~ 島津 ~
「本命を横から掻っ攫われたりするんですよ」
言ったなぁ、と思った。
まあ同感ではある。そもそもグズグズしている速水が悪い。
唸る速水には悪いが、心の軍配は彦根に上がっていた。
「帰る」
暫く彦根を睨みつけていた速水だったが、結局その場で暴れ出すような真似はしなかった。この件に関しては速水の分が悪い。
吐き捨てるように呟くと、ごちゃごちゃの雀卓をそのまま放置して雀荘の外へ出ていった。
「え、えぇっ、速水っ?!」
慌てたのは寧ろ田口だった。
二転三転する事態についていけていない。
出ていく速水の背中を目線が追いかけ、それから彦根を伺い。彦根の顔が冷めているのを見て、今度は俺に救いを求めてきた。
俺は溜息を一つ吐いた。
「行灯、行ってやれ」
「え、でも」
田口が躊躇するのも当然だろう。
あれだけ怒りを撒き散らす男に近付くのは俺だって嫌だ。暫くそっとしておけば理性も戻ってくるだろうと思う。
だが。
「いいから。お前じゃなきゃ駄目なんだ」
速水の全ては田口次第なのだ。この場で怒りをやり過ごしたところで同じである。
それなら、直接二人をぶつけてしまった方がいい。
俺の言葉に田口は僅かに迷ったようだが、一つ頷くと雀卓の間を抜けて外へ出ていった。
「追いつけますかね」
「どうだろな。速水の急ぎ足は競歩並みだ」
比べて田口の方は、小走りで速水並みというところだろう。
彦根の心配も尤もだったが、そればかりは運任せというしかなかった。
そして俺は彦根の顔をじっくりと見た。
まず出てくるのは溜息だ。
「何だってお前、そうあの二人を引っ掻き回すんだ?」
「お言葉ですがね、島津先輩。諸悪の根源は速水先輩にあるんですよ」
確かに、全ての原因は速水の中途半端な態度にある。
田口のことが好きだが隠しておきたい。
その気持ちが、彼女を作っては邪険にして別れ、田口に「遊び人」と思われては腹を立て、田口の恋の噂に嫉妬しつつも文句も言えないことに繋がっている。
想像するだけでフラストレーションの溜まりそうな話だ。よくあの気の長くない男が耐えている。
「お前が事態を引っ掻き回すのは、また別の問題だろうが」
そっとしておけばよいものを、何を好き好んで速水を突こうとするのか。
俺にはそこのところがさっぱり解らない。
あんな形相の速水が見たいのだとしたら、彦根のヤツは相当なマゾなんではなかろうか。
俺の呆れた声に、彦根はにっこりと笑った。
「僕は地上の楽園を探しているんです」
「は?」
何だその、似非宗教家のような、嘘くさいセリフ。
勿論、彦根流の冗談だったらしい。
笑顔にひょいと苦笑を混ぜて、それから彦根はゆるりと笑った。
極悪人の笑顔ばかりのヤツだと思っていたが、その表情は意外なほど柔らかかった。
「田口先輩が笑ってくれれば、ちょっと幸せな気になりますから」
速水の態度がおかしい、だから田口もぎこちない。
それなら速水から矯正してやればいい、という理屈か。
それにしても荒療治だ。
「それであの二人が壊滅的に仲違いしたら、どうする気だ?」
「大丈夫ですよ、島津先輩。田口先輩ってホントにいざって時は絶対勝つんですから」
彦根は自信たっぷりに言い切った。
俺も何となくその通りだと思う。
どうやら神様は、肝心な時は速水よりも田口を贔屓にしているようなのだ。
今回もそうであればいいと思った。
「本命を横から掻っ攫われたりするんですよ」
言ったなぁ、と思った。
まあ同感ではある。そもそもグズグズしている速水が悪い。
唸る速水には悪いが、心の軍配は彦根に上がっていた。
「帰る」
暫く彦根を睨みつけていた速水だったが、結局その場で暴れ出すような真似はしなかった。この件に関しては速水の分が悪い。
吐き捨てるように呟くと、ごちゃごちゃの雀卓をそのまま放置して雀荘の外へ出ていった。
「え、えぇっ、速水っ?!」
慌てたのは寧ろ田口だった。
二転三転する事態についていけていない。
出ていく速水の背中を目線が追いかけ、それから彦根を伺い。彦根の顔が冷めているのを見て、今度は俺に救いを求めてきた。
俺は溜息を一つ吐いた。
「行灯、行ってやれ」
「え、でも」
田口が躊躇するのも当然だろう。
あれだけ怒りを撒き散らす男に近付くのは俺だって嫌だ。暫くそっとしておけば理性も戻ってくるだろうと思う。
だが。
「いいから。お前じゃなきゃ駄目なんだ」
速水の全ては田口次第なのだ。この場で怒りをやり過ごしたところで同じである。
それなら、直接二人をぶつけてしまった方がいい。
俺の言葉に田口は僅かに迷ったようだが、一つ頷くと雀卓の間を抜けて外へ出ていった。
「追いつけますかね」
「どうだろな。速水の急ぎ足は競歩並みだ」
比べて田口の方は、小走りで速水並みというところだろう。
彦根の心配も尤もだったが、そればかりは運任せというしかなかった。
そして俺は彦根の顔をじっくりと見た。
まず出てくるのは溜息だ。
「何だってお前、そうあの二人を引っ掻き回すんだ?」
「お言葉ですがね、島津先輩。諸悪の根源は速水先輩にあるんですよ」
確かに、全ての原因は速水の中途半端な態度にある。
田口のことが好きだが隠しておきたい。
その気持ちが、彼女を作っては邪険にして別れ、田口に「遊び人」と思われては腹を立て、田口の恋の噂に嫉妬しつつも文句も言えないことに繋がっている。
想像するだけでフラストレーションの溜まりそうな話だ。よくあの気の長くない男が耐えている。
「お前が事態を引っ掻き回すのは、また別の問題だろうが」
そっとしておけばよいものを、何を好き好んで速水を突こうとするのか。
俺にはそこのところがさっぱり解らない。
あんな形相の速水が見たいのだとしたら、彦根のヤツは相当なマゾなんではなかろうか。
俺の呆れた声に、彦根はにっこりと笑った。
「僕は地上の楽園を探しているんです」
「は?」
何だその、似非宗教家のような、嘘くさいセリフ。
勿論、彦根流の冗談だったらしい。
笑顔にひょいと苦笑を混ぜて、それから彦根はゆるりと笑った。
極悪人の笑顔ばかりのヤツだと思っていたが、その表情は意外なほど柔らかかった。
「田口先輩が笑ってくれれば、ちょっと幸せな気になりますから」
速水の態度がおかしい、だから田口もぎこちない。
それなら速水から矯正してやればいい、という理屈か。
それにしても荒療治だ。
「それであの二人が壊滅的に仲違いしたら、どうする気だ?」
「大丈夫ですよ、島津先輩。田口先輩ってホントにいざって時は絶対勝つんですから」
彦根は自信たっぷりに言い切った。
俺も何となくその通りだと思う。
どうやら神様は、肝心な時は速水よりも田口を贔屓にしているようなのだ。
今回もそうであればいいと思った。
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