでとう御座います。
リクSSの方、もう暫くお待ち下さいませ。

「え」

視界に突然割り込んできたマグカップに、田口は驚いて目を上げた。
視線の先で、マグカップを手にした藤原看護師が微笑した。
田口は慌ててイヤホンを外した。

「藤原さん」
「熱心なのは結構ですが、休憩にしませんか？」
「有り難う御座います」

マグカップの中から、コーヒーの芳香が立ち上る。
自然、田口は目を細めた。
藤原も田口の向かいに座り、コーヒーの香りを堪能している。
藤原の場合は、淹れたのが彼女自身だから、自画自賛というのだろう。

「それにしても田口先生、見事に巻き込まれてますね」
「…………ですね。どうしてでしょう？」

藤原は茶目っ気のある笑みと共に言った。
田口もつい、藤原の言葉に首を傾げてしまった。
田口は自他共に認める穴倉引き篭もり医師だ。
院内企画の大半は、後になって「アレ、そんなのやってたんだ」という状態。
残りの半分は兵藤が関与する企画だが、その場合は回避出来る。
最初からしっかり巻き込まれているというのは、実は珍しいのである。

「ぜーんぶ速水が悪い」
「その速水先生は如何なんですか？」
「大変そうですよ。まあ、カンはいい奴ですから、仕上がりは早いと思いますが」
「そう言えばそうでしたね」

コツさえ掴めば、すぐ自分の物にする。
学生時代から、速水の要領の良さが羨ましいくらいだった。
田口の言葉に藤原は一つ頷いたが、田口は少し首を傾げた。
藤原は何時、速水のカンがいいと知ったのだろうか。
その疑問はすぐに解ける。
速水が外科医になりたての頃、藤原は現役の外科部看護師だった筈だ。
そんなことを考えていたら、藤原は意味ありげな笑みを浮かべた。

「病院中の女性が期待してますよ。頑張って下さいね、田口コーチ」
「コーチ、ですか…………」

藤原の言葉に、田口は溜息を吐いた。
見えない期待がズドーンと背中に圧し掛かった気分だ。



「お前、歌詞誤魔化しただろ？」
「うっせーな。覚えただけでも立派だろうが」

予想通り、速水は早々にソロ曲を仕上げてきた。
何箇所か歌詞を間違えたのは御愛嬌だ。
生来の厚かましさから、速水は歌詞を一つ二つ間違えても平然とそのまま歌う。
却って失敗がバレないので、都合がいいかもしれなかった。

「もうちょっと歌い込めば大丈夫だろ」
「お、合格点が出たな」

田口の言葉に速水はカラリと笑った。
速水の無邪気な反応に、田口もつい微笑を浮かべた。

「問題はデュオだよなぁ」
「兎に角歌ってみようぜ」
「…………おう」

田口の返事は尻すぼみになる。
速水はニヤリと笑った。

「何だよ、女パート歌うのがそんなイヤか？」
「イヤってワケじゃ…………」
「練習だろ、練習。それに、一昔前の歌謡曲じゃないんだからいーじゃねえか」

速水の言う「一昔前の歌謡曲」を思い出して、田口は苦虫を噛み潰したような表情になった。
それはとってもイヤだ。
田口を一頻りからかうと、速水は楽譜で軽く田口の頭を叩いた。

「ほれ、始めるぞ。時間は貴重なんだ」
「解ってるよ」

そして、同じ1分間でも、田口より速水にとっての方が貴重だろう。
田口は溜息を一つ吐くと、オーディオを回し始めた。