フラレた理由が「カノジョの誕生日をドタキャンした」となれば、大方は納得するだろう。
速水にも言い分はあるのだ、そもそも、祝うつもりはあった。
シフトの都合を問われた一カ月前にはきちんと覚えていて、休みの申請もしてあった。
しかし速水の都合を考えないのは搬送されてくる患者の方である。
「呼び出しが入った瞬間にカノジョ放置したなら、結果は同じだろう」
「同感。しかも詫びも無しの上、サ店の支払いもしなかったんだって?」
「ちょっと待て、何で行灯がそこまで知ってる」
「兵藤が面白可笑しく教えてくれた。正しかったみたいだな」
島津、そして田口と、同期の男友達は言葉に容赦が無い。
そして事実の分、心に刺さる。
コール音と共に立ち上がり、報告を聞きながら待ち合わせの喫茶店を飛び出し、指示を出しながら病院へ戻り……その時にはカノジョのことはすっかり脳裏から抜け落ちていた。
思い出した時には、ディナーの予約もとうに無効だったわけだ。
「一月も前から予約入れたのによぉ……」
ついつい愚痴を零してしまう。
カノジョに喜んで貰うべく練ったプランがあっさり水泡に帰したのだ。
フラレたので尚更「無駄になった」感がある。
速水の無念も他人事の島津と田口は、不発に終わったデートプランに興味を抱いた。
「へー、そんなに人気のレストランだったのか?」
「それもあるけど、ワイン探して貰ったんだよ、誕生年の」
「うわぁ……気障……」
「るっせぇ」
速水の仕事のせいで我慢させる事の多かったカノジョに報いるつもりで、わざとらしい位に凝ったのだ。
あのワインは一体どうなっただろう。
何処かの誰かの誕生日に供されるのだろうか。
「ああ、もう! 暫くオンナは要らねぇわ」
「そうだそうだ! 仕事に生きろ、仕事に」
「取り敢えず呑め、呑め」
全てを振り切るように宣言すれば、無責任に島津が囃し立てた。
田口に酒を注がれぐっと飲み干せば、やんややんやの喝采が上がる。
速水の気分も向上してきた。
当分の間、気取った恋は必要なさそうだった。
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